衝撃の告白

「あなたのことが好きです」


 真っ直ぐで、情熱がはっきり伝わる言葉だった。胸が少し熱くなり、顔が赤くなっているのが自分でもわかる。


 衝撃の告白だった。初対面でありながらいきなり告白されるというのは初めてで、心の奥底がこそばゆくなる。そんなわけはないという否定が最初にわき上がったけど、まんざらでもない気持ちも私の中にあった。


 しかしだ。私の立ち位置を考えてみよう。


 例えばここが学校の屋上だとしたら、生徒同士の甘酸っぱい関係が今にも始まりそうなシチュエーションだ。あるいはここが小洒落たバーだとしたら、それは大人の関係を結ぶような場面だろう。


 だけど私が今いる場所は、病院である。そして、あと半年でその生命の火が消える病人だ。


「あ、あの。私、あと少しで死ぬんですよ」

「それはわかっています」


 どうして? どうして私なんかに?


 少し長めの金髪を横に流しており、伏し目がちな目は、逆にその端正な顔立ちに合った流麗な雰囲気を醸し出している。

 私が通っていた大学にいたら、おそらく多くの女子の目線を奪うだろう。スラリとした身体には、今着ている紳士のようなスーツがよく似合う。いいところの生まれなのか、その着こなしはこなれた感じがあった。


 故にわからなかった。どうして病気で死ぬとわかった、大してとりえもないこんな女に告白をするのか。


「別にこれからお付き合いをしようとか、デートをしようとかそんな無粋なことは言いません。ただ自分の素直な気持ちを言っただけです」


 私の疑問に、彼はそう答えた。


 それから彼は、私の病室に毎日来るようになった。初めは申し訳ないような気持ちがあって話はぎこちなかったが、回数を重ねる内に自然とそれは取れていった。それは彼の話術の賜物だった。

 彼は常に面白い話を持ってきてはそれを私に聞かせてくれた。一体どれほどの含蓄が、そして数多の経験が彼にはあるのかと思えるほどだった。


 現実に起きたある殺人事件の意外な結末や、末期癌を患った娘を持つ家族の感動秘話。感動からミステリーまで、実に多種多様な話を聞かせてくれた。それが私の沈んだ心に、再び鼓動を甦らせてくれた。


 私は大学に通っていたが、この病気のせいで中退しなければならず、後悔や苦しみばかりが私の身体を占めていた。両親につらく当たることもあった。だけど彼と会ってからは、そういったものが徐々に取れていく。両親もその変わり用に驚いていた。


 彼は病院に仕事で来ているらしく、会いに来て話をするのは昼の一時間ほどだった。そのため夕方に来る両親と会うことはない。だから両親には、いつかキチンと紹介しようと思っていた。


 しかし彼はいつの日か、パタリと姿を見せなくなった。初めは都合がつかなくて来ないと思っていたが、それから何週間も来なかった。


 そこから徐々に私の身体はいうことをきかなくなった。余命まであとわずかなこともあるが、生きる気力がなくなったのも原因かもしれない。


 衰弱する身体、ぼやける目。その視界の中に映るのは彼との思い出。もう彼とは会えないのか。そんな思いばかりが頭の中を占めてしまう。

 どうしていなくなってしまったのか。どうして私に告白をしたのか。死ぬ前に、彼と直接会って聞きたい。


 そして余命まで後数週間。叶うかもわからない願いと疑念の中、母親が手紙を持ってきた。何でも見知らぬ男から渡されたのだという。


 彼だ。とっさにそう思った私は弱り切った身体を起こし、その手紙を受けとり中身を読んだ。





     上野藍子うえのあいこ


 しばらく姿を見せずにすみません。どうしても抜け出せない仕事があったので、時間が取れませんでした。ですが、あなたが死ぬ前にどうしても伝えたいことがあって、今回は手紙という手段を取らせていただきました。


 事の発端は数カ月前。私はいつものように病院で仕事をし、そこで偶然あなたを見かけました。

 口にするのも恥ずかしいのですが、一目惚れでした。


 そこから私の気持ちを伝えた次第です。そこに何らかの意図、他意はないことを事前に言っておきます。純粋な私の気持ちです。


 前にも言いましたが、ここから何か特別な関係になろうというわけではありません。あちら側に行かれる前に、僕の思いを伝えたというだけです。そうでないと間に合わないと思ったからです。


 あなたはなぜ私に告白をしたのかと言いました。おそらくあなたは、もうすぐいなくなる自分にどうして構うのかと疑問に思ったのでしょう。

 ですが安心して下さい。私にとっては、その死への時間などこれっぽっちも影響はないのです。


 あともう少しであなたは死ぬことになりますが、怖がることはありません。仕事の都合がついたら、僕はあなたに会いに行けます。そこでもう一度お話しましょう。

 これからも末永く、よろしくおねがいします。





       死神より

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