第11話 もっと深くへ

≪3日目≫


 リンを連れての狩りが始まって3日目の朝。


「グコー、グコー………むにゃむにゃ………あむあむ………ぶふ~………すぴー………」


「リン、起きろ。」


「むにゃむにゃ…………ご主むにゃむにゃ…………もう食べむにゃむにゃ…………」


 ボコ!


「ぐぎゃ! むにゃ? ご、ご主人じゃま?おはようごじゃいまブフッ………すー………」


「リン、起きろ!」


「………おはよう……ございます……あれ………なんか………おつむが痛い……でふ………」


 新しい一日が始まった。

 なんか、夕べから俺がリンの世話を焼いてばかりで、これじゃあどっちが奴隷か分かったもんじゃない。

 なんで俺がリンのパンツまで洗濯しなきゃならんのか。

 しかし、リンには家事よりもダンジョンでの働きで頑張ってもらいたいので、文句を言うのは我慢する。

 リンに飯を作らせるのとか、まだちょっと不安だしな、なんかとんでもないものを作りそうな気がするし。

 さあ、俺とリンの分のダンジョン用の装備を用意して、朝食の用意も急いで――


「すぴー、くかー」


あ、リンのやつ、また寝てやがる!

 あんまり頭ばっかり叩いてリンの可哀想なおつむがこれ以上残念なことになっても困るので、今度はリンの右頬をつねって起こしてやる。


「ひたっ、痛いでしゅ、あわわ」


 やれやれ。


 ◇◆◇


 ダンジョン内は昨日よりも人が増えてきていて、5階層あたりまでは魔物がすっかり狩り尽された感じだ。

 毎日魔物はわいてくるけど、直ぐにほかの冒険者が狩ってしまうので、浅い階層では魔物を探すほうが大変だ。

 というわけで、俺はリンを連れてどんどん奥へ潜っていった。

 今日は12階層まで一気に潜った。

 10階層を超えたあたりから魔物のランクが上がっており、戦闘は厳しくなってきているが、その分、高く売れる魔石や素材を手に入れられるので、狩としてはこちらのほうが効率がいい。

 

 12階層の通路でDランクの魔物であるオークを発見した。

 手前に1匹、通路の奥にもう1匹見えたので、2匹が合流する前に各個撃破しようと手前のオークめがけて走って行く。

 そいつは俺が近づくタイミングに合わせて手に持った棍棒を振りかぶった。

 俺は、オークが振り下ろした棍棒をサイドステップでかわし、剣て袈裟切りで切り付けた。

 俺の剣がオークの体にまともに入ったので、倒れるそいつの脇を駆け抜けて2匹目に向かう。

 2匹目のオークも俺の方に走ってきた。

 俺は、接敵寸前、そいつが棍棒を振りかぶるタイミングでブレーキをかけた。

タイミグをずらされたそいつは、体を泳がせながら何とか俺に棍棒を届かせようと腕を伸ばし気味にして振り下ろしてきたが、俺は力の入っていない棍棒を剣で受け流し、返す刀でオークの首を切り飛ばした。

 奥にほかの魔物の気配がないか確認し、2匹目が完全にこと切れているのを確認した後、1匹目のところに戻り、虫の息だったそいつにとどめを刺した。

 

「ごしゅじんさま~ゥウウウウウウ」


 リンが隠れていた岩陰から顔を出して呼びかけてきたので、俺はもう大丈夫だという合図に手を振ってやった。 

 すると、リンは岩陰から出てきて、よたよたとこちらに近づいてきた。

 俺は、リンに倒したオークから魔石と素材を取るよう指示し、そのそばで見張りをした。

 

「はひっ、うわっぷ、はあはあ……」


などとぶつぶつ言いながらも、リンは手早く魔石と素材をナイフではぎ取った。

 オークの素材は牙と鼻である。

 鼻は料理の素材になる。

 牙は、武具の素材になるらしい。


 魔物のランクが上がってきたので、複数の魔物に囲まれないよう、今のように先制攻撃をかけて各個撃破で倒している。

 そのため、魔物を発見したらすぐに走って魔物のもとに駆け付けることになり、リンは置いてけぼりになる。

 リンには、俺が走ったらすぐに岩陰などに隠れるように指示してあるが、今のところうまく隠れているようだ。

 ただ、リンは足が遅いから、俺がどんどん先に行くと付いてこられなくなるので、あまり離れないように気を付けてやらないといけない。

 オークは足が遅いので対処がしやすいが、足の速いのが出てきたら厄介だろう。

 普段のダンジョン内には、狼のような足の速い魔物は少ないが、もう少し潜ると吸血コウモリがおり、あれは結構素早いうえ、天井が高いところだと上から後ろに回り込まれてしまう。

 リンでも使える魔物除けの道具は渡してあるが、リンがうまく使えるかどうかわからないし、買うのに金がかかるのでやたらと使われるとアシが出てしまうので困る。

 倒すだけならDランクの魔物など問題なく倒せるが、金のかかる道具や魔法具を使わず倒さなければ狩りの効率が上がらない。

 そのため、各個撃破しやすい細い通路を中心に周っている。

 広い通路は、魔物の群れに遭遇しやすく、パーティーを組んている冒険者はそちらのほうが効率がいいので、そちらを中心に回っている。

 お互いに住み分けができて余計なトラブルを起こさずに済むから都合がいい。

 冒険者同士の魔物の取り合いは、一番面倒で一番危険だ。

 結局、3日目は12階層を回って終わった。

 俺たちより先にもっと深くまで潜っているパーティーがあるので、こちらもぐずぐずしていられない。

 明日はもう少し奥まで潜ろう。



≪4日目≫


 今日は15階層まで潜った。

 魔物のランクは前日と変わらず、順調に狩りができた。

 しかし、Dランクの魔物ばかり狩っていても効率は上がらない。

 普段なら十分なのだが、シーズン中はBランクまでの魔物が普段よりもたくさん出るのだから、もっと深く潜って高ランクの魔物を狩りたい。

 1ランク上がるだけで魔石や素材の値段は大きく違う。

 1匹当たり倒す時間が倍かかったとしても、高ランクの魔物を狩ったほうがずっと稼ぎが多くなる。

 リンも慣れてきただろうし、もう少し深く潜りたい。

 20階層を超えてからが本番である。

 浅い階層の魔物が狩り尽されてくると、深く潜っても行き返りにかかる時間が短縮され、潜りやすくなってくる。シーズン後半になると、深い階層の高ランクの魔物も徐々に減ってきて冒険者間で取り合いになるから、少しでも早く深く潜りたいのだ。

 リンには多少無理をさせることになるが、ぶつぶつ言いながらもついてきてくれているので、まだいけるだろう。


 帰り道、顔見知りの高ランク冒険者に出会った。

 そいつらはもう20階層に潜ってるそうだ。

 そして、今日、20階層で今シーズン初めてのドラゴンフライが見つかったと聞いた。

 思ったより早いな、ぐずぐずしていられない。



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