第4話 no face no future....

男は整った容姿をしていた。美男子、という言葉がこれ程ぴったりな男もなかなかいないだろう。

しかし男は、その容姿から想像できぬほど、荒々しく、怒りに満ち溢れていた。


かつて彼は非常に勤勉で、真面目なデブリ回収業者だった。だった、というのは、彼の容姿に関わる事件から、現在のバウンティハンター稼業に転職することになったからである。


毎月、帝都から月面に向けて定期便が就航しているのだが、安全な航路を確保するために、軌道上のデブリ、つまりゴミを回収することを生業とする男たちも存在した。危険な仕事であり、帝都からの通達で下町に雇用枠が割り当てられる非正規の労働者であり、収入は下町の一般的な生産者たちの倍は稼げる仕事であった。彼はこの仕事に誇りを持っていた。そして稼ぎをつぎ込んで、いずれは定期便の操縦士になるためのIDを手に入れるという夢ももっていた。



その日もまた、回収業務の依頼が入ったので、彼は港に朝早く出勤し、回収ポッドのメンテナンスをしていた。出港まであと数刻。いつもと同じ、仕事のはずだった。


出港直後のシップから、爆発が起こったのは、彼がポッドに乗って、先導軌道上に乗った直後だった。ポッドとシップは、20ミリ径の超硬ワイヤーで繋がれている。海賊!存在は知っていたが、遭遇したのは初めてだった。墜落するシップに引きずられるように、彼のポッドは弧を描き、凄まじい勢いで港のカタパルトに叩きつけられた。計器に顔面をめり込ませ、意識を失った。



目を覚ました時、病室でメディカルロボットから告げられたのは、顔面再生手術が施され、延命処置により生きながらえたこと、そしてあの事件から、3年の時間が経っている、ということだった。

病室の使用料は、法外なことで有名だった。クレジットの残高が底をついたので、ショックメディシンで蘇生されたらしい。


メディカルロボットは抑揚のない声で、八本のチタン製の歯をいれたこと、頭蓋骨の一部にチタンシェルを使用したこと、表皮は再生細胞で覆ったが、元のデザインにはならなかったこと、3年分のベッド使用料と延命処置費用、見舞いに誰も訪れなかったことなどを教えてくれた。

病室の鏡を覗き込んだ男は、愕然とした。

絶世の美男子がそこには映っていたが、それは別人の顔でしかなかったからだ。

爪が食い込み、手のひらから血が流れるほど握ったこぶしを震わせ、

男は呻いた。「俺の、顔を、返せ。」

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