目覚まし時計

foxhanger

ショートショート「目覚まし時計」

 わしは目覚まし時計じゃ。型こそは少々古いが、ちゃんと時を刻むし、音なんか最近の若い奴らよりも大きいくらいじゃ。だのに、わしはずっと売れ残っていた。人間の奴ら、クオーツだのデジタルだのと新しいものばかり追いかけて、わしのような老いぼれにははなも引っかけん。

 じゃが、そんなわしにも買い手があらわれた。わしを買ったのは、貧相で顔色の悪い若い男じゃった。ほう、今時の若い者にも、わしの良さが分かるものがいるとは、まだまだ捨てたものではないわ。わしはそのとき思った。

 じゃがその男、わしを買って家に持って帰るなり、わしの裏蓋を開けて、内部をなにやらごそごそいじくりだした。壊されるんじゃないかとわしはひやひやしたが、中の部品のいくつかに妙な細工をされて、おまけに変なコードをくっつけられると、元通りに直されて、わしはとりあえずほっとした。

 わしはそれからしばらく、その男の部屋に置かれていたが、あるとき男は、わしを鞄に入れて外へ出かけた。一体どこへわしを連れて行くのかと思っていたら、そやつは電車に乗ると、わしを鞄ごと頭上の網棚に乗せると、次の駅で降りていきよった。本当に今時の若い人間は、何を考えているのかさっぱり分からん。

 そういうわけで、わしは今、この網棚に乗っているのじゃが……おっと、ベルを鳴らす時間だわい。こんなところで鳴らすのは非常識だとは思うが、命令には逆らえん。

 それにしても、わしの身体から出てるコードの先にくっついている、丸い棒みたいなものの束は一体何なんじゃろう……。

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