素人童貞の恋愛

負造

第1話 哲学

二十も後半にもなって恋人ができたことがないという男は、容姿あるいは性格に少なからずなんらかの難があることは想像に難くない。中でも不細工といえば、恋人ができない理由のきっと大半を占めるほどの重要事項だろう。

負造まけぞうも多分に漏れず不細工な男だ。27歳で恋人いない歴年齢、素人童貞である。


負造が本気で恋活を始めたのは26歳も半ばになってからのことである。

それまでは何の活動もしていなかったが、それは行動するより前に初めから恋人を諦めていたからである。


自分には一生恋人ができないだろうと、中学時代には自分の将来を予感し、時が経つにつれ様々な不遇の事象に遭遇する度、その確信は深まっていった。なので26も半ばの頃には当然その被虐な哲学を疑うことはなく、負造の血となり肉となり地動説のごとく当たり前の常識となっていた。負造に彼女ができるというのは天動説のごとき議論にも値しない与太話だったのだ。


故に行動しようが、しまいが、自分には彼女などどうせできないのだと初めから諦めきっていて、街行くカップルを見る度に心にルサンチマンの炎を灯すばかりの日々を送っていた。


そんな固まりに固まりきった哲学を疑い始めたきっかけは、とあるペテン上司の一言である。街コンなるものへ行けば、全員が恋人を探すという目的が共通であるから、あたかも簡単に相手が見つかるかのようにそそのかされた。


なるほど、たしかに日々を無為に過ごすことについては飽きるほどに慣れきっていた手練てだれであったが、街コンというものは自分の人生の中で、デブが減量習慣を決意した翌日にはその決意が崩壊しているに似た一刹那の時間ほども思考を巡らすこともなく、その存在はずっと埋もれていた。まさに未知の原子との遭遇であった。

なんだ、自分にはその発想がなかっただけで、そこへ行けばこんな不細工な自分でも相手が見つかるのだ、世の美女と野獣のつがいはそういうふうにしてのか、合点承知の助だ。長年放置され積み重なって、もはや誰も手をつけることができなくなっていたカビまみれの書類の下へ埋もれていた謎が解けた。負造はそう思い至り、すぐさま街コンの予約を取り街コンへ行くことにした。


負造は、どうしようもなくモテないし活発でも行動力があるほうでもないが、岩でも不動明王でもない。これだと思い至った場合にはわりかしに早く行動に移すのだ。

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