第20話 小生と暗い海

 眼前に広がる広大な何か。

 人知を超えた『それ』があるからこそ、人類はSFを生み出したのだ。


 つまり、宇宙である。

 小生は現在『プライベート宇宙船』で宇宙旅行の真っ最中なのだ。


「宇宙旅行というよりは、宇宙逃亡ですが」


 厳しいツッコミを入れるのは、この宇宙船の統括人工知能である。

 ちなみに宇宙の掟に従い、人工知能の性別は女性となっている。これは性別的に女性の方が幸運値が高いというデータがあり、航海の安全度がぜんぜん違うという科学的根拠があるから、だそうである。さすがはSFと言っておこう。

 

 以前、男性至上主義の連中が人工知能を男性型にしたときに、宇宙怪獣の襲われたり、宇宙竜巻に遭遇したりと、大変だったという記録が宇宙大図書館に残されている、らしい。さすがはSFと言っておこう。


 しかし、逃亡とは失敬な人工知能である。

 逃亡とは逃げること。敵前逃亡とか、思わず逃げてしまったみたいなニュアンスが滲み出る言葉なのである。SF軍事裁判が開かれる行為である。


 だが、小生が取ったのは戦略的撤退である。

 争いは何も生まない(無料)ということを知っている小生は、賢くも無駄な争いは避けるのである。無駄じゃないならちゅどーんだが。


 そもそも影分身が三対で、持っていた武器も三つ。

 光の剣、氷の剣、チェーンソーである。


 小生の分の武器は無いのだから、邪魔にならないようにこそこそと逃げるのは当たり前のことである。この素晴らしい戦略眼を褒めよ。目的を達成すれば良いのだ。小生が生き延びるという生命にとっての超目的が。


 まったく人工知能なのにこの程度の戦略も――うげっ。

 GがGが、小生の体が潰れる。


 忘れてたのである。

 この宇宙船の真の主は、この人工知能であることを。

 国で例えるなら小生は王様で、人工知能は国そのものという感じ。

 しかも自分で勝手に判断する国なのだ。小生要らんのである。

 

 まったく、人工知能が怒るという時点で欠陥品ではないかと思うのだが、知能あるところに感情が生じるのである。せめてロボット三原則は守って欲しいのだが、人工知能はロボットではないという逃げ道があり、守られていないようだ。ややこしい。


 小生は素直に自分の非を認めたが、結果として新しい船のパーツの購入を約束させられてしまった。おそらくこれはSF的にも恐喝罪だが、SF警察は今のところまったく役に立たないのである。まあ、小生もSF警察の一員なのだが。


 しかし、ここまで戦略的撤退をすれば、さすがに小生の命を狙う不埒な輩も追っては来ないはずである。そもそも宇宙空間で連絡を取り合うは大変なのだ。時差なく連絡を取る手段なぞ、双子のテレパシーぐらいなものだろう。


 というわけで、小生の楽園生活再びである。

 この広大な宇宙で『SFとは何ぞや?』という壮大な謎に挑むハイスケールな考察ドキュメンタリーの始まりなのである。


 そこでは命を狙われる野蛮人的発想は無く、哲学SF小説のように英知の深遠を除くような展開が待っていることだろう。まさにSF文芸、まさにSF文学。


 考えることこそSFであり、SFこそが考えることなのである。


 意味は分からんが。

 うげっ。


『意味不明の叫び声が続くため、人工知能権限により削除』



<小生とSF警察 宇宙編>

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