第19話 お前はちっともわかってねーよ【道家雄二郎】

「あー、ちくしょう!」

 もう5月末とはいえ、北海道の夜はまだまだ冷える。ようやく雪が無くなり自転車に乗れるようになってきたところだ。

 俺は家に帰る気にもなれず、どこを目指すでもなく乱暴にペダルを踏み続ける。白い息が吐いた端から後ろへと流れていく。

 結局、藤城は放送室に戻ってこなかった。下校時間ぎりぎりまで粘ってみたけれど無駄だった。ことの顛末を話すと、日野先輩はため息をついて、

「結構よくあることなのよね…。ごめんね、私たちも注意不足だった。藤城君には私から話してみる。きっと大丈夫よ」

 と請け合ってくれた。俺を励ますためか、場違いに明るい笑顔だった。

 俺は藤城とのやりとりが尾を引いて、その笑顔に対してろくな返事も出来ずに俯いていた。なんでこんな事になったのか。理不尽な出来事に対して俺はすっかり拗ねていた。

 俺は何も悪いことはしてない。先輩の言う通り大会の準備をしていただけだ。しかも八代先輩と秋葉と三人で作業をしてたんだ。データを消したのは俺じゃなくて先輩だったかもしれないし秋葉だったかもしれない。それを俺だけが悪いみたいに言いやがって、藤城のやつ。

 思い出して、むしゃくしゃしてきたところで急な上り坂にさしかかる。怒りを足に込め、ガシガシとペダルを踏んで噛み付くように坂を登る。足は見る間に重くなっていくけど、途中でやめるのは負けな気がして無理矢理登りきった。

 息があがる。吸い込む空気が冷たい。Yシャツが汗で張り付いて気持ち悪い。

「はぁ、なにやってんだ俺…」

 今度はゆるやかな下り坂を蛇行しながら降りていく。夜風に吹かれて頭も少し冷えてくる。

 藤城の気持ちは、わかる気がするんだよ。この一ヶ月慣れない作業に慣れない仲間を引っ張って、やっとの思いでここまで来たんだ。それが全部無駄になるかもしれないなんて、そりゃ誰だって怒るさ。それくらいわかる。

 だけどお前はちっともわかってねーよ。それを完成させたいのは、もうお前だけじゃないんだよ。嫌々お前の撮影に付き合ってきたわけじゃない。俺なりにちゃんと手伝おうと思ってたんだ。そりゃ撮影中ふざけた事もあったし、演技もうまく出来なかったけど、それでも、それでもさ。なのに。

「やってらんねー」

 がむしゃらに自転車を走らせたせいで、家に帰った頃には汗が冷えてすっかり身体は凍えていた。

 そのせいかは知らないけど、次の日俺は風邪で学校を休むはめになった。

 断じてサボりではない。

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