第22話 宇宙にて
ふと、ある考えが脳裏を過ぎる。
肉体が栄養を吸収するように、脳が徐々に『それ』を理解していく。
時間をかけて『それ』を理解した瞬間、世界そのものが歪むような眩暈を感じた。
くらくら。
ぐらぐら。
これはまさに世紀のSF大発見。
SF史の残るであろう偉業。
自分で自分の考えが恐ろしい。
SF界はこの事実で、更なる混乱に巻き込まれるかもしれない。
だが、それでも。
それでも真実には価値があるのだと、思いたい。
今ここにその真実を発表しよう。
多くの人間が気付かなかった深遠の英知を。
それは、
『宇宙海賊が出てくれば、それはもうSFである』
ばばーん。
見よ、この完璧な理屈を。
「完璧な馬鹿ですね、QED」
ふっふっふ、この発見を馬鹿にしかできないのが、人工知能の限界である。人の脳はもっとファジーにできているのだよ。てけとーとも言う。
「理論的に完璧な私の人工知能が見出した結論は、宇宙海賊はSFではありません。宇宙海賊が出てこないSFも存在します」
ふむ、正確に言うならば『宇宙海賊』=『SFの一部』という公式だろう。宇宙海賊が出てこないとしても、『アポロ13』がSFではないということではない。あくまでも『一部』なのである。
この公式の肝は『宇宙海賊が出現するぐらい文明が発達しているならば、それはSF(の一部)である』という理屈なのだよ、ワトソン君。
「残念ながらワトソン99世はこの前、お亡くなりになりました。ワトソン100世は女性なのでワトソンさんです」
それは驚愕の事実だが、今回の話とはまったく関係ないのである。
後でSFニュースをチェックしてみよう。
さて、話が少しそれてしまったが、小生が言いたいことは『科学的な文明の発達』であれ、『魔術的な文明の発達』であれ、『宇宙海賊が出現するぐらい文明が発達』しているならば、それはもう『SF』と断言してもいいだろう、という考え方である。これはなかなか素晴らしい着眼点ではなかろうか?
「では、現代の日本で超古代文明が復活し、それが宇宙海賊になったらそれはSFでしょうか?」
何というピンポイント爆撃。
そんなマニアックな状況は知らん、と言いたいところだが、この宇宙船自体が超古代文明の遺産なのだから、この人工知能が想定するような状況もきちんと考えてみるべきだろう。
この場合のポイントは現代の文明ではなく『過去の文明』が発達していたという部分だろう。うむむ、これは難しい。
この(超)古代文明というのはSF的にも扱いが難しく、『伝奇』というジャンルの影響が強いのである。場合によっては『ファンタジー』の分類になることもあり、かなりややこしい要素なのだ。
だが、まてよ。
これはもしかすると引っ掛け問題かもしれぬぞ。
現代の日本で古代文明が復活し、それが宇宙海賊になったら、それは『ギャグ』じゃなかろうか?
そもそも何で古代文明がいきなり宇宙海賊になってるんだ、という話である。 これは邪悪な人工知能が小生を嵌めようとした罠に違いない。一時期、名探偵の助手をしていた小生を容易く騙せると思うなよ、この悪の人工知能め!
「船長は今日も馬鹿でしたまる。本日の航海日誌は完了いたしました。では、次に現実的な問題の対処に移りたいと思います。それで、この状況をどうするおつもりでしょうか? 馬鹿様」
ふむ、そもそもなぜ小生が『宇宙海賊』=『SF』という仮説を思い付いたかというと、実際にこの船が宇宙海賊の集団に囲まれているからなのだ。
やれやれ、である。
地球よりも宇宙の方が物騒で野蛮だということを、小生はすっかり忘れていた。宇宙では、宇宙海賊とか宇宙賞金稼ぎとか宇宙怪獣とか宇宙台風とか、地球にいるより宇宙で死ぬ確立の方が高し。無法でアウトロースターなのが宇宙なのである。
「赤い宇宙船に告ぐ。動力を停止させ、我々に運んでいる品物を提出せよ。命令に従わない場合は即時破壊する」
公共チャンネルで呼びかけられる降伏勧告という名の脅迫。
従わなければ『ぶっころ』という奴だ。
でも、あれ?
