1話

「ママ!今お姉ちゃんが動いたよ」


 静かにベッドの上で呼吸をするクララに妹のマーヤの言葉に、母ハンナも期待したが主治医のアスピン先生は彼女は植物人間なので条件反射だと残念そうに言った。


 ”希望の灯火が一つ消えた。” 母と妹は落胆する。


 そう、クララは起きることはない。


 一年前に水難事故で救出された時既に心臓停止していて、緊急の心臓蘇生処置で命はとり留めたものの、脳に異常をきたしたのか目覚める事は無かった。


 それでも家族はきっといつか目を覚ますのでは無いか、という希望の灯火を心に、彼女と生きることを選んだ。


 そんなクララの家族は、父と母、妹。


 父エリック・アンデルは海洋資源開発の現場技師、北海での新油田調査で普段家を離れている。


 母ハンナは地元フラワーショップで働きながら、父の不在が多い中で娘二人の面倒を見ていた。


 妹マーヤはクララの4つ年下で7歳、家で絵を描いたり本を読んで過ごすのが好きな、朗らかでチョッとのんびり屋さん。


 そしてクララは11歳、聡明で活発な性格で幼い頃から自然に慣れ親しみ、特に海が大好きな子だった。


 と言うのは、両親がアウトドアが好きで海や、川や、山に行く機会に恵まれ幼い頃から、妹が野外よりも家で本などから学ぶのに対して、姉クララは積極的に自然から学ぼうとするアウトドア派だった。


 それにクララは、物心ついてから父の背中を見て育ったせいか、彼の仕事に憧れて将来海洋技師になりたいと願っていた。


 彼女の住む街は決して海に近いわけではないけれど、休みになると決まって海へ行きたがって、初めは父や母と一緒で、8歳の頃には独りで行けるようになり、妹を同行した時も面倒見よく何事も無かったので、両親は彼女をすっかり信頼していた。


 その中で悲劇は起こり、彼女は目を覚まさない眠り姫になったのだった。

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