第11話 日誌を書きながら【秋葉文乃】

 最近、八代先輩と会えない。昼放送のローテーションが合わないのもあるけど、放課後に放送室行っても居ないんだもん。先輩が居ないと、なんで放送室に来るんだかわかんなくなる。

 どこで何してるんだろうなー。直ぐにアドレスとかLINEとか聞いとけば良かった。私の馬鹿っ。


 勢いで放送部に入部したのは良いものの、この部活の何が楽しいのか未だによくわからなかった。放送機材にもアナウンサーにも特に心惹かれない。今、他の一年生や先輩はスタジオで発声練習をしているけど、別にもう義務じゃないっぽいから私はやらなくていいや。楠見さんには睨まれるかもしれないけど、それくらい別にどうってことないし。

 うちの部は基本的に放任主義で自由な雰囲気だから先輩方は何も言わないもんね。でも何もしないのも気が引けるから、私はミキサー室の机で放送部の活動日誌への記入を始める。

 日誌は、その日の活動内容や参加メンバーを記録しておくためのものだ。これは誰が書くものということは特に決まっていないらしく、気づいた人が気づいた時に書いている。

 見た目はただのノートで、表紙に太いマジックで”活動日誌 vol.65”と書いてあった。部の設立当初からずっと続けてきたらしい。そのうち、過去の日誌を見てみるのも楽しいかもしれないなぁと思ってる。

 記入するのは主に日付、参加者、活動内容、所感、の4つだ。えーと、今日の参加者は秋葉、楠見、三吉、藤城、日野先輩、榊先輩っと。道家はまだ来てないよね。八代先輩も…。活動内容は、発声練習、滑舌とミーティングっと。そう、今日はミーティングがあるんだった。なんか大会?についてらしいけど、そもそも放送の大会ってどんなのか全然想像つかない。大変じゃないと良いなぁ…。


 日誌に書く事は早々になくなってしまい、私はぼーっとノートの罫線を眺めていた。考える事はひとつだ。

 あーぁ、先輩は今頃何してるんだろうなぁ。まさかデートとか!?うぅ、こんな風に考えちゃうのも、こないだ楠見が嫌な事言うからだ。こっちが盛り上がってるのになんであんな言い方するかなぁもうっ。あの子とは、多分これから先も絶対仲良くなれない。

 だけど、言ってる事は確かに一理ある。八代先輩だったら彼女が居ても全然おかしくない、というか居ない方が不思議なくらいだし。…彼女、居たらやだなぁ。略奪愛なんて無理だし、諦めるしか無くなっちゃうじゃん。付き合えないのに好きでいるなんて考えられないしさ。やだなぁ…。あー、もう!やめやめっ、こんなネガティブなことばっかり考えちゃダメだ。彼女いるかどうかは置いといて、今は少しでも先輩に近づけるように頑張るしかないよねっ。うん、そうしよう。

 と、気持ちを切り替えようとしたタイミングで日野先輩から号令がかかった。

「秋葉さーん、ミーティング始めるわよー」

「あ、はーい」

 スタジオに行くと、いつも通り日野先輩の仕切りでミーティングが始まった。

 放課後の放送室は、夕方になるにつれて日が当たるようになっている。日差しがぽかぽかとあったかい。私は日野先輩が大会について解説するのを聞きながら、ついウトウトとしてしまった。直ぐに隣の三吉さんが起こしてくれたけど、一瞬夢で先輩に会えた気がしてちょっぴりラッキーだった。

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