第25話 SF酒場

 宇宙船に乗って遥か彼方の銀河系まで逃亡した小生は、そろそろ情報収集をするために近くの宇宙港へと立ち寄ることにした。


 けっして『ゾンビ事件(前回参照)』のせいではないのでご注意ください。宇宙船の方が危険だなんて、微塵も考えていないのである。即行上陸。


 もちろんここが遥か彼方の銀河系にある宇宙港だとしても、小生の辞書に油断の二文字は無い。安全と思っている素人から死んでいくのが『ホラー界』の常識なのである。まあ、ここは『SF界』なのだが、細かいことを気にしてはいけない。


 まず小生がすべきことは、誰にもバレない様に変装することである。

 SF芸能人が変装していても、SF週刊誌にスクープ写真を取られたりするが、あれは中途半端な変装をしているからに過ぎない。


 真の変装というものは、例え写真に取られたとしても、本人とは気付かれないものである。ぷしゅー。


 今の小生を見て、小生と気付く者はいないだろう。

 それほど完璧な変装なのである。多くの変装者がそれを身に付けていたという伝説の変装。その歴史は『ダンボール』という完璧な変装よりも古い。ぷしゅー。


 すわなち『マスク(仮面)』である。


 それも顔の一部を隠すというケチなマスクではない。『なんで気付かないんだ!』というSFツッコミすら完全防御。宇宙空間でも呼吸が可能になるという便利な『SF仮面』なのである。もし親族に出会ったとしても、絶対に気付かれることはないだろう。ぷしゅー。

 

 黒い仮面に黒いマント。

 宇宙とは黒であり、SFとは黒。

 すなわちここに最強の暗黒騎士が誕生した……という設定である。ぷしゅー。


 これならば例え写真を取られても小生と気付かれることなく、『あ、暗黒騎士がいる!』と怯えられるだけで済むだろう。唯一の欠点は『ぷしゅー』という呼吸音が出ることだけだが、そのぐらいは小さな問題ぷしゅーである。



<以下の文章から呼吸音を削除します by 人工知能>



 さて、SFでの情報収集と言えば、かの有名な『SF酒場』であろう。SF界の様々な種族が集いし、ファンタジー界に置ける『ルイーダの酒場』に匹敵する知名度を誇る場所。『ザ・SF』という称号をあげてもいいぐらいの存在感がある。


 一度その扉を潜れば、人間の形が宇宙という広大な場所では何の意味も無いということを思い知ることだろう。肌の色の違いで差別することの愚かさを悟り、人類が辿り着くべき思想の果てを垣間見ることができる、という素晴らしい場所だった。


 小生は気分上場でSF酒場の扉に開ける。

 もしかすると『SFの本質』というものがここにあるのかもしれない。

 第六感的なナニカを感じながら、ただ感じるままに行動することにした。


 SF酒場の中ではエルフとドワーフがお互いを罵りあい、ヒューマンの吟遊詩人が勇者の歌を歌い、ホビットとハーフリングが陽気に踊っていた。リザードマンとミノタウロスが殴り合いのケンカを始め、妖精が空を飛びながらゲラゲラと笑う。


 小生はSF酒場の扉を閉めた。

 感じたナニカというのはどうやら『ファンタジーの香り』だったらしい。


 周囲を見渡すが、異世界(ファンタジー界)に召還されたわけではないようである。異世界への扉は猫にでも見つけられるぐらい多いので、油断してはいけない。


 お風呂に入ろうとしたら異世界だったという『全裸異世界拉致事件』の教訓を人類は忘れてはならないのだ。あれは全人類が異世界の脅威に気付いた瞬間であったが、今は関係ないので割愛。

  

 小生が異世界に召還されたのではないならば、『SF酒場にファンタジー界の住人がいる』というややこしい状況らしい。もっとも彼らはファンタジー界の住人ではなく、SF界のファンタジー住人なので、もっとややこしい状況なのだ。


