第16話 作戦会議【Rin side】

 リンちゃんの快進撃が止まりません!

 ああ!こんなに自由に歩いたり、走ったり、飛んだり、跳ねたりするのは何年ぶりでしょう!

 ひゃっはあ! ひゃほい!

 教会からの帰り道では、治ったばかりだというのにうれし過ぎてついスキップしてしまいました。

 まだ足元の感覚が十分戻っていなかったせいで石につまずいてこけてしまい、さっそく膝小僧をすりむいてご主人様に怒られてしまいました。

 Oh!神聖なる教会の魔法で治していただいたリンちゃんのきれいなおみ足が!!!


 しかし、次の日にはご主人様の猛特訓が始まり、膝小僧どころか体中に生傷が絶えません。

 おまけにご主人様の命令で私が杖で魔物を叩くことに!

 怖いよ~~~~~~~。

 でも、普通の人でもめったなことではかけてもらえない教会のハイヒールを奴隷の私にかけていただいたのですから、この御恩は体で返すしかありませんね。

もちろん、貞操的ない意味ではなく、物理的な意味で!

 最初は怖くて魔物を叩く時に目をつむってしまいましたが、ご主人様に励ましてもらい、何とか目を開けて魔物を叩けるようになりました。

 えい! この! アンポンタンめ!

 ご主人様に買っていただいた新しい杖は、持ち手の太くなったところに鉄のわっかがはまっており、前の木の杖より重いのですが魔物を叩く時にはその重みが頼りになります。

 ご主人様のように魔物に止めを刺すことはできませんが、魔物をぶっ飛ばしてその間に逃げられるようになりました。

 ドラゴンフライの吐く火でも燃えないという盾と上着も買ってもらいましたし、もうこれでこの前のようなひどい目にあうことはありません!

 まだドラゴンフライは怖いけど、今度からはご主人様がずっとそばにいて下さるそうですし、きっと大丈夫でしょう!

    

 ◇◆◇


 そして、次の日からまたドラゴンフライ狩りが始まりました。

 前はドラゴンフライがとても素早く見えましたが、今は自分も負けないくらい素早く動けるようになったので、前よりは怖くなくなりました。

 いつもご主人様の後ろに隠れているので、あれ以来、ドラゴンフライの火を浴びたことはありません。

 もちろん、ヒヤッとする場面は何度もありましたが、いつもご主人様がドラゴンフライを私に寄せ付けないようにしてくださっているので、私が杖でドラゴンフライを叩くことも結局ありませんでした。

 ふう、よかった~。

 やっぱりこわいですもんね。

 でも、いざとなったらやる覚悟はできています!

 私のせいでご主人様に大金を使わせたのですから、ご恩に報いられるようがんばるぞ!


 ◇◆◇


 ドラゴンフライ狩りを再開して三日目の帰り道、街の入り口のところでご主人様とグレコさん、そしてご主人様らの知り合いらしい他のパーティーのメンバーが集まって作戦会議が開かれました。

 今シーズンのダンジョンはドラゴンフライが異常発生していると皆さんおっしゃっています。

 例年はパーティーごとに競争で狩りをすることからダンジョン内でのお泊りもばらばらにやっているところを、今年は競争する必要がないほどの大量発生の状況なので、いっそ協力し合ってダンジョン内にお泊り用の基地を作り、寝泊りや荷物置き場を共同で管理して狩りの効率を上げようということになりました。

 例年なら最先端のパーティーがそろそろ最深部の30階層に到達し、あとは各パーティが湧いて出る魔物を探し回って取り合いの状況になるらしいのですが、今年は最先端のパーティーがようやく26階層の入り口に達したところで、魔物が多すぎてそこから先になかなか進めず、このままではせっかくの魔物を取りきらないままシーズンが終わってしまうのでもったいないと心配しているそうです。

 私にとっては恐ろしい魔物も、冒険者の皆さんには、魔物、特にドラゴンフライは羽の生えたお金にしか見えないようです。

 そこで、ダンジョンの深部に共同の基地を作り、そこを寝泊りや、食事、けがの治療などを行ったり、宿泊用の大量の荷物の置き場にし、交代で見張りを立てて魔物(ときには手癖の悪い他の冒険者)から守るのだそうです。

そうすれば、街までの往復の時間を狩りに当てられますし、大量の荷物を抱えたまま狩りをせずに済み、身軽に効率よく狩りができますし、見張りの負担も共同で分担した方が楽にできるというわけです。

 もちろん、これはお互いが信用しあえる関係でなければできないことですが、ご主人様とグレコさんはムフフな感じのとても仲のよい関係ですし、他の参加パーティーも長年一緒に潜ってきた気心の知れた知り合いのようです。

