第8話 西暦3000年? クラインの壺

その日、私は97歳の人生を終えた。

良いことも悪いことも相応にあったが、それでも全体としては良い人生だった。


だが、目を覚ました瞬間無粋なメッセージで余韻を粉々にされる。


「貴方は死亡しました。ゲームオーバーです。再度プレイする場合は・・・」


そう、今までの私はVRゲーム「クラインの壺」のプレイヤーキャラだったのだ。


「ちぇっ、あのまま死ねたら良い終わりだったものを」


別の人生を体験できるという触れ込みで発売されたクラインの壺は、設定しだいで剣と魔法のファンタジー世界から宇宙をまたにかけるSF世界まで自由自在に別の人生を送らせてくれる。

当然そんなものをやっているのは大なり小なり程度の差こそあれ、現状に不満をもっている人間ばかり。

私もまた、ゲームくらいしか楽しむ余地の無い生活を送る一人だ。


「そう言えば同じ名前の小説があったな、確か今いる現実が本当はゲームの中かもしれないという、内と外が分からなくなるという話だったか」


フン、と鼻を鳴らして忌々しげに漏らす。


「脳の作りが解明され、たとえ死んでも記録された脳のバックアップから復活させられてしまう今の時代からすれば実に羨ましいことだ。いつかは終わりがあるのだからな」


その数を大きく減らした人類の保護法が締結されたのはいったいどれ程昔だったろうか。

現在この宇宙の支配者は超高性能ロボット、ヒューマシンである。

人の手で作られた新たな人類は、絶滅危惧種である人類を保護するために死ぬことを許さないのだ。


「全く持って忌々しいことだ。一から育て直すより面倒がないからといって死んだ人間の意識をまた引っ張り出すなど。機械の癖に横着をするんじゃあないよ、まったく」

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