第20話 穴の底【Rin side】
ご主人様がでっかいやつをやっつけに行かれた時、私は油断なく周りを見てました。
前に大やけどを負った時のようなへまは二度としません!
油断なく周りを見回し、こういう時はやっぱり後ろが怪しいと思い、くるっと後ろを振り返ったところ、真正面にいました、ドラゴンフライが。
「あひゅ――」
思わずひと声叫んだ後、杖の下の方を両手で持って、ドラゴンフライめがけて杖を振り回しました!
しかし、ドラゴンフライはひょいひょいと私の杖をかわしてしまいます。
それでも、ドラゴンフライが少し後ろに下がりました。
私もじりじりと後ろに下がろうとしたところ、ドラゴンフライのお腹が膨れてきました。
それが、炎を吐き出す前兆だとご主人様から聞いていましたので、私は膝を曲げて飛びのく準備をしました。
そして、ドラゴンフライの口から炎が漏れ出した瞬間、エイ!っと左に飛びました。
華麗に飛びのいて次に備える予定だったのですが、勢い余って左側の壁にぶつかってしまいました。
ドスッ!!!
背中の背負子の重さで勢いが余り、壁に激しくぶつかった後、ドスンと下に落ちました。
そして、お尻からドスンと落ちたと思ったら、重い背中の背負子ごとずるずると下に引っ張られるような感じで地面に吸い込まれていきました。
私がぶつかったショックで壁と床の隙間に空いた穴に吸い込まれていきます。
????さっきまでこんなところに穴なんかなかったはずなのに?????
私は訳がわからずパニックになり、慌てて手足を振り回してどこかにつかまろうとしましたが、掴んだ地面や壁はすぐに崩れてしまい、私は崩れた土砂と一緒に坂道を転げ落ちるように下へ落ちていきました。
どうやら、隠れていた穴にはまってしまったようです。
ご主人様助けてー!
心の中では助けを求めましたが、実際に転がり落ちてる最中に声など出せるものではありません。
真っ暗な中、どこまでもゴロゴロと転がり落ちていくと
ドスッ!!
と激しい衝撃を感じ、いきなり落下が止まりました。
体中に感じる激痛で、気が遠くなり、しばらくは動けませんでした。
倒れている私の上に一緒に落ちてきた土や砂がかぶさります。
私は、土砂に埋まった状態で痛みが引くまでじっとしていました。
しばらくして痛みがましになってくると、私は何とか自分の頭の上に被った土砂を払いのけました。
立ち上がろうとしましたが、腰が抜けてしまったのか、うまく立ち上がれません。
四つん這いの状態で周りを見渡しましたが、薄暗くてよくわかりません。
でも、大分落ちた気がしましたので、30階層よりも下のはずです。
あれ?このダンジョンて30階層までじゃなかったっけ????
「ふ~、ふあう~、ごひゅじんさば~~~~~」
私はしばらくその場にへたり込んでいましたが、時間がたつにつれ少しずつ目が慣れてきて周りが真っ暗ではないことに気づきました。
周りに赤い壁が見えます。
ん?よくみると、赤い壁ではなくて、土の壁に赤い光が当たっているのかな?
この時、私は前にドラゴンフライの炎を後ろから吹き付けられた場面を思い出し、冷汗が出てきました。
あの時もドラゴンフライの炎で壁が赤く照らされていました。
あの時の赤い壁の色と、今目の前に見える赤い壁の色が重なって見えます。
今回も赤い光は私の後ろから目の前の壁を照らしています。
と言うことは、後ろに何か赤く光っているものがあるはずです。
そう思ったとたん、後ろに何か生き物の気配を感じました。
緊張でこわばる首を、ギギギッと無理やり回して後ろを振り返ると、そこに何かがいました。
それは赤く光って、まるで燃える溶岩の塊のように見えました。
私は、なぜか涙がにじんできた目を見開いて、さらによく見ました。
ほんとは見たくなかったのに、私の目が勝手に見開いてそいつを見てしまいました。
それは岩でも溶岩でもなく、かすかに動いていました。
私の背よりもはるかに高く、横幅もあり、まるで絵本で見たおとぎ話に出てくる象のような形をしていて、のそりのそりと動いていました。
そして、そいつの体の正面には、真っ赤に光る目がついていました。
その目は昆虫のような複眼で、まるでドラゴンフライの目を大きくしたようでした。
そういえば、色もドラゴンフライが炎を吐く寸前の体の赤い色にそっくりです。 でも、そいつの体はドラゴンフライよりも何十倍、何百倍も大きく、到底空中を飛べるような重さではなさそうに見えます。
こんな大きな魔物がいるなんて、ご主人様から聞いてませんよ!
幸い、そいつは動きが鈍重で、直ぐに飛びかかってくる様子はありませんでした。
複眼の目は、私のことを見ているのかどうかよくわかりません。
でも、そいつが私の方に迫ってきたら、その大きな体で簡単に踏みつぶされてしまうでしょう。
もしそいつがドラゴンフライのような炎を吐いたら、きっとその炎はとんでもなく大きくて、この洞窟を全部その炎で満たしてしまうでしょう。
そうしたら私は黒こげになって、今度こそお終いです。
今でも、そいつの体から発せられている熱気で洞窟の温度が上がってきています。
どうしよう!
どうしよう!
どうしよう!
気持ちが焦るばかりで、どうしていいか何も思いつきません。
この洞窟は、こんな大きな魔物がいるにもかかわらず、私が逃げたり隠れたりできるほどの広さはなさそうです。
かと言って、私が落ちてきた穴は、勾配が急でとても登れそうにありません。
つまり、逃げ道がどこにもありません!
私がぶるぶる震えていると、そいつは一歩私の方に近づいてきました。
ずしんという地響きを立てて足を踏み出しました。
それとともに熱気がさらに高まります。
顔が熱気にさらされてヒリヒリします。
そいつ自体が熱気の塊みたいです。
このままでは、こいつが近づいただけで私は焼け死んでしまう!
私の恐怖は頂点に達し、思わず叫んでしまいました。
「ごしゅじんしゃば~~~~~~~~~~~~~~~~」
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