第3話 帰宅
リンを家に連れて帰って、まずは風呂を使わせた。
帰ってくる途中、ずっと「……メシ……ニク……」などとつぶやいていたからかなり腹が減っているのかもしれないが、その前に体を洗わせないと臭くてかなわん。
奴隷商館から連れ出してみてわかったが、あの部屋の臭いの元はリンだったみたいだ。
ほっとくと俺の家まであの部屋と同じ匂いになってしまいそうだし、取りあえず風呂に入れる。
奴隷なんだから水浴びで十分なところだが、体が弱っているようなので仕方なく湯を沸かしてやった。
せっかく買った奴隷だ、すぐに病気になられてはたまらんしな。
昼飯は、野菜スープに少し干し肉を入れてやり、あとはパンとチーズを少々といったところ。
主人である俺と一緒なんだから文句は言わせない!
せっかく女奴隷を買ったんだから、こいつが料理も作れると助かるんだが、どうだろうな?
女の癖に見た目が不潔そうだから、こいつに調理を任せるのはちょっと躊躇してしまうが。
まあ、2,3日は養生させながら何ができるか試して、装備も整えてやらんとな。
来週ぐらいからぼちぼちと魔窟の魔物が増え始めるはずだから、それまでには準備を整えて、狩のチャンスを逃さないようにしたい。
◇◆◇
リンは、飯を食わせたらテーブルに座ったままいきなり居眠りを始めやがった。
ちょっと、甘やかしすぎたか。
取りあえず、頭をはたいてやったらテーブルにおでこを思いっきりぶつけて目を覚ましやがった。
目が泳いでいたし、いまにも吐きそうな顔をしながらげほげほいっていたので、もしかすると脳震盪を起こしたのかもしれない。
しかたないので、今すぐ躾けるのはあきらめ、しばらく待って落ち着いてから後片付けをやらせた。
横から見張って、指示を出しながらやらせたが、こいつはやっぱりどんくさそうだ。
洗い物は雑だし、何度も食器を落とすし、ぶつぶつ言ってて何を言ってるかよくわからんし。
でも、一応指示したことをしようとしてるし、ふろから上がって飯を食ったらかなり元気になった様子で一安心した。
病気はもういいようだし、これなら荷物持ちくらいはできるだろう。
午後は市場へ連れて行ってリンの服と装備を買ってやろう。
まあ、服は古着で十分だろうが、装備はある程度しっかりしたものを買わんとな。
荷物持ちの従者だからと言って装備に手を抜くと、ダンジョンに行ってから困ることになりかねない。
たまにそういうパーティーを見かけるしな。
荷物を積む背負子が途中で壊れたりしたら、せっかくの稼ぎをダンジョン内に置いてくる羽目になってしまうし、背負子自体も買い直すことになって、かえって損をするみたいだから、装備だけはしっかりと準備しよう。
しかし、奴隷を買って、装備も準備させて、食事なんかも二人分になるんだから、結構な物入りだ。
その分、しっかりと働かせて、今シーズンで目標額を稼ぎきらないとな。
◇◆◇
普段は一人で狩りをしているので、奴隷とはいえ人を連れていくのは、慣れてなくて抵抗を覚える。
以前は気の合う仲間とパーティーを組んで狩りや冒険をしていたが、いろいろあって今は一人だ。
ある程度の年になってきて、狩や冒険が遊びではなくて生活になってくると、人間どうしても金にうるさくなってしまう。
それでも、効率と安全を考えればパーティーを組んだほうがいい。
大抵のやつは、くっついたり別れたりしてメンバーを入れ替えながらもパーティーで狩りをしているし、ギルドも安全重視の傾向があるので、パーティーを推奨している。
今の俺みたいな一匹狼もいるが、一人だとどうしても効率が悪い。
そのため、人間関係に悩まなくてもよい奴隷パーティーを組むやつも珍しくない。
複数の奴隷を雇い入れて自分以外は奴隷だけで組むパーティーだ。
初期費用と経費は掛かるが、儲けは全部自分のものになるし、人付き合いに苦労する必要もない。
