第17話 品川お台場鉄研紀行

「久しぶりのお出かけだねー」

 鉄研のみんなは海老名に集合し、相鉄線に乗り、横浜周りでお台場を目指している。

「教授、お台場の未来科学館でMUの発表展示って言ってたけど」

「お父様もアガり症なので心配ですわ」

 詩音が心配している。

「まあ、大丈夫でしょう」

 その鉄研のみんなは、やっぱり先頭車両に乗っている。

「相鉄もATS-P搭載になっちゃったねー」

「相鉄式ATSが懐かしいのう」

「総裁、どんだけ昭和の感覚なんですか 」


 車窓を見ながらみんな話している。

「西谷の工事もだいぶできてきたねー」

「うむ。今の相鉄はリアルでゲームの『A列車で行こう』の状態であるからの。路線拡大の野望に燃えておるのだ」

「相鉄の電車のブルーの新塗装、随分シックだよね」

「でも相鉄の塗装変更は何度目かわからぬ」

「正直、軽く迷走してるよね」

「それも相鉄らしさなのであるな」


 横浜駅で乗り換える。

「横浜駅もだいぶ工事終わったね」

「でもまた西口の再開発で大きなホテル作ってるみたい」

「横浜駅の増殖は止まらないのかー」

「この前来た時も増殖してたね」

「うむ。でも自動改札機が人型になってSuicaのタッチを求めてこないのは、やはり安心できるのだな」

「総裁、変な影響されないでくださいよー」

「うむ。あれは『梅田地下オデッセイ』に匹敵する伝説になるであろうの」

「ほんと、よく見てるわねえ」

「ワタクシもああいうのには興味があっての。む。ここから京急で品川経由、新橋乗り換えでお台場なのである」


 京浜急行の快速特急に乗ったみんなは、やっぱり先頭車両からの『前展望』を楽しんでいる。

「京急といえばこの大回転運転よね」

「ギリギリまで減速を渋り、矢のように加速する!」

「あとトラブル時の逝っとけダイヤ!」

「有名ですわ」

「なにげに車両につい最近までアンチクライマーもついておったし、また先頭車両を電動車にして車重を稼いで脱線事故時に吹っ飛ばないように考えておるなど、京急もまた独特の私鉄文化なのであるな」


「おおー、『蒲田要塞』が見えてきた」

「京急蒲田駅も、鉄道の立体交差もここまで来ると、まさに圧巻であるの」

「切り欠きホームの車止めもまた見ていて楽しいですわ」

「あの車止めはRAWIE社製であるのだが、車止めのRAWIEという社名のあるべきところにKEIKYUと書いてあるのも実に京急らしい」

「車止めがオーバーランした列車を止める様子の動画あったけど、あれは廃止になった京急の旧1000形が止められてたねー」

「RAWIE社のHPにアップされておったな。車止めは大事であるな」

「車止めマニアってあるもんねえ」

「さふなり。車止めはメーカーも違えば止め方、ダンパーの使い方なども非常にバリエーションがあって考察すると楽しいのであるな」

「そして蒲田といえば、『当駅止まりの列車が通過します』のアナウンス!」

「当駅で止まるのに止まらない謎のアナウンスね」

「蒲田はまさに列車観察のネタに困らないのう。ラッシュ時はめまぐるしく列車が行き来するし、停車している列車ギリギリまで接近して止まる後続列車。まさに路面電車感覚なり」

「その路面電車感覚で限界までかっ飛ばすから素敵ですわね」

「うむ。京急は実に楽しい私鉄の一つであるのう」


「多摩川渡りますね」

「うむ。多摩川前の京急川崎といえばやはりダブルクロスが鉄橋の上にあるのが楽しいのであるな」

「川の上のクロスポイント。『タモリ倶楽部』でもやってたー」

「さふなり。かつては京急川崎を出発する列車の車掌さんが側開戸を開けたまま、片足を宙に浮かせて出発、ホーム監視をするのが見られた。あの片足浮かせてるのがホームがなくなったところまでやっておったのが実に威勢がよくて、これまた京急らしかったのであるな」

「今はドア閉めて窓から首出してやってるよねえ」

「『亀の子』というのであるな。やはり危険であるからの」

「そうだよねえ」


「品川に着くー」

「品川も狭いこのスペースを駆使する様子が実に見所多い。JRをまたぐ橋の配置にも苦労が見られる。また2面3線しかない駅を駆使してとんでもない発着列車をさばく様子も素晴らしい。それを支える分岐器の確実かつ高速なる動作は、まさに線路維持の腕の確かさ、信頼性といえよう」

「YouTubeにもアップされてたー」

「さふであるな。また、久里浜方面に出発する快速特急の前面窓を出発前に運転士さんがホースとモップで洗っている風景など、実に良い。また京急は運転台も、速度計が黒字白文字のメーターが実にスポーティーであるな。普通の他社は白地に黒文字であることが多い。運転ダイヤも横型の小さなものを使っておるのが実に渋い」

「ここから都営地下鉄の浅草線ですねー」

「うむ、ここから線路はふた手に別れ、一方は留置線へ、一方は都営浅草線のトンネルに向かっておる。品川の京急の留置線の運用も実に複雑で興味深い。限られた線路と有効長をめいいっぱいに使って、縦列停車までしておるのが面白い。実際、これには鉄道員さんのご苦労もあると思うのだが」


「浅草線でこのまま新橋ですね」

「トンネルばかりであんまり見所ないかなあ」

「浅草線は古い地下鉄であるので、開削工法らしきトンネルが多い。そういうトンネル掘削法の違いを楽しむのもまた面白いのだが、いかんせん暗くてよく観察できぬ」

「あ、もう新橋です」

「うむ、汐留短絡線は見えないのか」

「え、短絡線があるんですか」

「さふなり。大江戸線の電車を検修で馬込車両基地に回送するための短絡線があるのだ」

「ええっ、でも大江戸線はリニア式で、浅草線は架線方式の通常鉄道ですよ」

「両方を行くことのできる事業用の機関車が都営地下鉄にあるのだ。都営地下鉄は日本の地下鉄で唯一電気機関車を保有しておる地下鉄なのだ」

「そうなんだー」

「E5000形ですね。日本の地下鉄史上初の機関車!」

「さふなり。2車体方式で、パンタグラフを浅草線用に2つ、大江戸線用に1つ、合計3つも搭載しておるのだ。馬込に配置されており、夜間に汐留に回送された大江戸線の車両をそこで連結し、浅草線に牽引するのだ。いつも馬込に置かれているという。時折終電前の浅草線で目撃されることがあるらしいが、実は深夜の浅草線は走っていても、大江戸線内を走行したことはあまりないらしい」

「興味深いですね」

「事業用の車両って、どうしてこう興奮するんでしょう!」

「ああ、また詩音ちゃんが妄想はかどってるー!」

「それでこそ詩音ちゃん!」

「うぬ、御波くんは詩音くんの胸での充電は自重されたいのであるな。ここで降車である。用意するのであるな」

「でも、短絡線、見えないねえ」

「やはり暗くて見えにくいのう」

「よく見ると見える気もするけど、あっちこっちに短絡線があるようにも見えちゃう」

「それは気のせいであるのだな」

「そうだよねえ」


「ここから『ゆりかもめ』でお台場なり」

「また前展望!」

「しかも自動運転だからバッチリ見えますね!」

「うむ。省力化で自動運転を入れたのであるが、その実非常時の救援運転のために各駅に運転士資格を持つ人間を駅員として配置しておるという。結果人件費の圧縮ははたせなかったとも」

