第3話 熱意は空回りするばかり【楠見夏貴】

 高校ではまた放送部に入るんだ!と意気込んでいたものの、北葉高校放送部は私の期待を裏切るゆるい部活だった。

 新入生歓迎会で日野先輩の声を聞いたときは、ここに来て本当に良かったと思ったのに。いざ入ってみると、3人いる先輩の中でアナウンサーをやっているのは日野先輩だけで、残りの2人、2年生の榊先輩と八代先輩は”技術部”らしい。

 この放送部では、部員を希望に合わせて2つの部署に分けているそうだ。マイクに向かって喋るのが主な仕事になる”アナウンス部”と、校内放送の音量や音楽をコントロールするミキサー卓やマイク、大会用のカメラなど機材周りを担当する”技術部”だ。

 でも実際には、部員が3人しかいなくなってしまってからは必要なことは全員でやっているみたいだ。


 私は当然、アナウンス部に入る。入って、大会出場を目指す。ひとりでも頑張るつもりだけど、三吉さんや他の人達はどうなんだろう。そういえばまだ仮入部期間だっていうし、入部するかどうも確定じゃないんだっけ。三吉さんはいい子そうだし、一緒に頑張れたら良いんだけどな。藤城はどうだろ、どっちでも良いけど入るとしたら機材をよく見てるから技術部かな。あとの2人、ええと、道家だっけか?あの軽そうな男子はあっちこっちの部活を見て回ってるみたいだからまだ入るかは微妙。同じクラスの秋葉さんは、ちょっと苦手。ああいう、いかにも女子ってタイプとは昔からそりが合わないことが多かったから。

「じゃあ、楠見さん次の文読んで」

 急に名前を呼ばれて、はっとした。そうだ、今は現国の授業中だった。私は素直に聞いてなかったことを白状する。

「あー、えーと、すみません、何ページでしょう」

「11ページ。春眠暁を覚えずって言うにはまだちょっと寒い季節だぞ。ちゃんと聞いてろよー」

「...すみません」

 寝てたわけじゃないのに、くそ、現国の三田村め。いや、私が悪いんだけどさ。さっさとこのページを読んでしまおう。


 授業の終わりを告げるベルが鳴る。私のいた中学とは違う音だった。このベル、学校ごとにオリジナルな音だったりするのかな?なんてどうでも良い事を考えていると、クラスの子たちにお昼を誘われた。女子の習性は高校でも健在らしく、机をくっつけてそれぞれのお弁当を広げる。あまり中学と変わらない。

「楠見さんて、部活とかはもう決めたー?」

「放送部だよ」

「放送部?お昼の放送とか?」

 ピンポンパンポーン♪ちょうどいいタイミングで呼び出し放送がかかった。理科の芹沢先生が職員室に呼ばれている。

「まあね。こういう呼び出し放送とか。他にも大会とかいろいろあるけど」

「すごーい!じゃあ、そのうち今みたいな放送もやるんだね」

「うん、やると思う。今のは、先輩の声だったし」

「すごい!声だけでわかっちゃうんだ!」

 先輩でアナウンサーやってるの1人しか居ないからね。それにしても、やたらと「すごい」を連発する子だ。私はちょっと面倒くさくなってきた。曖昧に笑って、さりげなく話題を逸らす。

 早く放課後にならないかなぁ。

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