 正確に言えば『自分たちの力で宇宙に進出したファンタジー界の住人』という分類である。しかも『惑星連合』を成立させた初期種族なのだから、これまたややこしい話だった。


 ちなみにエルフ先輩は『異世界からSF界に留学しているエルフ』なので、いちおうファンタジー界に所属しているエルフである。


 もっとも、過去に小生と宇宙で暴れたという経歴の持ち主なので、すでにファンタジー界から除籍されている可能性もあるが、今はどうでもいい話だった。


 さて、どうしたものか。

 確かにここはSF酒場なのだが、見た目はファンタジー酒場である。


 見た目がファンタジーなら、『それはもうファンタジー界ではないか』という疑問が浮かび上がってくるが、彼らはSF界の住人であるため、間違いなくここは『SF界』なのである。


 逆にファンタジー酒場にリトルグレイやタコ型火星人などがいたとしても、それは『ファンタジー界』なのである。


 なので、小生は気にすることなく、再びSF酒場の扉を開けることにした。 

 店の中に入ると、周囲の視線が小生に集中する。完璧なSF変装なのに、逆に浮いているという悲劇。完璧と認めた時点で完璧ではないというパラドックスに陥る。実にSF的な悩みではなかろうか?


『TPOは大事だよ』というヤマグチくんの教えを思い出す。

 だが、そんな彼は『全裸こそ人のあるべき姿である』という信念を見出し、『全裸教』という宗教を立ち上げたので、あまり当てにならないかもしれない。


 宇宙空間を全裸で活動する方法を発見した偉大な天才の一人なのだが、小生は魔術で宇宙空間を自由に動き回れるため、彼とは絶縁状態なのであった。


 全裸よりはマシだろう、と小生が一歩足を踏み出した瞬間、店内にいたエルフ(男)の一人が小生に向かって光線銃を発射した。がちょーん!


 小生、瞬時にライトサーベルを抜刀。ビームを弾いたら、天井に穴が開いた。小生を睨む店主。小生がビームを弾かなければ天井に穴が開かなかったわけで、つまり小生が天井に穴を開けた張本人なのだが、これを小生のせいにするのは法律的にどうなのだろうか、と考えていたら、またビームが飛んできたので、弾いたら再び穴が開いた。小生を睨む店主。


 このままでは小生が修理代を払うはめになってしまため、撃ってきたエルフに責任を押し付けようと『名を名乗れ!』と誤魔化すように叫んでみた。店主の視線がエルフの方へと移る。成功。


 エルフ曰く、


「貴様は暗黒騎士団の生き残り。今こそ我が弟の仇を討つ」


 という話らしい。

 

 小生は暗黒騎士団の生き残りではないので、恐るべき勘違いなのだが、小生が変装に使用している装備は、暗黒騎士団から頂戴した物なので、完全に間違っているわけではない。この辺りもけっこう複雑であった。


 そんな装備で変装している小生も悪いのだが、きちんと確認しない向こうも悪い。復讐するときは、きちんと事実関係を確認しなくてはならないのである。


 今までどれだけの復讐者が『間違えました』と謝ったことか。

 間違えましたで済んだら、SF警察は要らないのである。蘇生させるのだって難しいのだ。失敗すると灰にはならないが、ゲル状になってしまうのである。


 ゲル状になりたくない小生は『話せば分かる』と停戦を申し出たのだが、『問答無用』と断られた。この文言は呪いの言葉のようなので、次からは使用を控えよう、と思った。


 助けを求め周囲を見渡すと、サムライ女が『拙者が手助けしよう』とエルフサイドに加勢した。なんでやねん、と小生が宇宙語でツッコミを入れていると、店主が勝敗の賭けを始め、小生の生死に値段が付くという野蛮人発想。SF文明人としての誇りはどこに消えた、と嘆いていると、天井の穴からハカセが現れた。


 その後いろいろあって、酒場は爆発した。


<SF爆発オチ>

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