第17話 基地

 基地は24階層に設置することに決まった。

 基地を利用するパーティーは、俺のところのほか、グレコのパーティー、俺やグレコの地元の仲間であるカインのパーティー、同じくジョーイのパーティー、このダンジョンの常連さんでベテランぞろいのサブリナのパーティー、少数精鋭で最先端を行くゼットのパーティーだ。

 ゼットのパーティーが露払いをしてくれたので、24階層まで一気に進むことができた。

 そこまでに狩った魔物の魔石と素材は各パーティーに平等に分配し(ほとんどゼットのパーティーが狩ったのだが、ゼットが分配でもめて時間をロスするのを嫌ったため、均等分配になった)、ちょうど昼前に基地の設置が終わった。


 基地は、24階層の出口(25階層に通じる通路の入り口)手前にあるちょっとした広さの空洞に設置した。

 前後の通路に魔物を感知する魔道具や遠くまで見通せるよう照明の魔道具を設置し、基地の両側に見張りを一人ずつ立てる。

 基地内に各パーティーの荷物置き場を作り、残りのスペースを仮眠スペース、食事をするところ、武器の修理などの作業をするところなどに分けた。

 基地内で魔除けの香を焚き続けるので、魔物に襲われる可能性は少ない。

 見張りは、魔除けの香が切れないようにするのと、他の冒険者に侵入されないようにするのが主な役目だ。

 基地の設置は禁止されているわけではないが、公式に認められているわけでもないので、他のパーティーが通り抜けようとして侵入してくる可能性がある。

 本当は、通路の独占はマナー違反とされる行為だが、冒険者が少ない深階層では、さほど遠回りにならない迂回ルートがある通路なら暗黙の了解で冒険者同士が認め合っている。

 大規模なダンジョンの深階層では、いちいち地上に戻って休憩を取るわけにいかないので、仕方がないのだ。

 それでも、基地の共同設営は気心の知れた知り合い同士だからこそできることだった。

 一緒に基地設営をするパーティー以外に、普段仲の悪い(ガラの悪い)パーティーやよく知らないよそから来たパーティーもわずかながら深部に潜ってきているので、トラブルや盗難被害を避けるためには見張りを置かざるを得ないのだ。


 当番は、一日を4つの時間帯に分けてパーティーごとに交代で当番要員を派遣する。

 俺のところは、リンに当番をさせる訳にはいかないので、俺が当番をし、リンにはその間に道具の手入れや食事の用意をさせることにした。

 他のパーティーは、人数が多いから一人を見張りに出して残りが狩りをしたり、仮眠をとったりしている。

 ダンジョン内は昼も夜もないので、時間帯をずらして仮眠をとり、見張り以外にも基地に人がいるようにして、万が一の事態に備えている。

 そして、狩自体は、各パーティーがばらばらに行う。

 パーティーごとにやり方が違うし、ペースも違うから一緒にはやりにくいし、分け前の分配でトラブルになるのを避けるためには、最初から別々に狩りをした方がいいだろうということになった。

