第20話 神奈川駅MU重連追跡作戦
みんなは小型浮上装置MUに乗って、自衛隊の装甲列車を追撃している。
横浜駅から京急線をゆく装甲列車を追う。横浜駅北側の首都高三ツ沢線の巨大な高架をくぐる。
そして神奈川駅手前の巨大な6車線の青木橋跨線橋の上を通る。人々が下を通っていった装甲列車よりも、彼女たちを乗せて超低空をゆくMUに驚いて、また口をあんぐりと開けている。
先をゆく装甲列車は車重が重たいのか、加速が鈍いのだが、それでも、彼女たちはじりじりと引き離されていく。
「どんどん引き離される!」
「MU、遅いー」
みんなは口々に言う。
総裁はそのとき、集まれの合図をした。
「こういうときは、このみんなの乗っているMUをブーストするなり」
「できるの!?」
「MUを併結して、パワー増強をはかるのだ」
「ええっ」
「そりゃ確かにMUには前後のカバー内にMU同士を連結できる連結器ついてたけど……」
ツバメが半信半疑で、ほかのみんなもそれぞれいぶかしんでいる。
「ここは、なんでも、やれるだけやってみましょう!」
それに詩音が、強い声をかける。
「そうよねえ」
*
途中、みんなは京急線とJR線が離れていく分岐にある駐車場に降りる。
降下したMUを接近させ、併結作業を進める。
MUの連結器カバーの内側のレーザー距離センサーが距離測定と、正確な連結の位置合わせをガイドしてくれる。
そして、正確に連結が行われ、同時に電気的な接続も行われる。
MUはこれで同時に一人の操作で複数のMUを操作できるようになった。
「これ、6台全部併結しちゃうの?」
「追跡作戦なので、ここは少しでもパワーのほしいところなり。なおかつ1列に連結すれば、前面投影面積を減らせて、空気抵抗も減らせると思うのだな」
みんなは連結作業をおこなった。
「これ、重連総括制御……」
「ますます鉄道車両みたい」
「というより、なんかこれ、絵的に運動会でやったムカデ競走みたい」
「さふであるな。では、離昇するぞ」
*
「すごい! 連結したらスピードがどんどん上がっていく!」
重連を組んだMUの思わぬ高速性能にみんなは歓声を上げる。
「装甲列車も、最高速度が110km/hが限界であるようだ。重たい装甲車両の割には高速であるといえるが。だがこれならフルパワー6重連のMUで追跡は可能なり」
静音性に優れていたMUが、珍しくうなりを上げてこの驀進を実現している。
その様子が、この追跡の困難さと、それに立ち向かうみんなの勇気を示す効果音のように聞こえる。
「幸いヘッドセットが風よけのゴーグルにもなってくれますね」
「でも、このままだと羽田空港に行くかもしれないし、京成線経由で成田空港まで行っちゃうかも!」
「カオルくん!」
「やってます! 京急のシステムに介入するには時間がありませんが、京成線内に入れないように、今、京成のシステムと都営線内の進路形成システムに介入しています!」
傍らでマゼンダのサインが浮かんでいる。
「マゼンダ、がんばって!」
*
京急蒲田の高架に入って抜け、さらに京急川崎の鉄橋も通り抜ける。
「羽田には行かない……脱出狙いではないの?」
蒲田を通過しながら、みんは驚いていた。
しかしそれにかまわず、装甲列車はYG(黄色・青)の点滅の信号現示に向かって突進する。
先頭車両が信号機の脇を抜けると、信号機が赤になる。
通常の鉄道車両と同じ反応だ。
「信号システムは既存のものを使ってるのね」
「おそらく。京急線内を含め、進路形成を行うCTC指令システムすべてがAIにやられておるのだろう」
*
「品川を通過する!」
「浅草線に入るわ!」
そのとき、カオルが声を上げた。
「押上駅構内の進路形成の妨害に成功しました。これで装甲列車は浅草線押上より先、成田方面にはいけません!」
「よし、都営浅草線で袋のネズミであるのだ」
「でもあの装甲列車が本気出して反撃してきたら? 向こうは機銃銃塔まで持ってるわよ。とても拳銃じゃ勝ち目ないわ。いくらMUの機動力があるとしても」
