正直村と嘘つき村の住人

 道を歩いていると、二人の村人が分かれ道にいた。一人は正直村の住人、もう一人は嘘つき村の住人。君は正直村に行きたいのだが、どうすれば一回の質問で正直村に行くことができるだろうか?




 そんな問題を一度は聞いたことがあるだろう。答えは「あなたの住んでいる村に案内してください」だ。

 しかし俺は、この問題にずっと疑問を持っている。


 どこに疑問を持っているかと言うと、嘘つき村の住人は、自分の嘘に対して正直であるという矛盾なところにだ。俺から言わせてみれば、嘘つき村の住人も、自分自身のポリシーに対して充分正直だ。


 なぞなぞを現実世界に当てはめるのはおかしいかもしれない。しかし俺は、そんな頭でっかちな子供だった。


 このなぞなぞに出てくる嘘つき村の住人にはある目的がある。君の困った顔を見たいとか、実は住人はオオカミで、君を食べたいという目的が。それを達成するため、君を村に招きたいのだ。

 そんな考えがあるにも関わらず、住んでいる村を教えろと言われて正直村を案内する。ただの阿呆である。


 普通ならそこで一計を案じ、自分の村へ案内するという機転をきかせるはずだ。せめて相手に迷いを生じさせる選択肢は取る。ほいほい自分の嘘をつくという性質を利用されるのは愚の骨頂。

 現実の嘘つきがそこにいたら、まず間違いなくこんな正解とはならないだろう。ラ○アーゲームよろしくカ○ジ並の頭脳戦が勃発するはずだ。

 データ上の嘘つきと、現実の嘘つきはまず違うということだけ知って欲しい。現実の嘘つきはこんな単純ではない。


 こんな話もある。あと何百年後かには、日本の人口は十人前後になっているという統計データがあるという。


 はあ? そんなわけがあるか! ある程度の危機があったら、現実の嘘つきである政治家も何らかの手は打っているはずだ。

 それに何らかの政治の変化で、第三次、第四次ベビーブームも起こる可能性だってあるわけだ。そのままデータ通りに緩やかに行くわけはあるまい。


 このように、データ通りに現実は行かない。それだけは、絶対にわかって欲しい。


 あとすまない。例に挙げた漫画だが、君が成人した頃に通じるのかは保証できない。つい自分の知識の範疇にある物を何の考えもなしに出してしまった。俺の悪い癖だ。データ通りに生きた、俺の悪い部分が出てしまった。



 まあ俺がこんなビデオレターを撮ったのは、阿呆みたいなデータを出した専門家に一矢を報いるように産まれた君に、俺の人生論の一番の中枢となった考えを教えたかったのだ。


 現実の嘘つきと、そんなどうしようもない夫を選んでくれた正直すぎる妻から産まれた君には、ぜひ幸せになってほしい。そして願わくば、現実の嘘つきにはならず、正直村の住人のように育って欲しい。

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