金さえあれば必要な人材を思うように選べるし、奴隷も人間だからどうしても性格が合わない場合があるが、損を覚悟できるなら気に入らない奴隷は売り払って別の奴隷に買い替えればよいのだ。
その辺を自分の思い通りにできるのが奴隷パーティーの良いところである。
ただ、そんなやり方をしていると奴隷購入時の初期経費だけでとんでもない額になり、よほど元手がないとできないし、そんなに金をかけて割に合う狩りはなかなかない。
だから奴隷パーティーを組むのは、貴族や金持ちの道楽か、錬成師ギルドや薬師ギルドから特殊な素材集めを引き受ける専門の冒険者くらいだ。
俺がやろうとしているのは、荷物や収集した素材などを運ばせるポーターの役割をする奴隷を買って、1回の探索でできるだけ長時間潜り、一気に稼ごうという作戦だ。
一人だと、もてる荷物に限りがあって、少し素材が集まっただけで荷物がいっぱいになり、引き上げることになって効率が悪い。
荷物は、替えの武器、食糧と水、傷薬や魔力回復薬、ロープやたいまつ、その他ダンジョン探索に必須の道具類だけで背負子の半分くらいは埋まってしまう。
そこに収集した魔石や素材を追加するのだが、魔石は重いし、素材には皮や毛皮、角や牙などいろいろな種類があり、結構かさばるものもあってあっという間にいっぱいになる。
一人で入ると、動きが制限される大きな背負子はもてないので、魔物に次々と当たる調子の良い日だと、半日もしない間に荷物がいっぱいになって引き上げることになってしまうのだ。
その点、専門のポーターには大型の背負子を背負わせることができるので、二人分の荷物を入れても十分な空きができる。
それと、魔物の中には陰に隠れていていきなり襲ってくる奴もいるので、動きが制限される背負子を自分で持つのは危ないことなのだ。
周りの様子を探って魔物を探す探索と魔物との戦闘には身軽でいる必要があるので、ポーターがいてくれるとそれだけでも大助かりだ。
重い背負子を背負うポーター自身は危険にさらされやすくなるが、背負子の中身はもちろん奴隷のポーター自体も俺の財産なのだから、当然俺が守る。すぐに死なれたり、怪我で動けなくなられたりしたら、何のために大金をはたいて買ったのか分からなくなるからな。
今シーズンの狩りでは、是が非でも大金を稼ぎたいので、一か八かで傷物の奴隷を買ってみたわけだ。
女奴隷は、男の奴隷に比べるとどうしても力が弱く、もてる荷物の量が少なくなってしまうが、男の奴隷の方が当たり外れの差が大きいというし、値段も高めだし、そもそも奴隷とはいえ知らない男と二人での探索というのは考えただけでも気疲れしそうなので、女奴隷を買ったというわけだ。
女奴隷にも当たりはずれはある。
だが、ダンジョン内では戦闘のできない女奴隷は主人を頼る傾向が強く、基本的に言うことをよく聞くらしい。
だから、怖がって動けなくなるような気の弱い性格でなければ、女奴隷の方が扱いやすいはずなのだ。
そうなのだが………………ちょっとリンの性格は想定外だったな。
何を言ってるのか言葉が聞き取りづらいし、聞き取れても意味がよくわからないことがよくあるし、一体何を考えているのかよくわからんやつだ。
はっきり言って、不気味である。
まあ、本人に面と向かっては言わないが……奴隷だって人間だから、仲が悪くなるとそれだけ扱いづらくなるし、叩いて躾けるようなやり方は俺の趣味じゃない。
2人だと、うまくいってないときに煮詰まりやすいのは奴隷でも変わらないだろうから、まあ、リンの好きそうな肉でも食わせて、機嫌を取りながらなんとかやっていくしかないだろう。
こいつの怪我や奴隷商館での扱いからして、これまでにいろいろと苦労してきたのかもしれないし、優しくしてやれば恩に感じて頑張ってくれるだろう。
決して、甘やかすつもりはないがな。
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