第25話 狩りの終わり

 地上に戻ると、ギルドに巨大な魔物のことを報告し、その魔物からとれた特大の魔石の鑑定を頼んだ。

 ギルド側は、当初俺の報告を半信半疑という感じで聞いていたが、一緒に報告に来たゼットが俺の報告を裏付けてくれ、ようやく信じてくれた。

 巨大な魔物の死体はでかすぎて解体できず、素材になる部位もわからなかったので穴に放置してきた。

 それで、ギルドの職員がすぐに確認に行き、素材にできる部位は買い取ってくれることになった。

 普通なら魔物の素材はギルドに持ち帰らないと買い取ってもらえないが、今回は未完成の最深階層の通路が魔物の死体を持ち出せる状態でなかったのと、ギルド自身早くその魔物を調査したかったことから、例外として魔物の死体を現地に置いたまま買い取ってもらえることになった。

 未完成の最深階層から発見された魔物など全く前例がないことから、今回の巨大な魔物についてはギルドとしても関心が高く、専門の職員を行かせて調査させるそうだ。

 特大の魔石については鑑定に時間がかかるとの事で、俺はそれ以外の普通のドラゴンフライ等の魔石や素材を買い取ってもらって帰ることにした。

 ギルドの買い取りカウンターは、突然シーズンが終わって一斉に地上に戻った来た冒険者たちでごった返していた。

 みんなが買取窓口に並ぶため、買取が終わるまでにずいぶん時間がかかってしまった。

 その間、俺は大勢の冒険者から巨大な魔物を倒したことで祝福された。

 稼ぎの良かった今シーズンを終わらせてしまったことで恨まれるかと心配したが、みんな、今シーズンの狩りについては、あまりに魔物が増えすぎて途中から不安を感じていたようだ。

 冒険者たちが魔物を倒すペースを魔物の発生が大幅に上回ってしまうと、冒険者がダンジョンから脱出できなくなって全滅の危険が出てくる。

 そうなるといよいよダンジョンの暴走だ。

 今シーズンの終盤は、冒険者たちが暴走の不安を感じるほど魔物があふれかえっており、いつものシーズン終了時期を過ぎてもその勢いが衰えなかったことから、みんな最後の方はかなり緊張していたらしい。

 その晩は、シーズン終了ということで、稼ぎを手にした冒険者たちによる打ち上げが夜遅くまで続いたそうだ。

 例年通りなら俺も知り合いと一緒に飲みまくる処だが、今回は疲れていたためリンを連れてさっさと家に帰った。

 家に着いてベッドに倒れこんだら、あっという間に寝てしまった。

 やはり、最後の巨大な魔物との戦闘はこたえた。


 ◇◆◇


 5日後、俺はギルドに呼び出された。

 ギルド長室に呼ばれ、ギルド長から直々に今回の巨大な魔物の討伐について感謝の言葉をいただいた。


「今回の件を本部に問い合わせたところ、新しいダンジョンボスの発生で間違いないという回答だった。しかも、今回の巨大な魔物は、まだダンジョンボスとして成熟しきっていない、成長途中のダンジョンボスではないかということだ。本部側の研究者も、成長途中のダンジョンボスが発見されたケースは聞いたことがないと言って騒いでおり、今もダンジョンに潜って巨大な魔物の死体を研究しているところだ。まだ調査中だが、今回のダンジョンボスが成長しきっていたら、相当強いボスになった可能性が高いそうだ。それと、今回のボスが他のドラゴンフライを異常発生させる原因になっていた可能性が高いので、ボスが成熟しきったらほかのドラゴンフライまで強力化して、ダンジョンの暴走を引き起こした可能性があるそうだ。そういう訳で、今回の君のボス討伐はギルドにとってもこの街にとっても非常に有益だったと言える。そこで、ギルドから特別に報奨金が出ることになった。よくやった、ありがとう。そして、おめでとう。」


 地元のギルドなので、ギルドマスターとは何度か顔を合わせているが、こんな風に褒めちぎられたのは初めてだったので、結構照れ臭かった。

 しかし、お褒めの言葉よりもありがたかったのは、もちろん報奨金である。

 ダンジョンボスの攻略は、あらかじめギルドの依頼を受けていない限り、ギルドから報奨金は出ない。

 ダンジョンボスを倒せば、大きな魔石や貴重な素材が取れて十分な儲けがあるから、普通はそれ以上に報奨金はでないのだ。

 それが、魔石や素材の買い取り以外に高額の報酬が出会うというのだから、大儲けだ。


 続いて、今回俺が倒したダンジョンボスの魔石の買い取り代金をいただいた。

成長途中の魔物の魔石ということだったので、普通のダンジョンボスの魔石よりも安いのではないかと心配したが、逆だった。

 魔物は、体内の魔石をエネルギー源としており、成長段階で魔石から相当量のエネルギーを吸い取って成長しているらしい。

 ところが、今回は魔物が成長途中だったので、魔石もエネルギーを吸い取られきる前だったので、通常のダンジョンボスからとれる魔石よりも純度が高く価値が高いそうだ。

 しかも、初めての成長途上の幼年体のダンジョンボスの魔石ということで、研究材料としての価値が高く、その結果、驚くほどの高額で買い取ってくれた。

 俺はその額を聞いて茫然としてしまった。

 ギルド長は、最初、茫然として声も出ない俺を見て最初は笑っていたが、直ぐに笑いを収めて黙って俺を見ていくれた。

 俺が、うつむいて泣きだしたからだ。

 人前で泣くのは恥ずかしかったが、ぽろぽろと零れ落ちてくる涙と嗚咽を、俺はどうしてもこらえることができなかった。

 まだ遠いと思っていた目標に届いたのだ。


 俺は、ギルドを出たその足で教会の治療院へ行き、聖霊師様に面会を申し込んだ。

 そして、治癒魔法の最高魔法であるソウルヒールによる施術を申し込み、その代償として、今シーズンの稼ぎのほぼ全額を寄付した。

 ギルドの報奨金や、ダンジョンボスの魔石や素材を高額で買い取ってもらったことで、何とかソウルヒールに必要な寄付金に足りた。

 施術は翌日に行うこととなり、俺は来て欲しい住所を聖霊師様に伝えると、教会を後にした。

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