第15話 回復

 リンを教会に連れて行った翌日、焼け焦げてしまったリンの装備を前よりも耐火性能の良いものに買い直し、ダンジョンの浅い階層に潜ってリンの体の調子を確認した。

 足が治ったリンは、背中のゆがみまでは直っていないので全力疾走まではできないものの、前よりははるかに素早く動けた。

 平坦な直線が少ないダンジョン内で長距離を走ることはめったにないから、全力疾走ができなくても素早く動けるならそれで十分だ。

 リンは女にしては背の高いほうだが、結構機敏に飛んだり跳ねたりすることができ、敏捷なようだ。

 というか、朝から飛んだり跳ねたりしてじっとしていない。


「ハヒョウー、ウホッウ、ハッ、フッ、デユフッフ、ハヒハヒハヒ……………ゼイゼイ………」


 ご満悦である。

 足以外はハイヒールをかけてもらっていないので体力はまだ完全に戻っていないはずだが、足が治ったのがよほどうれしいらしく、昨日の教会からの帰り道からずっと落ち着きなく動き回っている。

 ふむ、まあいいか。

 これなら、もう休まさなくてもダンジョンに潜れそうだな。


「リン、調子は大丈夫か。」


「ひゃい!ぼ主人様っ!」


「じゃあ、これからもう少し下のほうまで潜りながら、対ドラゴンフライ戦の練習をするぞ。新しく買った耐火性の盾を使った防御と、鉄材で強化してある杖を使った牽制のやり方を教えるから、今日中に覚えるんだ。明日からはまたドラゴンフライを狩りに行くからな。」


「ひゃい? ど、ドラゴンフライのけんせい?……にゃ、にゃにするんでふか?」


「基本はこれまでどおり、俺が戦うからお前は後ろで隠れていればいいんだが、俺とお前があまり離れていると、この前みたいにお前の後ろのほうから奴が現れたときに俺が間に合わないから、これからはもう少し距離を詰めて俺から十歩くらいのところで隠れるようにしろ。そうなるとお前がドラゴンフライに見つかる可能性が高くなるから、新しく買ったその盾で炎を防ぐ練習をする。服も耐火性が高いものに変えたし、背負子も燃えにくいものに買い替えたから、少しの間なら盾で防げるはずだ。十歩くらいの位置なら俺がすぐに助けに行けるから、炎を一瞬防げればいい。

 それと、この前みたいにドラゴンフライがお前の真上近くまで飛んできたら厄介だから、その時は鉄のわっかがついているその杖でドラゴンフライを叩き落すんだ。もちろん、お前の腕力じゃあその杖で叩いてもドラゴンフライは倒せないけど、ドラゴンフライは浮遊型の魔物で体重が軽いから、お前が思いっきり叩いたら後ろに弾き飛ばすか、うまくやれば叩き落すことができるはずだ。そこを俺がお前と入れ替わって奴を串刺しにすれば倒せる。」


「わた、わた、私が魔物を杖で叩くんでしゅか……………ゴクッ、はあ、ひゅー、はあ、ひゅー……………私がたたく、うっ……………」


「大丈夫だ、ダンジョンの天井は低いから、お前の上背なら杖を振れば十分奴にあたるはずだ。何だったらさっきやってたみたいに飛び跳ねて叩けば天井まででも届くだろ。お前は体重も十分あるし、その頑丈な杖なら奴でも十分弾き飛ばせるさ。」


「た、体重…………、お、おどめの…………たいじゅ…………」


「ああ、この前下の階層から家まで負ぶって運んだから、お前の体重のことはよくわかってる。俺のところに来たときはガリガリだったが、あれから毎日俺よりも飯を食ってたからなあ。まさか、あんなに重くなってるとはなあ。」


「うっ! しゅ、しゅみませんでした……今日からちゃんと、歩いて帰りまひゅ……」


「あたりまえだろ。」


「ぐふっ、ご、ご主人さま………いのちの、お……じんですね………ぐふふ。」


「(む、おじん?………いや、恩人といいたかったんだろうな………)今回の件は俺のミスだから仕方ないが、お前を治すのにとんでもない額の金がかかっちまったから、これから何としても遅れを取り戻さなきゃならん。リンも怖い思いをしたから、またダンジョンに潜るのは怖いかもしれんが、これがお前の仕事だから歯を食いしばってついて来い!」


「ひゃい! ひゃい! ごひゅひんさま! がんばりまひゅ! 治していたらいたこの足れ! ひゃい!」


 うん、まあなんだ、やる気はあるようだな。

 あんなことがあったらベテランの冒険者でもしばらくはぶるって潜るのを嫌がるもんだが、こいつは根が鈍いみたいで、こういうところは助かるな。


 その日は、中階層まで潜って、フォーメーションとリンに魔物を叩かせる訓練をした。

 フォーメーションは、すぐに覚えてくれたが、魔物を叩く方は、最初なかなか杖が魔物に当たらず、俺が弱らせた魔物をリンに叩かせようとするものの、リンが空振りしてしまい、慌てて俺が魔物に止めを刺さなければならなかった。

 

「リン、怖いかもしれんが、叩く時は目を開けて魔物を見ないと当たらんぞ?」


「ひゃい! ふ~~~、ふ~~~~~、あわわ…………、うううううううううっ、だはっ!」(ボコ!)


 その日の夕方までには、魔物を杖で叩いてすぐに飛び下がるヒットアンドウェイができるようになった。

 杖は右手の片手で持っているので(左手は盾)、叩いても大きなダメージは与えられないが、鉄で補強してあるし、リーチの長いリンが振り回せば軽い魔物を弾き飛ばすくらいの威力はある。魔物がよけたとしても、それで向こうからの攻撃が遅れるなら十分だ。

 やはり、ダンジョン内で二人が離れていると、いざというときのフォローができないから、リンが動けるようになってそばに置けるのは安心だ。

 正直、教会に払った金が莫大過ぎて取り返すだけでも大変だが、何としても今シーズンで目標額まで稼がなければならない。

 幸い、予想以上にドラゴンフライがたくさん出ているようなので、まだまだチャンスはあるだろう。


 ◇◆◇


 それから3日間、俺はリンを連れて20階層から23階層あたりでドラゴンフライを狩り続けた。

 冒険者の数が増えてきていたが、やはり予想よりもドラゴンフライの数が多いようで、順調に狩り続けることができた。

 深く潜るようになると行き帰りの距離が長くなるので、リンの足が治ってかかる時間が短縮できるのはありがたい。

 それでも、他のパーティーが追い付いてきて20階層付近も混みだすと、さらに深く潜っていかなければならず、その分狩の時間が減ってしまうのがなんとももったいない。

 そろそろ、ダンジョン内で泊まることも考えなければならないが、魔物は夜でも眠らないので、ダンジョン内で泊まるのは非常に危険だ。

 そもそも。俺のところは二人しかおらず、まさかリンに一人で見張りをさせるわけにもいかない(危なくておちおち寝てられない。寝つきの良いリンが見張りの途中で寝てしまわないか気になって、俺の寝る番の間中、リンを見張ることになりかねない)ので、どこかのパーティーと一緒に野営させてもらうほかない。

 また、グレコのところに頼むか。



  




 

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