第7話 西暦4000年 人間の証明
「俺たち、別れよう」
その日、N氏はいつものカフェで彼女に別れを切り出した。
「あら、別にいいけれど・・・理由を訪ねても?」
「俺を別にして今何人と付き合ってるんだ?」
「5人よ。あら?あなたってそんなに独占欲の強い方だったかしら?私は恋人にボディの使い回しはしてないけれど」
「そういうことではないさ。ただこの状況に強烈な違和感を感じているだけだ」
「違和感?」
N氏はそこで息を吸い、今日まで考え続けた事を告げる。
「そうだ。機械と脳を接続する技術が確立され、人はメインとして脳を、サブとしてコンピュータを接続し、一人の人間が複数の身体を動かすことができるようになった」
「そうね。寿命が延びたとはいえ、人はせいぜい百年と少ししか生きられない。それ以上はハードウェアたる脳が耐えられない。依然変わらず人間一人の時間は有限。だからこそ端末である身体を増やして同時にこなせることを増やすのはごく当たり前の事でしょう?」
「それだよ。その当たり前が俺には受け入れがたいんだ」
「へぇ、あなたって
「まさか。俺だって頭にマイクロチップくらい入れてるさ。だがこれは行き過ぎだと感じるんだよ。街を行く人を見てごらんよ。服装、髪型、化粧。それで区別をつけているけれど同じ顔がごろごろしている。こんなに人が溢れているのに脳で数えたらいったい何人になるんだろうね?」
N氏の言うとおり、窓からカフェの外を見れば同じ顔が、いや、『顔だけ同じ』人間が行き交っている。
「それが不自然だと?」
「ああ、以前自分で別のボディを作ったとき、自分が自分を見つめているという感覚が受け入れがたいものだった。それからこの光景に言い様の無い何かを感じるようになったんだ」
彼女はしばしふーむと考え、そう。と小さく漏らした。
「あなたの言いたいことはわかったわ。それじゃあ、さようなら」
「ああ、さようなら」
彼女が立ち去り、しばらくしてからN氏も家へ帰る。
その道すがら、別の男とそれぞれ別の格好をした彼女が共に歩いてる姿を何度か見かけた。
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