6話

「ここは何処?」


 自分の部屋では無い、学校でも見慣れた街でも病院でもない場所を、クララは地面の起伏を確かめながら土の上を歩いていました。


 霧かモヤで見通しが悪く、むせぶ様な草木の生臭い匂いで密林の中に居ると気付きます。


 明るいから時間は昼だろうか、かつて経験した事が無い異常な蒸し暑さで意識が希薄な上に、イヤな胸騒ぎと悪寒に襲われ、彼女は足を早めました。



 何処まで進んだでしょうか?


 未だ広い場所へ抜けられない焦りが募ります、更に身体が重い気がしてふっと自分の身体を見ると、随分みすぼらしい姿に驚きます。


 肌は浅黒く、至るところアザや怪我をして血が滲み、余りの痛ましい姿にクララは戸惑います、


「私はどうしちゃったんだろう?」


 漸くクララはあることを思い出しました、クルンに変わって彼女の中に居るのだと。


 でもまだ合点が行きません、花の好きな愛らしいクルンに変わった筈なのに、この悲惨な状況は想像すらできませんでした。



 クララの病室は大騒ぎになっていた、先程彼女の容態が急変し母が呼んできたアスピン医師が容態を調べていた。


 医師の表情には焦燥感が滲む。


「原因が分からない!安定していたのに」


看護士が追い打ちを掛ける、


「心拍数急低下収まりましたが、その後も少しづつ下がっています」


 医師の頭の中は真っ白だったが、努めて冷静さを保ちながら、


「脳波は?どうした脳波計はどうなってる」


「振幅有りません、有り得ない」


 医療のプロ達が混乱する。


「機器の異常かもしれないICUへ移動、暫くフルサポートで」


 クララはベッドごと搬送されていく、


「先生娘は、クララはどうなるんです?」


「未だ何とも、今一度精密検査をします」


 マーヤは、母にすがって不安を露にした。


「お姉ちゃんどうなるの?」


 目に涙がたまっている、ハンナは娘を片手で抱きしめ頬擦りしてなだめる。


 間も無くクララはICUエリアに吸い込まれるように消えて、母妹の二人だけが不安なまま残された。

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