第13話 後悔

「リン!」

 俺は叫びながら全速力でリンの方へ近づいた。

 リンが俺の方に近付いてくる途中だったのでそんなに離れてはいなかったが、それでも決定的に間に合わない、届かない距離だった。

 

 いつの間にかリンの背後に迫っていた3匹目のドラゴンフライは、リンの真後ろから炎を吹きかけた。

 後ろのドラゴンフライに全く気付いていなかったリンは、まともに炎を浴びてしまった。

 リンの背中から炎が吹き上がる。

 リンは、俺の方を見て何かを叫びながら、そのまま前向きに倒れていった。

 うつ伏せに倒れたリンの背中側は、背負子や服から炎と煙が上がっていた。

 なおもリンに炎を吹きかけようとするドラゴンフライに対し、俺は腰に差した予備の短剣を抜いて投げつけた。

 すでに距離が詰まっていたこともあり、短剣はドラゴンフライの顔に刺さり、そこからガスが漏れたようでドラゴンフライは火だるまになって落ちて行った。

 しかし、運が悪く炎の塊となったドラゴンフライはリンの足の上に落ち、そこからリンの下半身に燃え広がってしまった。

 俺は舌打ちして飛びかかり、素手でリンの足の上から燃えているドラゴンフライを払いのけた。

 しかし、既に遅く、リンの下半身の服が燃えている。

 俺は、熱さでのたうつリンの足に自分の皮の上着を抜いてかぶせ、上から押さえつけて炎を消した。

 続いて、背負子や背中側の燃えているところも同じようにして消した。

 そして、くすぶっている背負子の前ひもを外し、リンの背中から背負子を下した。

 黒こげのリンの服がくすぶっていたのでこれも脱がせた。

 幸い、背負子側から火を吹きかけられたため、背負子の下の上半身のやけどは大したことない様だ。

 背負子の中身を通路にぶちまけ、水筒を見つけてリンの足にかける。

 俺の腰にぶら下げた水筒の水も全部使ってリンのやけどを冷やした。

 リンは、炎が消えるとのたうつのをやめたが、ぴくぴくとけいれんしながらうめている。

 足のやけどがかなりひどそうだ。

 呼びかけるも、うめき声をあげるばかりで返事はなく、意識がはっきりしていないようだ。

 ありったけの水をかけたあと、やけどがひどすぎて傷薬は塗れないので、リンにポーションを飲ませた。

 ポーションではやけどを治すことはできないが、体力は回復するはずだ。

 そして、俺は、うめくリンを背負って出口に向かった。

 仕留めたドラゴンフライも、今日の稼ぎが詰まった背負子もあきらめるしかない。

 値段で言えばリンよりも背負子の中の魔石や素材のほうがはるかに値打ちがあるが、いざ怪我をされると、リンを助けることしか頭になかった。

 たとえ奴隷でも仲間が死ぬぬは嫌だ。

 仲間が傷つくのはもう見たくない。

 俺はリンの主人であり、リンが傷ついたのは間違いなく俺のせいなのだ。

 俺が無理をしたせいでリンに大怪我を負わせてしまった。

 クソ、クソ!俺は何をやってるんだ!

 あの時と同じだ。

 またやってしまった。

 仲間を助けられなかった。


 俺は地上への長い道のりを必死になって昇って行った。

 取り返しのつかないものを、取り返そうとして。



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