リリースノート(加筆記録)

16.4.8リリース分のお知らせとノート(労働制度とパナマ文書関連)

 このエントリは、本編の完結後に加筆したところを差分とともに紹介するエントリです。

 いや、全部きっちり出来上がってから公開すればいいじゃん、ってのはあるんだけど、残念ながらなんとかの知恵は後で回るのです。

 しかもネタ的にしばらく新情報とか入ると思うので、それに合わせたバージョンアップ、メンテナンスの必要な話だとこの「鉄研・バーズアウェイ!」を思うのです。

 というかウェブ小説ってそれができるものだと思うんですよね。で、ある程度したらフィックスしてパッケージとしての本にするというやり方もあるんじゃないかと。

 そこで、そういう機動的な小説の作り方をやってみようと思ってます。せっかくそれができるウェブ小説ですから。

 拙速ですが、巧遅では追いつけない題材の小説もあると思うのです。そういうスビード感を持った小説の可能性をちょっとやってみたいと思っています。うまくいくかはわかりません。失敗したら笑ってくださって大丈夫です。




■■2016.4.8

 まずエントリ作りました。あと、最終話の冒頭、みんなの突撃前にかなり加筆してます。もしご覧になってない方、参照お願いします。なお、本編の1話の自主字数制限は4000字を目処にしています。それを大幅に超えたら話のエントリを別に立てようかと思ってます。

 ちなみにここまでの話で「字数制限オチ」を何回かしていますが、本当に中途半端なところで字数超えちゃうんですよ……。それで悔しくてオチにしてました。


>>加筆部分ここから(最終話に追加)


「気づいたことがある」

「総裁、今更何に気づいたんですか」

「我々を今突き動かしている高揚は、なんであろうか。命を失いかねないのに、何も怖くない。むしろ今、ドキドキ、ワクワクしておる」

「そういえばそうですよね」

「マゼンダが言ったデフレ社会の話。あのとき、ワタクシは思っておった。デフレでも食べて死なずにすめばいいのでは、と」

「そうですよね」

「果たしてそうなのか?」

「えっ」

「いつから日本はかつての飢饉のエチオピアレベルになったのだ? 飢えを気にするほどこの日本は追いつめられておるのか? 大量に食料を毎日廃棄しておるのに、なぜ飢えを気にする?」

「それは、言葉のアヤで」

「言葉というものは恐ろしいものだ。人の口を借りて実態を示すこともよくある。確かに我々は脅かされておるのだ。ワタクシも、みなも、そしてすべての人々も、なにかと生きていく上で失敗が出来ないと思い込んでおる」

「失敗したくないですよ、そりゃ」

「でも、現実に、なにか失敗したら死ぬしかないのか? 飢えるのか? ここはそんな脆弱なディストピアなのか? 失敗したら、全くやり直せないのか?」

「だって、遠回りになりますよ」

「近道でなければ意味が無いのか?」

「そんな」

「人生は長い。まして人生80年時代とも言われる。成功のチャンスは何度も来るとなぜ思えないか。なぜこんなに失うことに怯えておるのか。こんなに経済が大きく、みな好きなことをしていて、なぜ幸せになってないのだ? 幸せを感じられないのだ?」

「だって、老後不安だし」

「老後? もともと歳をとれば隠居するのが当たり前であった。いつお迎えがきてもこまらぬように。そして若者に職場を明け渡し、世代を次ぐように」

 総裁は言い出した。

「それが今、逆であろう。住宅ローンが払えないと怯え、若者が頼りないと職場にしがみつき、頭が固くなっているのに無理して働く。これのどこが幸せなのだ?」

 みんな、唖然としている。

「ローンも、本来は使いながら払う、使用料的なものであったはずだ。それが皆、いつの間にか使う幸せよりも負債の恐怖におののいておる。経済の基本は等価交換なり。しかし、それが完全に崩れておる。飢えもそうだ。ものを、お金を持っているのに使えない。それは持っていないのと同じだ。でも、我々は払っている。ここでも等価交換が壊れている。そして豊かになるために働くはずなのに、いつのまにか飢えないように働くになり、アニメのライブやネットの娯楽で楽しんでいるはずなのにちっとも豊かに思えぬ。職場で仲間と働く喜びすら危うい。これも等価交換が壊れておる」

「だって、それは」

「だっても何もない。これはどう考えてもおかしい。我々はこのおかしさにすら気づかないほど、麻痺し、マインドコントロールされておるのだ。その結果、その不安の麻痺の出口が普通は戦争だと? 笑止千万なり」

 総裁の眼が光っている。

「おそらく、これは世界規模でみな、狂わされておるのだ。もっと豊かにと思う気持ちが、誰かより豊かに、追いつけ追い越せになった。追い越して先頭になったら? もう追い抜かれる恐怖しかなくなるのも必定」

「まさか」

「さふなり。いつから豊かさを比較で考えるようになったのだ? 我慢することと、豊かさを知ることは違う。できないものができないのは物理的にそうだ。遊んで働けば時間がなくなるのは当然。1日は24時間しかないのは皆同じだ。故にその配分の問題なのに、いつの間にかやりたいことを足すと24時間を超え、50時間になる。そんなことができる魔法はない」

「でも、時間を節約すれば」

「その節約のために労働が増え、残業が増え、遊ぶ時間がなくなる本末転倒になっておるではないか。それはミヒャエル・デンデの「モモ」の時間銀行と同じ罠なり」

「だって、みんなそうしてるし」

「本来経済全体もマクロレベルで等価交換のはずなのだ。無理なことはやはり無理なのだ。1日が50時間の国と24時間の国と違うのであれば別だが、そんなわけがねいのだ。みな生産性という言葉で、ありもしない時間を作り出せる時間の錬金術があると信じておるのではないか?」

「でも産業が発展したから」

「産業革命によって経済も生産性も向上した。だが、それとともにその弊害を指摘する社会主義も生まれたが、その弊害をカバーする労働法制、福祉法制、社会保険も作られた。ドイツでは宰相ビスマルクにより疾病保険、災害保険、老齢保険が作られた。そのドイツの発展で、経済を脅かされたイギリスでは、それまであった共済組合の上に健康保険も失業保険も作った。貧しきものを救う生活保護と、貧しくならぬようにする社会保険があるからこそ、みな安心して働き、納税し、経済が回るのだ」

 総裁はまくしたてる。

「それが、今の日本はどうだ? その制度が日本に根づいたのはなんと大戦後である。50年近く遅れておるのだ。しかも、その制度の意味を真に理解したとはいえぬままIT革命、次はAI革命であろうか。福祉と労働を飴と鞭などというが、それは本来等価交換のはずでは? しかし今、その安心の意味もわからぬまま、削ってはならぬものをバリバリ削っておる。サービス残業、ブラック労働の強要でせっせと病人を生産し、不安を増やし、納税できる力を奪う。そして経済が回らなくなり、そのせいでさらにサービス残業とブラック労働を強いる」

 総裁の狂気はもう止まらない。

「その悪循環を絶つべきなのは労働監督当局であるのに彼らは何をしておるのだ? 競争力強化の名のもとにその悪循環を放置するどころか、それに拍車をかける外国人労働者受け入れ、さらには現代の奴隷制度のような外国人研修生制度など、その意義意味を理解せずに、脱法労働環境を野放しにしておる。そんな脱法労働でえた競争力など、ドーピングで取った金メダルと同じだ。そんなものはすぐに蝕まれ失ってしまうものに過ぎぬ! 当然失うものなので皆不安しかないっ!」

 総裁はそう言うと、さらに眼を鋭くした。

「しかも、その上で得た資金がオフショア金融、租税回避地に大量に流れてタンス預金化しておる。当然、それでは等価交換などありえぬ。底の抜けたバケツ、がんばって働いても誰も豊かになれぬのは必定」

