第22話 ドラゴンフライ【Rin side】
ギャ! 後ろになんか落ちてきた!
ドスンという音がして何かが落ちてきたので、てっきり魔物に囲まれたのかと思いましたが、泥まみれで立ち上がったそいつが服の袖で顔をぬぐうと、その下から出てきた不愛想な顔は、いつものご主人様の顔でした。
ウギャ!ご主人様!私を助けに来てくれたんですか?!
ご主人様は、腰の鞘からすらりと剣を抜き放ち、私の横を通り抜けて魔物の前に立ちました。
しかし相手はとんでもなく巨大な魔物。
いくらご主人様でもかなうはずがありません!
逃げましょうよ、ご主人様! そんなかっこつけてる場合じゃないですよ! 命あての物種ですよ!
しかし、ご主人様は私を背にかばい(ムフ)、巨大な魔物に向かっていきます。
そして、ご主人様は、一気に魔物に向かて踏み出すと、魔物の太い足に切り付けました。
すると、ご主人様の剣が魔物の足に当たった瞬間、当たった個所から魔物の赤い血が飛び散りました!
「グウオオオオオオオオッ――」
魔物が叫び声をあげて切られた足を一歩引きます。
効いてる効いてる!
しかし、巨大な魔物の体に対して傷は小さく、魔物は反対側の足を振り上げてご主人様を踏みつけようとしてきます。
ご主人様はさっと右に飛んでよけ、踏みつけに来た魔物の足を剣でバシッと切り付けました。
再び魔物が叫び声をあげて一歩後退しました。
すごい!ご主人様があんな巨大な魔物を押している!
その後も、動きの遅い魔物に対して、ご主人様は右へ左へと華麗に飛び回り、隙を見ては魔物の体を切りつけていきます。
魔物の周りを飛び回るご主人様は、いつしか魔物の後ろの方へ。
あれ、ご主人様?そっちに行っちゃったら私の前ががら空きですよ?
私のこと忘れないでくださいね?
「リン!! 穴のところまで下がってろ!!」
あ、ちゃんと私のことを心配して下さいました。
そうか! ご主人様は魔物の注意を私に向けないように、あっちこっち飛び回っているんだ!
私は「ハイ!」と素直に叫んで、落ちてきた穴の下にあった窪みに身を隠し、目の前に背負子を立てて隠れました。
さあ、私は大丈夫ですよ!
頑張って、ご主人様!
私は、背負子との端からご主人様の戦いっぷりを覗きました。
ご主人様は、右へ左へと素早く動き回り、魔物に近づいては剣で一撃を加え、さっと飛びのいて反撃をかわしています。
魔物の動きが遅いので、今のところ魔物からの反撃はかわしきれています。
しかし、魔物の巨体に対して、ご主人様の剣で与えられる傷は小さく、魔物が弱っている様子は一向にありません。
それに対して、魔物の攻撃は動きこそ遅いものの、巨大な足で踏みつけようとしたり、大きく長い鼻を振り回してご主人様を叩こうとしたりしており、1撃でも浴びたら大ダメージを浴びそうです。
頑張って、ご主人様!
戦いが長引いています。
私は手に汗握ってみていました。
もう声も出ません。
暑い、暑い、とっても暑い。
魔物物が発する熱気で洞窟内の気温がどんどん上がってきているようです。
じっと見ている私でさえこんなに暑いのですから、激しく動き回っているご主人様はさぞ暑いはずです。
赤く照らされて見えるご主人様の顔は汗まみれで、ご主人様が動くたびにその汗が飛び散っています。
一方の魔物は、ご主人様の剣で傷が増えています。
しかし、切り付けられた当初は血が噴き出しているものの、しばらくすると出血が止まっています。
やはり、浅手のようです。
魔物は、弱るどころか動きがいくらか早くなってきており、体の赤い色も濃くなり、目も真っ赤に光っています!
そして、魔物の複眼が燃えるように光ったかと思うと、魔物は長い鼻を天井へ向けて高く上げ、その下にあった大きな口から炎を吐き出しました!
普通のドラゴンフライとは比べ物にならない大きな炎が洞窟の床に広がります。
ご主人様は、一瞬その炎に飲み込まれたかに見えましたが、直ぐに飛び出してきて炎が届いていない魔物の後方に転がって逃げました。
でも、ご主人様の服に火がついています。
ご主人様! ご主人様!
ご主人様が心配でしたが、ドラゴンフライが吐き出した炎は床を伝って私の方にまで広がってきました。
私は、床を伝って迫ってきた炎から身を守るため、穴の口を背負子でしっかり塞ぎました。
窪みの穴が小さく背負子で穴全体を塞げるので助かりました。
でも、そのせいでご主人様の姿が見えません。
大丈夫でしょうか?
気持ちは焦りますが、背負子と穴の隙間から漏れてくる熱い熱が引くまでは見ることができません。
ご主人様は大丈夫でしょうか、心配で心配で居ても立っても居られません。
ご主人様を助けたいものの、あのような強い魔物に私がかなうはずがありません。
どうしよう?
そうだ、もう一度穴の上に向けて叫び声をあげて助けを呼ぼう!
ご主人様も来てくれたんだから、グレコさんか誰か、私の声を聴いた冒険者の人が助けに来てくれるかもしれない。
「たしゅげでー! だれぐぁ、たしゅげでぐだざーい! 」
私は穴の上に向かって何度も何度も叫びました。
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