 ゼットのパーティーは、さっそく最深部を目指して出発した。

 しばらくは戻ってこず、戻ってきたときにまとめて当番をこなす予定だ。

 様子の分からない未到達階層を開いてもらえばみんなが助かるので、当番に関しても融通を利かせている。

 このダンジョンは以前に最深部まで探査されているが、ダンジョンの仲は毎年少しずつ変化しているし、魔物の出方も年によって違う。

 だから、先頭を切って最深部を目指すのは度胸だけでなく実力がいる。

 ゼットのパーティーは、今年潜っているパーティーの中では頭一つ飛びぬけた実力者のパーティーなのだ。

 他のパーティーは、基地を中心にバラバラの方向に狩りをしに行った。

 そろそろ20階層あたりに到達してきたパーティーが増えてきたので、それよりも深い24階層前後の階層を回って狩りをした。

 往復の時間も狩りに当てられる上、荷物をあまり持たずに狩りができるので、リンと二人で駆け回って次々とドラゴンフライを狩っていった。

 ドラゴンフライが大量発生したせいか、他の雑魚な魔物がほとんど出ず非常に効率が良い。

 リンもだんだん慣れてきて、俺が魔物を見つけて突っ込んでいってもちゃんと付いてきてくれるし、倒した魔物の解体もどんどん早くなってきている。


 ◇◆◇


 基地設置から最初の1週間の狩りで、どのパーティーも予想を大幅に上回る獲物を手に入れることができ、たまった魔石や素材を持っていったん地上へ帰還した。

 さすがに、1週間も潜り続けると神経が参ってくるし、食糧や傷薬の補充も必要なので、1週間で帰還するのは当初からの予定通りである。


 この1週間で、ゼットのパーティーはようやく29階層に到着していた。やはり、魔物の数が多すぎて予定していた最深部目前で引き返さざるを得なくなったようだ。

 ゼットには悪いが、24階層前後も俺たちが狩りまくって魔物の数が減ってきていたので、この先の階層にまだまだ大量の魔物がいると聞いてみんな期待に目をギラギラさせていた。

 俺のところも、地上に帰還したら俺とリンの装備をさらに充実させ、次に潜ったら今回以上の成果を上げるつもりだ。


 ゼット達が最先端を攻略しているのは、ギルドからの調査依頼を受けているからである。

 ダンジョンを管理するギルドは優秀なパーティーを雇ってダンジョン内を調査させるとともに、最深部まで早めに開かせて他の冒険者が最深部まで狩り尽せるようにする。

 そうやって、ギルドで買い取る魔石や素材の量をできるだけ増やしてギルド自体のもうけを増やそうとしているのだ。

 そのゼットが気になることを言っていた。


「今回のドラゴンフライの大量発生は異常すぎるな。例年でも多少の増減はあるが、こんなに極端なのは初めてだ」


 今年の大量発生で喜んでいたが、確かに俺もこんなのは初めてだ。


「ほかのダンジョンでもこんな異常発生は聞いたことがないし、ちょっとこの後が心配だな。一気に湧いて出たから、途中でぱったり止まるとか」


「おいおい、嫌なことを言うなよ。せっかく調子よくいっているのに」


「魔物の出方が不安定になるのは、そのダンジョンの性質が変わる予兆だと言われている。最近の例だと、キソロフの迷宮が暴走したとき、いきなり浅い階層に高ランクの魔物が湧いたそうだ」


「ああ、それについちゃあ俺やグレコもよく知っているが、あそこはひどい目にあわされただけで、今回のドラゴンフライの異常発生みたいなおいしい事態は起こってなかったぞ?」


「まあ、キソロフのケースとは全然違うから、ここが暴走することはないと思うがな。そもそも、最高難度の魔物がドラゴンフライ程度なんだし。仮にもう1段階上の魔物が出たとしてもここのメンバーで十分対処できるだろうしな」


「うん、逆にそれはおいしいかもしれんな。Aランクの魔物を俺一人で倒すのは難しいが、他のパーティーと組めば十分倒せるし、ある程度まとまった数で出てきても大丈夫だろう」


「まあ、次に潜ったときに最深部に到達できそうだし、そこからは俺たちも最深部を中心に本格的に狩りをさせてもらうから、何か問題があったらみんなにすぐ知らせるよ」


 さすがにゼットのところは余裕がある。

 攻撃だけなら、俺もゼット個人に張り合える自信はあるが、パーティー全体の実力じゃあ話にならない。

 なんせ、向こうは魔法使いまでいるし、ギルドから支給されたポーションもじゃぶじゃぶ使えるからな。

 ギルドの指名を受けるだけのことはある。


 ◇◆◇


 そして、地上に戻った晩、リンが熱を出した。



 

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