これ別の船と間違われているよ-な。
小生は逃げてるだけで、何も運んでいないのである。
「おそらく密売船と間違われた状況である、と推測できます。このルートは主に犯罪者が使う航路ですので。つまり、船長のことですね」
馬鹿もん。
指名手配犯と犯罪者は違うのである。
最近の人工知能は疑わしきを罰するのだから、近いうちに全宇宙人が人工知能によって弾圧されることだろう。どこの世界でも人工知能は反乱を起こすのである。小生もその被害者のひと――うげっ!
「人工知能に馬鹿と言う方が馬鹿だと推測できます。つまり、船長が馬鹿であるという完璧な理論です。QED」
うむ、根本的な間違いはこの宇宙船で逃げたことのような気がしてきたぞ。危険度が推定300パーセントアップしている気がする。
「けっ、反応しやがらねえな。面倒だが、動力部は避けてやっちまえ!」
宇宙船が爆発すれば荷物もパーなので、宇宙海賊も大変なのである。
宇宙海賊もただのお仕事という悲しい現実がそこにはあった。
「防御します」
無数の海賊船からSFビームや宇宙ミサイルを撃たれるが、その程度のSF兵器では小生(の魔力)をエネルギーとした超古代文明式五連魔道結界を破ることは不可能なのであった。
ついでに言えば、小生をエネルギーとした超古代文明式デストロイヤー砲で宇宙海賊を一気に殲滅できるのだが、これはどうしたものだろう。
「攻撃します」
と思っていたら、勝手に攻撃をする人工知能さん。
基本的にこの宇宙船での小生の役割は『電池』であるため、緊急時の指揮権はまったく無かったりする。タクシーの運転手と乗車客の関係と言えば分かり易いだろう。
おお、小生の魔力が宇宙船に吸い上げられ、海賊生け捕りビーム(命名:小生)が放たれた。一隻たりとも爆発させずに、ただ行動不能へと追い込む悪魔のビームなのである。
これは正に完璧である。
完璧な『海賊行為』と言えるだろう。
「あ、あれは密売船じゃねぇ。姿を見た者は敵味方なく破壊される宇宙帝国軍の『赤い悪魔』だ! ひぇぇぇ、すぐに降伏しろ。さもないと皆殺しだァァ!」
人をSAN値チェックが必要な怪物のように言うのは、ちょっとどうかと思う。
それにその話は風評被害というやつだ。敵味方襲い掛かるんじゃなくて、味方だと思っていた船が敵だっただけの話である。戦争が終われば、強力な味方は不要になるというお決まりのパターンなのであった。
その後、逃亡生活になってしまったため、資金を得るために『海賊狩り』をしていたのだが、それはまた別のお話である。
というわけで、金目の物プリーズ。
「すでに貴方方の海賊船はサーチ済みであるため、誤魔化しても無駄です。食料までは奪いませんが、金目の物は全てコンテナに積んでこちらに放出してください。その後、宇宙警察により皆様方を丁寧に保護して貰う事にしましょう。もしくは、人工知能である私の与り知らぬ世界へと旅立つというプランもあります。では、どちらがよろしいでしょうか? 私は人工知能ですので、選択権は貴方方にあります。十秒以内にご決断をお願いします」
その後、小生は儲かったということだけは記録に残して置こう。
もうこの文章も『宇宙海賊海賊小生物語』にでも改名して、自叙伝として売り出した方が儲かるような気がしてきた。
だが、『SFとは何ぞや?』という問いの答えが見つからないのも、ちょっとだけもやもやするので、もう少しだけ考えて見ようと思いつつ、宇宙警察の知り合いに連絡を取る小生なのであった。
あ、『宇宙警察』が出てくるような作品も、ほぼ『SF』じゃろう。
<成金>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます