五分の魂
さあ、ここで皆様にご紹介致しますのはこの棺です。一見すればただの木造でありふれたものですが、遺体が入ることでこの棺の力が発揮されます。
何とこの棺、中に入っているご遺体の生前の功績や努力を読み取り、棺自身が光りだすのです。もっと詳しく言えば、勇気によって人生を開拓したその心の成熟度を、光の強さによって計るという代物なのです。
口で説明するだけではわからないでしょう。では実際に、例をご覧にいれましょう。
ここに分厚い布に覆われた三つの棺があります。中にはそれぞれ火葬直前の、男女三人のご遺体が入っております。遺影、棺の中に入れた故人の生前好きだった物もそのままお借りしました。
ご遺族の方も最初はこの提案に怒っていましたが、こちらの気持ちを形として渡すと快く引き受けていただきました。
なお、この放送は生放送でお送りしております。
さあ、まずは一人目。この方は至って平凡な家庭に生まれましたが、その勤勉さによって国立大学に進学し、中堅の電機メーカーに就職。ついには部長の役職にまで就きました。そして五十二となった今年の秋、車との接触事故で死亡してしまいました。
最後の不幸を除けば素晴らしい人生と言えるでしょう。しかし、チャレンジ精神というものはあまりなかったのでしょうね。いつもご自身の能力に見合った場所へ妥協をするため、光はご覧のとおり、あまり光ってはおりません。淡い
もちろんこの平凡を維持するのも大変なことです。ただこの棺は、人生の決断や勇気を計るものだということをお忘れなく。
次は二人目。この遺影を見れば誰しもがその名前を知っている、ミスターマツヤマ! 全世界で注目を浴びたダンスパフォーマーです。彼が癌に蝕まれるとは……惜しい方を亡くしたものです。
そんな彼は、裕福な医者の家庭に生まれました。将来は約束されたも当然ですが、彼には幼い頃に見たダンサーになるという夢がありました。成人した日、彼は家族の猛反対を押し切り一人渡米してその夢を叶えようとします。
しかしその道は決して平坦ではありませんでした。体つきを笑われ、人種を笑われ、彼の心はいつ折れてもおかしくありませんでした。しかし数年が経った時、世界的に有名な番組でのパフォーマンスを切っ掛けに世界デビュー。一躍時の人となったのです。
そんな彼の棺の光は、何ということでしょう。本当に光り輝いています。さながら舞台の照明のように、熱を持った白色光が辺りを照らしています。やはりマツヤマは日本の宝とも言うべきですね。
ところ変わって三人目。この女性は、都内で練炭自殺をしました。平凡な家庭で生まれ、桃が大好きだった女の子。そんな彼女は、不幸にも小学校の時に陰湿ないじめを受けていました。そして不登校になり、わずか十八歳で自らの命を絶ちました。悲しい人生です。でも、もっといろんな道があったはずです。もう少し勇気を出して誰かと話し合えば、何かが変わっていたかもしれません。自殺にも勇気が必要ですが、それではこの棺は光りません。
その証拠に……うおっ! まぶし!
えっ、なんで? お、おい!
「どういうことだよスタッフ! 自殺者なのに、マツヤマとほぼ変わりなく光ってんじゃねえか。これじゃあマツヤマが霞んじまってスポンサーがお怒りだ!」
「そ、そんなこと私に言われましても」
「自殺者を引き合いにしてマツヤマを立てる。そして棺の注目度もアップする。そういう脚本だったはずだ」
「はい。その通りです」
「どこか壊れているはずだ。急いで中を確認しろ。これじゃあ二人の遺族に金を払った甲斐がないぞ。表は俺が繋ぐから」
◇
ふう、実に美味い。こんなつらい人生でも生きていてよかったと思えるほどの代物だ。
生まれた直後に兄弟も親も敵によって
しかしあの時、勇気を出さなければこれにはありつけなかった。これは甘い匂いを発していたが、そこには大勢の人がいた。即死する可能性のある場所を通らなければあれには辿りつけない。俺は慎重に、勇気を持ってそこを目指した。しかし人間は座ったままほとんど動かず、随分と楽に突破できた。そうして辿り着いたこれを、数時間掛け味わって食べた。
しかしここはどこだろう。やけに暗い場所だ。そう思った瞬間上から物音がして、隙間から異様に眩しい光が飛び込んできた。
(おい、どうだ)
(いえ、特に異常はないです。とりあえず中の物を外に出しましょう)
うおっと! 慌てて俺は物陰に隠れた。
(あれ? 光が収まったぞ)
(なんで桃を外しただけで?)
(まあいい。これで大丈夫だ。行くぞ)
たくっ! 何なんだ一体。
見上げてみると、何か箱のような物を運んだ人間の男二人がいた。
その木造の箱はなぜか、灯火のような薄い光を放っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます