第19話 横浜駅装甲列車追跡作戦!


 みんなが、いつもの海老名扇町の地域センターにある詰め所で、話をしている。

 MUとMUの予備バッテリの充電も進んでいる。

「あ、カオルちゃん、私たちのケータイのパケ代、この鉄研事業団の経費に申請できない?」

「できるわけないよ。常識で考えようよ」

 会計もやるカオルが即座に一刀両断である。

 ほかにも模型や鉄道雑誌見ながらみんなは話しているのだが、その内容は、どうしてもあの大江戸線・落合南長崎駅で見た、謎の列車の話にまた戻ってくる。

「あ!」

 華子が突然、何かに気づいた。

「どうしたの?」

「あの列車、例のパナマ文書で有名になったケイマン諸島に、お金をいっぱい積んで持って行くのに使ったんじゃない?」

 華子がそう、ドヤ顔で言う。

「でしょ! だったら説明つかない?」

 みんな、呆れる。

「そんなバカな」

「華子ちゃん……」

「あのパナマ文書で問題になったお金は、そんなお金の量を遥かに超えているのですわ」

 華子は、真っ赤になった。

「……またぼくをバカにするー!」

「そういう怒った華子ちゃんも、相変わらず愛くるしいですわ」

 詩音がなだめる。

「ああ、そうなだめる詩音ちゃんは真の癒し系だよー!」

 その詩音の胸に御波が抱きつく。

「御波ちゃんはもうその充電、いい加減飽きない? ヒドイっ」

 ツバメが呆れる。

「私、充電すればするほど元気になるの」

 みんなも、また呆れた。

「へんなの」

 カオルがそうつぶやいた。


 総裁はそれを微笑んで見ながら、何かの書類をパソコンで書いている。


「総裁、なにやってるの?」

「うむ、今回のことを、テキストにまとめておるのだ」

「あ! そういえば、これまでの私たち鉄研の活動記録ってどうなってるの!?」

「それなら1年の時のは『鉄研でいず』としてこのカクヨムにもあるし、もっと読みやすい電子書籍版が各電子書籍ストアに配信されておるのだな。2年のときの記録も電子書籍版で『鉄研でいず2』として配信しておる。Aが上巻、Bが下巻であるのだな。3年の卒業までの話は現在『月刊群雛』という雑誌で連載中なり。各員、参照されたいのだな」

「ああー、ほんとだ!」

「さすが電子の時代ですね!」

「紙の本でもBCCKSでなら入手可能なり。これが紙の本として製本された我らの記録なり」

「おおー!」

「すごい! 本文モノクロだけど、ちゃんと写真もモノクロながら綺麗に出てますわ!」

「でも、これってステルス・マーケティング……」

「というか、ぜんぜん隠れてないわよ! ヒドイっ」

 ツバメが呆れる。

「でも、ほんと、いろんなところに行って、いろんな発見があったわねえ」

「うむ。遊び呆けておったつもりであったが、気がつけば日本の地方創生とよばれるものの実態を見る旅になっておった」

 みんな、それぞれに電子書籍版を見ている。

「常磐線に乗っている時、林の中に出現する、巨大なイオンモールも見たわねえ」

「うむ。イオン公国化であるな。地方にかぎらず、個人商店はどこも絶望的な苦戦に追い込まれておる。そしてイオンモールがどんどん出来て、コンパクトシティとして行政によって作られたモールと対決して、多くは行政が負けてしまうのであるな。結局中心市街地の行政の作った建物は、はじめ商業ビルであったのが、テナントが次々と撤退、多くは行政組織の入る庁舎になってしまっておる」