ご主人様とグレコさんは地元出身の幼馴染らしく、他の参加パーティーも地元の仲良しさんが多いようです。

 まあ、ここはかなり昔に最深部の階層主が倒された比較的安全なダンジョンで、規模も小さめですし、遠くからわざわざやってくるような冒険者もめったにいない地域密着型のダンジョンですからね。

 キソロフ迷宮のような全国から冒険者が集まる有名なダンジョンではなく、田舎の平凡なダンジョンですので、潜ってるメンバーは地元の冒険者が多いのです。

 

 みなさん、翌日持っていく基地用の資材の分担や、基地の設置場所などについてパーティーリーダーが中心となって熱心に話をされていて、話し合いがなかなか終わりそうにありません。

 ご主人様は私に先に帰ってもいいとおっしゃいましたが、まだ夕ご飯をいただいていませんので、ご主人様の後ろに座って話が終わるのを待つことにしました……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はっ!いつの間にか居眠りをしていたようです。ご主人様の後ろに座っているのでご主人様には気づかれていませんが、グレコさんがこちらを見て笑ってます。でも、他の奴隷の方や、話に参加してない冒険者の方もけっこう居眠りされてますよ! 私だけじゃないですよ!


 その後も、何とか起きていようとしましたが、皆さんのお話は専門的でほとんど意味が分からず、昼間の疲れと空腹でまたすぐにうとうとしてしまいました。ですから、皆さんのお話はほとんど覚えていません。何かの拍子に目が覚めた時に、ご主人様とグレコさんが話されているのが少し聞こえたのを覚えている程度です。


…………………………


「すまん、グレコ。基地に参加させてもらって本当に助かるよ。深部での連泊は、俺んとこが一番問題だったからな。」


「なあに、お前にも見張り当番をしてもらうんだし、こっちだって助かるよ。それにしても、ここまでずいぶん無茶をしてきたもんだな。一人で突っ込むのがどれほど危険か、お前が一番よく知っているだろうに。」


「ああ、分かってるよ。だから、使い捨ての奴隷ならいいかと思ってリンを買ったんだが、奴隷を買うのもパーティメンバーに奴隷を入れるのも初めてだったから、結局、怪我をさせて治療で大金を失う羽目になっちまった。」


「まあ、奴隷を使い捨てにするのが悪いとは言わんが、普段から奴隷を使い慣れてないと難しいだろうな。犬や馬でも買ってれば情が湧くんだから、まして奴隷とはいえ人間を簡単に使い捨てになんかできないだろう。特にお前は、昔から情にもろいからな。」


「うるせえよ。まあ、金はかかったが、リンはポーターとしてはよくやってくれてるから、かかった分を取り返すだけなら今のままでも十分いけるんだ。もちろんそれ以上に稼ぐつもりだがな。」


「無茶をするなと言いたいところだが…………やっぱり教会に頼むのか?」


「この前のリンの件でここの聖霊師の治癒魔法を見たが、あのハイヒールっていうやつは高いだけあってすごかったよ。物を壊すだけの攻撃魔法と違って、本当に神がかっていたな。」


「まあ、確かに教会の魔法は高いだけのことはあるよな。前は年寄りみたいによぼよぼとしか歩けなかったリンちゃんが、あんなにピンシャンして走り回れるようになるんだから。しかし、それにしても値段が高すぎるのが問題だな。」


「ハイヒールの上の最上級の治癒魔法なら、魂以外は全部治せるって言うんだからな。」


「そりゃまあ。魂まで真っ新になっちまったら、赤ん坊に逆戻りしちまうからな。」


「その最上級の治癒魔法の値段を聞いたんだが、とんでもない額だったよ。」


「やっぱり、その魔法であの子を治してやるつもりなのか?」


「……金が揃えばな。少し頑張ったくらいじゃ作れる額じゃなかったから、まだメドは立ってないんだが、俺がしくじらなければあんなことには          」


……………………


 私がご主人様に起こされた時にはもう結構遅い時間で、みんなで閉店間際の食堂に駆け込み、店主に文句を言われながら何とか食事にありついて、ようやくその晩は解散となりました。

 そして翌朝、基地に参加するパーティーメンバーが集まり、基地に必要な資材を共同で購入し、各パーティーごとに自分のところに必要な食糧、水等の荷物をそれぞれ用意して、みんなで荷物を分担して揃ってダンジョンに向け出発しました。

 さあ、連泊でのドラゴンフライ狩りに出発です!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る