第27話 もう一度【楠見夏貴】

 少し、長い話になるけど聞いてもらえますか。…私が中学のころも放送部だったのはみんな知っての通りです。

 だけど、実は自分から入部した訳じゃなくて誘ってくれた友達が居たんです。中学のころは今より少し人見知りで、なかなか友達が出来なかった私の大事な友達でした。


 彼女が放送部に誘ってくれたおかげで、私は徐々に友達も増えて、学校で楽しく過ごせるようになりました。放課後、なんとなくみんなで入り浸っていた放送室は、楽しくて、居心地がいい、大切な場所になりました。

 そんな風に思い入れが強くなるにつれ、自然と大会にも熱が入るようになったんです。負けず嫌いなのは今も昔も同じだったので。彼女は大会の勝ち負けには無頓着だったけれど、私が練習するのにいつも付き合ってくれました…。

 ありがちな話しだけど、そうしているうちに彼女の方がどんどん上手くなっていったんです。勝ち負けなんか気にしてないと笑いながら、私よりも良い成績を残すんです。当時の私はそれがどうしても許せなくて、悔しくて、だんだん彼女と距離を置くようになりました。


 そして、中学での最後の大会。私は今度こそ、と戦地に赴く兵士ような気持ちで会場に向かいました。

 けど、その気持ちは長くは続かなかった。発表順が悪かったんですよ。彼女の発表を先に聞いてしまったんです。それを聞いた瞬間、私は愕然としました。澄んでいて、それでいて良く通る小鳥のような声。私の知らない彼女が、そこには居ました。

 絶対に勝てない。そう思ってしまったんです。そう悟ったら、壇上に登るのが怖くて怖くて仕方がなくなって。…そして、私は逃げた。

 ホールを飛び出しました。でもまあ、ここまではまだ良いんです。私が、心の狭くて情けない奴ってだけのことだったから…。

 問題はその後でした。


 発表の時間が迫っても戻ってこない私を、みんなで探していたんでしょう。会場の隅でふてくされているところを、彼女に見つかってしまいました。

 そして彼女は言いました。どうして?早くもどろうよ、あんなに頑張ってた夏貴ちゃんなら絶対入賞出来る!私が保証する、と。

 その言葉に、私はキレた。彼女に保証なんてされたくなかった。絶対ってなに?さっきあんなに実力の差を見せつけておいて。嫌味?入賞は出来るのかもしれない、でも、あんたには勝てない!ずっと感じていた彼女に対する劣等感や嫉妬に任せて、酷い事をたくさん言ってしまいました。

 そうして全部ぶちまけたあとに見た彼女の顔は、今でも目に焼き付いています。

「ごめんね、私馬鹿だから夏貴ちゃんの気持ち、全然気付けなくって」

 あんなに悲しそうな笑顔、私はほかに知りません。私は怖くなって、勢いそのまま1人で家に帰りました。その後、彼女はその大会でベスト3に入賞したそうですが、全道大会を辞退して、部活も辞めてしまったそうです。

 私も、卒業まで一度も放送室に行くことはありませんでした。部活に行かなくなって、クラスが違う彼女とは接点がほとんど無くなりました。もともと大会が終わったら、3年生は引退して受験に専念することになってたので、それでも問題がなかったんです。

 私は受験勉強に没頭することで彼女から目を逸らし続けました…。


 これで、全部です。私は自分勝手なプライドや嫉妬で大切な友達を傷つけた。しかもそのせいで彼女の才能まで取り上げてしまいました。

 どうしても謝りたい。だけど、弱いままの私じゃダメなんです。彼女と向き合えなかった、ライバルとしてすら立てなかった私の弱さを克服しないと、きっとまた傷つけてしまう。

 強くなるためには、今度こそ、どんなに怖くてもここで逃げるわけにはいかないんです。

 だからどうか、私にもう一度チャンスをください…!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る