第10話 お家にて【Rin side】

 あーもうやだ! もう一歩も歩けない! 前にいたパーティーと全然違うじゃん!

 前のパーティーではただの荷物持ちで、他のパーティーメンバーから怒鳴られたり、ののしられたり、ぐずぐずするなと叩かれたり、蹴られたりした。

 だけど、荷物持ちは、本人よりも持ってる荷物こそが大事なので、戦闘になったら安全な後方に下がらせてもらい、そこで荷物を守っていればよく、魔物が私のすぐそばまで来ることなんかめったになかった。

 なのに、今はご主人様と二人きりなので、ご主人様が魔物と戦っている間、誰も守ってくれない。

 やっぱ、2人きりじゃ無理!

 そもそも、前にダンジョン潜ったのは、足に怪我をする前だったし、魔物が出たら華麗なリンちゃんステップでこそこそと隠れられたし、だれも私に活躍を期待してなかったし。


 でも、こんな私を買ってくれたのは、このちょっと貧乏らしいご主人様だけなんだから、我慢するしかないよね。

 買ってもらったのは助かったんだけど、ほんと、この人、無茶するな。

 ほかに、私みたいな足手まとい一人連れてダンジョンに潜ってる人なんかいないよ?

 まあ、足が遅いだけで、重い荷物は一応私が持ってるからご主人様には身軽な状態で戦ってもらえるし、少しは役に立ってると思うんだけど。


 ダンジョンを出た後は、家までご主人様が背負子を持って下さり、私は杖にすがりつきながら帰らせてもらいました。

 奴隷なのにご主人様に荷物を持たせるのは、周りの人から奇異な目で見られているようで、さすがに恥ずかしかったです。

 他のパーティーの荷物持ちの男の奴隷さんも見かけましたけど、とってもたくましい方で、私の倍ほどの荷物をしょってても、しっかりとした足取りで歩いてらっしゃいました。

 うーん、私も怪我する前はあんな風に歩けてたんだけどなあ。


 食事は、ギルドの食堂でいただき、お家に帰ったらお風呂に入り、洗濯してからお休みです。

 朝は早いので、晩の間にお風呂の残り湯で洗濯物を洗って干しておくのです。

 お恥ずかしい話ですが、お風呂を沸かすのも、洗濯も、全部ご主人様にやっていただきました、キャハ!

 いえいえ、ご主人様、申し訳ありません、感謝、感謝です!

 だって、お家に帰ったとたんに力が抜けて座り込んでしまい、立てなくなってしまったんですもの。

 お風呂まで、ご主人様に連れて行ってもらう始末。

 いえ、もちろん服は自分で脱いで、一人で入りましたよ?

 湯船につかって、ご主人様がのぞきに来るかな? のぞかれたら「キャー!」とか言って、お湯をぶっかけなくちゃ! などと益体もないことを考えていたら、いつの間にかお湯につかったまま眠ってしまい、おぼれそうになりました。

 結局、ご主人様は覗きに来たんだろうか?寝てたからわかんないや。


 お風呂から上がった後は、ご主人様に、体中にできた打ち身や擦り傷に傷薬を塗ってもらいました。

 キャー! 傷薬の軟膏が染みる!

 のたうち回りそうになりましたが、背中とか手の届かないところに塗ってもらわなくてはならなかったので、精一杯我慢してしおらしくしていました。

 うん、素肌さらしておきながら騒ぎまくるなど乙女にあるまじきです。

 その前に、恥ずかしくて顔も上げられませんでしたが。


◇◆◇


 しかし、おかげで翌朝には傷がほとんど治っておりました。

 奴隷商館で使っていた藪医者のお薬とは違って、よく効くお薬のようです。

 朝の食事と、ダンジョンに持っていく食糧の用意もご主人様がしてくださり、またもや感謝、感謝です。

 さすがに、ちょっとため息をついておられるご様子もありましたが、もともと、手の指がうまく動かないので、料理には向かないのです、ごめんなさい。


 このように、お家ではとても優しいご主人様ですが、今日もダンジョンに潜ったら、またあのこわ~いご主人様になってしまわれるのでしょうか。

 正直、憂鬱ですが、これが当家の家業なれば、私も頑張らざるを得ません!


 替えの服を着て、荷物を入れた背負子をしょって、さあ、今日もご主人様とダンジョン目指して参りましょう!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る