「それはそれで、そのときであるのだ」
みんな、そのまま装甲列車を追跡して、浅草線のトンネル内に飛び込んでいく。
*
曲がりくねる暗いトンネルの中を、ちらちらと見える装甲列車の赤いテールランプを追い続けていく。
「大門、通過!」
「うぬ!?」
総裁が気づいた。
「装甲列車が速度落とし始めた!」
「新橋に停車するのであるか?」
なんと、みんなの目の前、新橋で装甲列車は停車したのだ。
トンネルの物陰にみんな、とっさに隠れる。
「新橋で……なぜ」
そのとき、装甲列車の後尾の赤いテールランプが消え、代わってまばゆいHID前照灯が、カッと睨みつける眼のように光った。
「スイッチバックしてくる!」
みんなは追われる立場になった。
「こっち見てるー! イヤー! 夢に出そうー!」
「それより退避せねば!」
そのとき、カオルはトンネルの横を見て、直後に口をあんぐりと開けた。
「あ、あ!」
「どうした!」
「短絡線です! マゼンダも調べられなかった未知の短絡線がここに!」
「列車がこっちに向かってきた!」
「退避、退避!」
みんなは地下鉄トンネル内を逃げ惑う。
それを知ってか知らずか、列車は悠然と、金属質のジョイント音を響かせながら、短絡線に入っていく。
「これは大江戸線とつながった汐留短絡線ではないぞ」
「というか、この短絡線、第三軌条がありますよ」
「ということは」
「東京メトロ銀座線と、都営浅草線を短絡してるんだ!」
「うむ、銀座新橋間でこの両線は平面図では接近しておる。いつの間にかトンネルをつないでおっても、地上からでは目立たない!」
「それに、この前新橋で見た地下鉄の工事って、これだったんですよ!」
「さふであったのか!」
みんな、トンネルから留置線スペースに逃げて、装甲列車から退避し、やりすごす。
とおもったら、その留置線を見ると、
タイルで描かれた駅名標には「新橋」の文字。
「幻の新橋駅!」
「あの有名な、取材なかなか許してもらえないところ!?」
「うむ、留置線として使われておるらしい。これとは別に汐留短絡線と、今回の銀座短絡線があるとは、新橋の地下は、まさに複雑怪奇なり」
「あの装甲列車、銀座線の第三軌条集電にまで対応しているなんて」
「標準軌になっている鉄道で小断面地下鉄の建築限界以上の大きさであればほぼすべてに入線可能って……どれだけ便利に作ってあるの?」
「まあ、そりゃ税金で作るから、お金かかりすぎない範囲で便利に作るのはいいことだけどさー」
「ともあれ追跡を続けるのだ!」
*
列車は虎ノ門、溜池山王を通過する。
「都心直下にどんどん迫ってる」
再びトンネルの向こうに大きな明かりが見える。
「あれに見えるは赤坂見附駅なり」
「ちょっと待って! また何か装甲列車の様子が変よ!」
「またスイッチバックしてくる!」
「また!?」
「ここも銀座線と丸ノ内線を結ぶ構内短絡線があります! 銀座線の車両の検修のときに丸ノ内線の基地に車両を回送するための構内連絡線です! あの装甲列車、丸ノ内線に入るんですよ!」
「うぬ、見えてきたぞ」
総裁はさらに瞳を輝かせる。
「おそらく賊は、このまま、あの奪った装甲列車で、日本の首都中枢を地下から襲撃するつもりなのだ」
「そんな…」
「第一、列車の賊は何を持っておるかわからん。核、病原体、あるいは毒ガス。どれでも使われれば首都中枢、そしてわが日本の政府中枢は、壊滅的打撃を受ける」
「丸ノ内線のこの方向の先は国会議事堂前駅、そして霞ヶ関駅!」
「最悪だわ!」
「カオルくん!」
「やってますけど、アスタリスクの応援があっても情勢が悪いです!」
列車はなおも進んでいく。
総裁は、決断した。
「かくなる上は、あの走行中の装甲列車に突入し、中から賊の企みを阻止するのであるな!」
「そんな!」
「ほかに方法はない!」
「そうだけど」
「ゆくぞ!」
総裁は率先して装甲列車に追いついていく。
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