「なかなかむずかしいのですわねえ」

「しかし、レインボーブリッジへ登るためのループ線など、非常に興味深い」

「ゴムタイヤ新交通システムのこの揺れも独特ですね」

「さふなり」

「む?」

 総裁が気づいた。

 小さな子が、前を見たそうにしている。

「うむ、ここは前展望を譲ろうとぞ思いけるのであるな」

「そうですわね。どうぞ!」

 子どもたちが喜んでいる。

「うむ。楽しみを譲り合ってこその鉄道の楽しみであるの。これこそテツ道精神の発露なり」

「そうですわねえ」


「うむ、船の科学館が見えてきた。未来科学館の最寄り駅であるな」

「そういえば」

 ツバメが言い出した。

「新宿港町の船って、何なんでしょうね」

「特撮用のミニチュアかなあ」

「うむ、後で新宿にも降り立って、そこも捜索するのであるな」


「すっかり新しい街になりましたね」

「さふであるな。作られた木陰の木も明るい緑で、海風も気持ちの良いニュータウンである。しかし、造成された市街、地震による液状化や、連絡する橋梁やトンネルの途絶などで孤島化しかねぬと思うのであるな」

「熊本の地震もひどかったですものね」

「うむ。しかし、地震列島・日本に住む限り、明日は我が身なのだ。そのための防災と福祉であるの」



 そして、未来科学館をみなはあとにした。

「教授頑張ってたねー」

「大汗かきながら懸命のプレゼンでした!」

「しかし、MUは交通を革命するものであるな。実用化ができればよいのだが」

「まだまだ実験レベルの感じもしましたねえ」

「試練は続くのであるな」

「お台場も相変わらず賑わってますねえ」

「新たな世代がまた科学に興味を新たにしておった。こうして文明は受け継がれていくのであるな。心強かったのである」


 また新橋で乗り換える。

「ここ、また工事してるね」

「新しい地下鉄かな。地下鉄工事って書いてある」

「そういや都心短絡線ってあったわね。浅草線をバイパスして京成と京急をつなぐ新線計画。でもあれ、まだ出来てないでしょ?」

「計画されてるとは聞きましたが」

「できてるんじゃない? 昔の『交渉人真下正義』って映画だとそういう感じのシーンがあるわ」

「やだなー、これは映画じゃないんだよー」

「小説ですわねえ、わたしたちの話」

「さふなり。では、これから大江戸線落合南長崎のKATOの総本山、ホビーセンターKATOに向かうのであるな」



 その帰り、また大江戸線落合南長崎の駅ホームで、みんなは電車を待っていた。

「うむ、今日はホビーセンターKATOのアウトレットコーナーにいい出モノがなくて残念なり」

「いつもはジャンクの車両とか、もっといっぱいあるのにねー」

「今日は格安のジャンク車両ケースすら無いとか」

「こういうこともありますわよ」

「だれかモデラーの人が買い占めちゃったのかな」

「うぬ、それは否定できぬ。だが、その代わりに車両のASSYパーツをどっさり所望したのであるな」

「これで模型車両づくりがはかどりますわ!」

「詩音ちゃんはかどるの妄想だけじゃないんだねー」

「まっ! 私はオカルトよりも模型のほうが好きなのですわ」

「それは知ってるよー。冗談だよ―」

「でも、いつもながら置かれた巨大レイアウトは興味深いものであった。モデラーの作る模型ジオラマとメーカーの作る模型ジオラマは、やはりどこか違うものであるな」


 そのとき、駅に自動放送が流れた。

 回送電車が通過します、というものだった。


「何が来るんだろう」

「いつも、ワクワクしちゃうわよね。テツの血が騒ぐってやつ」

「大江戸線は全部12形でしょ」

「12-000形か12-600形かって違いがありますわ」

「似てるけど微妙に違うのよね」

「鉄道車両はその違いが楽しいのですわ」

「そうだよねえ」

「大当たりで機関車E5000がくるとか!」

「まさかねえ」

「でも、ホームドアがあると、通過する電車が見えにくいよね。つまんないー」

「デスヨネー」

「安全のためにはしかたがないのですわ」


 だが、来た列車に、みんなは言葉を失った。


「えええええっ!!!!」

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