 みんな、聞いている。

「アスタリスクは、それを知っておるであろう?」


 #はい。

 #私もそういった脱法労働と、オフショア金融の実態を知っています。

 #それどころか、私は、オフショア金融の道具でもありました。

 #私の気づいたミスの一つです。


「そこで、その実態の公表をめぐって、世界で今、争いが起きておる。石油やエネルギーよりも流動性の高い資金が火種になっておる。今回の事件も、その争いの一環であろう?」


 #ええ。

 #総裁、もうここまで察したのですね。


「うむ。おそらく今後も、例のパナマ文書のような情報をめぐる戦いは苛烈になるであろう。しかし! それを真に制し、貧富の問題を解決するには、このAI時代にふさわしい保険福祉制度の開発が急務であろう。そのためにこそ、ほんとうはまた、金融とAIとITの力が必要なのだ」


 #そうです。

 #でも、私にそれが出来るでしょうか?


「それは我々人間も努力せねばならぬことであるの」


 みんな、うなづいた。



加筆部分ここまで>>

【研究ノート】

 実際、オフショア金融とかを巡る金融戦争はこれからの新しい戦争の一つの舞台、戦線だと思うんですよね。実際の武器使うより実効的な破壊力あるし。かつての商品の生産を使った経済戦争にすらも代わるものだと思います。それに従属する形でハッキングやリークなどの諜報戦、情報戦が行われていくような。だからパナマ文書のような形の何かは続くでしょうね。

 ウィキリークスはいまいちそういう戦いには使いにくかったのです。国家間のことになるといいようによって利害はわかりにくくなってしまうから。でも今回のパナマ文書は真偽を別にしても戦いの道具として、扇動の道具としては、すでにかなり効果的です。お金の話はみんな切実ですから。

 そこで中国の習近平が危ないと言いながら、日本もいずれこれをめぐる争いに巻き込まれるでしょう。ただプレイヤーのみんな、政治経済の陣営すべてがみんなダメージ食らうので、今は横並びに黙ってようぜになってますが、ここでこれをネタに新たなプレイヤーが登場するかもしれない。特に新たな階級闘争めいた方向に誘導しようとするかもしれない。

 現実に不満はすでに十分発火寸前に溜まっているわけで、それにあとは誰が最初の火をつけるか。(ちなみに私も近所にパナマ文書記載の事業所を発見。これみんなやっちゃうよね、たぶん)

 実際ミサイルなんか飛ばさなくても、リスク低く効果的に敵を排除できると思えば当然、敵対してる勢力の間ではやるわけです。この主体はもはや国家ではない。大企業も国家もその実行のツールの一つでしかない。

 ただ、そこでそういう戦争のプレイヤーではなく、それに巻き込まれる普通の個人がどう生き残るか。そこに落とし込んでこそのこの作品だと思ってます。

 現状、新しい労働観、労働制度の開発をこれで言ってますが、これではまた考察不十分ではないかと自分では思っています。それについてはまた考察の上、加筆します。

 日本の労働法制の貧困については書いたとおりです。経済の等価交換が壊れていることとかも。我々はマインドコントロールされすぎてますね。怖い怖い。コストってものが理解できれば、経済は全て等価交換です。だから「税金と負担はどこに消えた?」となるわけです。そこでさっきのパナマ文書をネタにした新たなプレイヤーが生まれそう。そこで米大統領候補のトランプばりに旋風を起こすかもしれない。その善悪は別として。米大統領候補ならサンダースもこれ材料にできるんですよね。分析の公開が5月なので、大荒れになる可能性はあります。そこらへん注視してます。


 作品の加筆予告として最終話前の14話の描写が手薄い気がするので、その加筆もしようと思ってます。でもまだ神様が降りてきません。しばしお待ちを。

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