第26話 狩猟惑星
ドラゴンは怪物である。
怪物という存在は『SF』なのか。
それとも『ファンタジー』なのか。
という問題は地球人が生まれるより前から議論されてきた永遠の謎だが、最近では空を飛ぶドラゴンは『ファンタジー』に属する怪物であると認識されることが多い。
つまり、今小生の頭上で口から火球を連射しているドラゴンは『ファンタジーモンスター』であると結論付けられる。
だが、この惑星は全宇宙からハンター(世紀末じゃない方)が集まってくる『狩猟惑星』なので、どう考えても『ファンタジー』的な世界では無いのである。
よって、この空を飛びながら火球を連射しているドラゴンは『SFモンスター』ということになる。ややややこしいが、いつものことである。やややや。
さて、後は『モンスターをハントしているのか?』。それとも『モンスターにハントされているのか?』という現実的な問題を考えなくてはならないだろう。
前者は『モンスターハント(SF)』だが、後者は『パニックムービー(SF)』になってしまう。特徴としては後者の方が登場人物が弱い傾向にあり、当事者としてはわりと死活問題である。
果たして一方的に攻撃されている小生たちはどちらの存在なのか?
実に面白い……ような気がするかもしれない。
まあ、SFでモンスターが出てくるのはたいてい『パニック系』なのだが、ミステリーファンの一員としてはそんな先入観に囚われてはいけないと思う次第である。
もっともその考え方も先入観であり、メビウスの輪のような抜け出すことが出来ない『ミステリージレンマ』だったりする。恐るべしミステリー。
と驚嘆してみる今日この頃の小生、いかがお過ごしでしょうか?
今日も空にはドラゴンが飛んでいる日和です、まる。
「貴様も戦え!」
そう小生に向かって発言したエルフ(男)に火球が直撃。
燃えながらごろごろと転がるが、狩猟防具を着ているので無事だった。
「無念! この刀さえ届けば!」
サムライ女も火球で吹き飛ぶ。
刀で切っても爆発するのである。
「ワシの作った無限エネルギーロボを使えるならばこんな窮地など!」
悔しがるハカセだが、そのロボが爆発する未来しか見えてこないのである。
もちろんハカセも火球で吹き飛んだ。
そもそもこの『狩猟惑星』では現地で作られた武器しか使用できない仕様なのである。よく分からない理屈だが、SFではよくあることなので納得するしかない。謎のパワーが謎の防御で謎の理論というわけだ。
というわけで、SF装備も魔術も忍術もその他もろもろを使用できない仕様なのである。小生ピンチ。ついでに人工知能も今回ばかりは役立たずで――ちゅどーん!
宇宙から放たれたビームが小生をピンポイントで吹き飛ばす。
だが、小生も狩猟防具を着ているのでSF兵器の攻撃は効かないのであった。
まあ、宇宙からピンポイントで直撃させる技術を恐れるべきだろう。
他の惑星だったら小生死亡である。ピンチどころの騒ぎではない。
SF恐るべし。
そんな小生と人工知能さんがほのぼの(改稿:殺伐です)としたコミュニケーションをとっている間も、ドラゴンさんはずっと火球を吐き続けていた。
恐るべき持久力である。何とかの法則によりエネルギーはうんちゃらかんちゃらなので、あのドラゴンはずっと火球を吐き続けることが出来ないはずなのだが、まだまだ元気に火球という名の吐瀉物を吐き続けているという現実。
これがゲームならバグを疑うところだが、今小生が見ている世界が小生の頭の中にしか存在しない幻覚では無い限りは現実であると推測。
結論『現実はバグゲーである』
これはさっきから火球を撃たれ続けているのに、地面に穴一つ出来ないという事実からも理解できるだろう。おそらくそこに『SFの真理』が隠されている気がするが、三秒考えて気のせいだったことに気付く。餡蜜食べたい。
さすがは悪名高きヘロンペラン星人が作った殺戮マッシーンである。実は『ファンタジー』ではないので、あのドラゴンは宇宙人が作った生体兵器だったという驚愕ではない事実。暗黙の了解というやつである。残念ながら餡蜜ではない。
簡単に言えば『ハカセが作ったメカが正常(設計通り)に動いているような兵器』であると認識すればいいだろう。ハカセの作ったメカは正常に動かないからこそ正常なのである。それが正常に動いていては、世界にとって物凄く迷惑なのだ。
以前、惑星連合主導で撲滅作戦が実施されたのだが、数が少なくなると生存本能により超パワーアップする謎の機能があるということが判明し、それ以降この惑星に封印されているのである。
それでも放置しておくと無限に増殖するので、たまに退治する必要があり、金目当てのアウトローな連中が送り込まれるという仕組みになっている。今回はそれが小生たちなのだ。
残念ながら世界最強の作戦『エネルギー切れ待ち』が使えないようなので、そろそろ反撃に移りたいのだが、白状すると小生の持つ狩猟武器『バイオリン』では敵を攻撃できないという致命的な欠陥が発覚してしまったところだった。
仲間の回復とか強化は出来るのだが、これで敵を叩いたところでノーダメージである。さっきから一人で安全地帯に逃げているのもそのせいだったりするわけで。
つまり、一人だけサボっているわけではないのだ。
エルフ(男)の発言は風評被害なのである。
ので、小生は今一生懸命演奏中なのだが、そもそもバイオリンを弾いたことが無いという更なる欠陥が発覚。三味線ならば弾けるのだが、残念なことに選べる武器に三味線は無かった。洋風なのである。
ならば、最後の手段に取っておいた『撃墜ボール』という当たれば空から落下するという謎のボールを投げ付けたのだが、ちょうど飛んできた火球に当たって綺麗に燃え尽きた。無念。これではあるあるネタにである。あるある。
申し訳ないと仲間に詫びつつ、小生はバイオリンを引き続けることにした。
ぎーぎー。
このままでは全滅してしまうという本気のピンチ。これがアニメならばそろそろ走馬灯の時間ですよーという展開。そのぐらいピンチであった。
だが、小生はぎーぎーとなるバイオリンに天啓を得た。
ので、大きく息を吸った。
「――――!」
それは全てを破壊する力。
見える敵を一撃で葬り去る才能。
つまり、『殺人的音痴』である。
ただの音の塊がドラゴンを落下させ、どんな兵器よりも怪物を苦しめる。
いや、ただの音だからこそ謎の防御でも防ぐことが出来ない。まさに裏技である。
まあ、小生の仲間も苦しんでいるが、それはそれということで。
『戦いには犠牲がつきものだ』
と偉い人も言っている。もっともそれを言う人間が犠牲になることは少なく、今の小生と同じく信用してはいけない。小生は自分の音痴で被害を受けないのである。
しかし、それでも小生たちは『モンスターハント』を達成させなければならなかったのだ。例え犠牲が出たとしても、それを成す義務があった。それこそ魔王を倒す勇者のように。
なぜなら、今の小生たちは『魔王(借金)を倒す(返す)勇者(債務者)』なのである。
三日後、爆発したSF酒場は復活した。
めでたしめでたし。
<SFでもお金は大事だよの巻>
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