「そうでしたわねえ」

「本厚木のパルコも2軒もあったのだが、結局どちらも生き残れなかった」

「厳しいよねえ。ヒドイっ」

「そして、マルイは海老名に移転、一番のショッピングビルは今はやはりイオンになってしまったのであるな」

「本厚木もイオンだよねえ」

「さふなり」


 そこに総裁のiPhoneが『踊る大捜査線』の着メロで鳴った。


「む、竹警部からメールなのだ」


「結構かかってくる人に合わせて、着メロ変えたりして、総裁マメよね」

「そうね。兵庫のミエさんのときも『ガールズアンドパンツァー』の着メロにしてたし」

 みんながそういうなか、メールを読んでいる総裁の表情が変わっていく。

「え、どうしたの?」


「うぬ! 竹警部がピンチなり!」


 みんなに総裁はメールの内容を説明する。


「ええっ、竹警部、人質に取られちゃったの!」


「横浜で神奈川県警公安部とともに内通者を追跡中、逆に捕まった、とのことであるな」

「警部……なんでそんな」

「足で稼ぎに行っちゃったんじゃない?」

「そうかも」

 総裁はスクッと立ち上がった。勢いがついていて、座っていた野暮ったい事務椅子が転がっていく。

「これは我々も救出に向かわねばならぬ! ワレ、直チニ之ヲ救援セントス! 本日天気晴朗ナレド波高シ、なのである!」

「でも、また相手、テロリストは銃持ってるかもですよ!」

「うむ。その場合のために」

 総裁は歩いて、みんながパトロールに使うジャケットロッカーの隣、もうひとつのロッカーを開けた。

「皆で揃いの防弾チョッキが、昨晩届いておったのだな」

「えええ!」

 総裁は次々とみんなに防弾チョッキを渡す。

「しかも、竹警部が非常に困難な交渉の末にこれを用意してくれておった」

「えっ」

「9番のロッカーの鍵である」

 総裁はキーチェーンのその鍵で9と記されたロッカーを開けた。

「え、9番ロッカーって、これまでここに来てから、ずっと開けたことないですよ」

「さふなり」

 総裁が開けたそのロッカーのドアの向こう。


 メタルの黒光りが、ウッドの掛台のうえで鈍く輝いている。

 その下には、彼女たちの指定管理者の身分証カードと交換するようになっている持ち出しカード。


「きゃあっ!」


 詩音がおもわずその物騒さに、声を上げる。


「人数分のベレッタM92F自動拳銃なのであるな」


「ほ、本物の銃!?」


「さふであるなり。いつもひったくり相手に防犯ネットランチャーの扱いをしておるので、この銃なら反動も小さく、そのランチャーの延長で扱えるであろう、とのお話であった。

 ハリネズミのように武装させてやりたいとの竹警部の言葉は本当であったのだな。

 これを持って、横浜へMUで急行するのである!」

 みんな、銃に驚いて動けない。


「うむ、身分証とこの持ち出しカードは交換なのだ。紛失するわけにイカンからの」

「刑事ドラマみたい」

 御波が言う。

「各員、整列。ひとりずつに拳銃を渡す」

 みんな、戸惑ったが、意を決して、並んだ。


「武器は身を守ってくれる。大事に扱うのだ」


 みんな、頷きながら身分証と、カードと拳銃を交換する。



「これで全員が拳銃を携帯したのであるな」

「はい!」

「でも、MUだとこの海老名から横浜は遠いー」

「そこは! さらに相鉄に、MUの鉄道車内乗り入れを許可してもらってあるのだな!」

「えええっ!」

「パトロールの範囲を広げて欲しいという要請があり、交渉しておったのだ」

「たしかにMUは小さいから、乗ったまま電車にも乗れるけど……本当?」

「ワタクシがこれまで嘘をついたことがあったか?」

「……そういやそうだけど」

「さふであるな。では、皆で海老名から横浜に向けて、相鉄線で出撃である!」

「でも、その前に」

 御波が言った。

「あれやりましょう」

「え、あれであるのか?」

 みんなはハイタッチして、声を揃えた。


「本日もゼロ災で行こう、ヨシ!」



 相鉄線の電車は、途中で止まった。

「うぬ、この駅で抑止とな!」

「横浜駅構内がおかしなことになってるわ。不審物発見のために退避命令が出てるって」

「うぬ、それは警察公安が人払いによく使う手であろう。ゆくぞ」

 MUは相鉄の駅から、横浜の空に飛び立った。


 いつものように、スイスイと空をゆくMU。

 それに乗ったみんなは、防弾チョッキを着て、ホルスターに拳銃を持っている。

「拳銃って、冷たくて、重い」

 御波はそうつぶやいた。

「武器の、命の重さなり。大切に扱うのだ」

「でも、こう言うとアブナイけれど、これ触ってると、すこしホッとする。不思議」

 総裁は先を行きながら、少し考えた。

「武器とは、本来そういうものであるかもしれぬ。自分の命を守ってくれるものであるからの」

 そう言ったあと、総裁は口にした。

「『牙のない獣』と、中島みゆきは人間のことを歌っておったな。身を守るにはそういったもののない人間にとって、窮地に陥ったとき、傷つくだけの自らの身を守るのもの、武器だけが頼りとなる。そういうものかもしれぬ」

 御波は考え込んでいる。

「そうですね」

「うむ」


 みんなはMUで東海道線・横須賀線の線路上に出た。

「横浜駅までもうすぐなり!」


「やっぱり!」

 横浜駅の京浜急行ホームに、そのオリーブドラブ、濃い緑色の列車は、いた。

 隣の紅白の京急の電車に比べ、あまりにもその様子は異様だった。


「JRSDF(鉄道自衛隊)・都営地下鉄99-900形、AT-ZSだって!」


 識別情報がMU操縦用のヘッドセットに表示される。


「む、やはりあれは自衛隊の所有する、秘密の地下を征く装甲列車であったのか!」


「うわ、機銃塔が付いてる!」

「でも、動力が入ってないっぽい! 動きがないわ!」

「今のうちに接近して死角に入るのだ!」


 みんながMUをフルスピードで突進させる。


「あっ、走りだしちゃう!」

 気づく華子の目の前で、装甲列車は品川方面へ走りだした。


「賊に乗っ取られておるのだ! おそらく竹警部はあの列車の中であろう!」


「追いかけましょう!」


 みんなが言う。


 それに総裁はうなずぃた。


「で、あるのだな!」


 追跡作戦が、始まった。

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