第15話 死闘! 決戦・東京湾大海戦!
フェリーが見えてきた。
「なるほど、陸自の戦闘ヘリが偵察と狙撃をやってくれるのね」
制作・北急電鉄
「でも、戦闘ヘリとこのMU、どっちが高価いのかなあ」
特別協力 奇車会社尼崎
「わ、思い出させないでよっ!」
特別協力 追兎電鉄
「まあよい。形あるものはいずれ壊れるものでの」
協力 奇車会社筑波
「そうですけど」
協賛 山岸先端技術開発
「壊したら、正直に謝ろう。それしかできぬ。他のことは考えても仕方ないのだ」
「総裁。これ終わったら絶対背中のチャック下ろすわよ!」
「ノーサンキューであるのだ」
制作 鉄研でいず製作委員会
「またなんか変な改行とクレジット」
「アバンタイトルごっこ……」
「やっぱり最終回はアバンがいいって」
「そうは言ってもねえ。ほんと、毎回だけど」
*
「気づいたことがある」
「総裁、今更何に気づいたんですか」
「我々を今突き動かしている高揚は、なんであろうか。命を失いかねないのに、何も怖くない。むしろ今、ドキドキ、ワクワクしておる」
「そういえばそうですよね」
「マゼンダが言ったデフレ社会の話。あのとき、ワタクシは思っておった。デフレでも食べて死なずにすめばいいのでは、と」
「そうですよね」
「果たしてそうなのか?」
「えっ」
「いつから日本はかつての飢饉のエチオピアレベルになったのだ? 飢えを気にするほどこの日本は追いつめられておるのか? 大量に食料を毎日廃棄しておるのに、なぜ飢えを気にする?」
「それは、言葉のアヤで」
「言葉というものは恐ろしいものだ。人の口を借りて実態を示すこともよくある。確かに我々は脅かされておるのだ。ワタクシも、みなも、そしてすべての人々も、なにかと生きていく上で失敗が出来ないと思い込んでおる」
「失敗したくないですよ、そりゃ」
「でも、現実に、なにか失敗したら死ぬしかないのか? 飢えるのか? ここはそんな脆弱なディストピアなのか? 失敗したら、全くやり直せないのか?」
「だって、遠回りになりますよ」
「近道でなければ意味が無いのか?」
「そんな」
「人生は長い。まして人生80年時代とも言われる。成功のチャンスは何度も来るとなぜ思えないか。なぜこんなに失うことに怯えておるのか。こんなに経済が大きく、みな好きなことをしていて、なぜ幸せになってないのだ? 幸せを感じられないのだ?」
「だって、老後不安だし」
「老後? もともと歳をとれば隠居するのが当たり前であった。いつお迎えがきてもこまらぬように。そして若者に職場を明け渡し、世代を次ぐように」
総裁は言い出した。
「それが今、逆であろう。住宅ローンが払えないと怯え、若者が頼りないと職場にしがみつき、頭が固くなっているのに無理して働く。これのどこが幸せなのだ?」
みんな、唖然としている。
「ローンも、本来は使いながら払う、使用料的なものであったはずだ。それが皆、いつの間にか使う幸せよりも負債の恐怖におののいておる。経済の基本は等価交換なり。しかし、それが完全に崩れておる。飢えもそうだ。ものを、お金を持っているのに使えない。それは持っていないのと同じだ。でも、我々は払っている。ここでも等価交換が壊れている。そして豊かになるために働くはずなのに、いつのまにか飢えないように働くになり、アニメのライブやネットの娯楽で楽しんでいるはずなのにちっとも豊かに思えぬ。職場で仲間と働く喜びすら危うい。これも等価交換が壊れておる」
「だって、それは」
「だっても何もない。これはどう考えてもおかしい。我々はこのおかしさにすら気づかないほど、麻痺し、マインドコントロールされておるのだ。その結果、その不安の麻痺の出口が普通は戦争だと? 笑止千万なり」
総裁の眼が光っている。
「おそらく、これは世界規模でみな、狂わされておるのだ。もっと豊かにと思う気持ちが、誰かより豊かに、追いつけ追い越せになった。追い越して先頭になったら? もう追い抜かれる恐怖しかなくなるのも必定」
「まさか」
「さふなり。いつから豊かさを比較で考えるようになったのだ? 我慢することと、豊かさを知ることは違う。できないものができないのは物理的にそうだ。遊んで働けば時間がなくなるのは当然。1日は24時間しかないのは皆同じだ。故にその配分の問題なのに、いつの間にかやりたいことを足すと24時間を超え、50時間になる。そんなことができる魔法はない」
「でも、時間を節約すれば」
「その節約のために労働が増え、残業が増え、遊ぶ時間がなくなる本末転倒になっておるではないか。それはミヒャエル・デンデの「モモ」の時間銀行と同じ罠なり」
「だって、みんなそうしてるし」
「本来経済全体もマクロレベルで等価交換のはずなのだ。無理なことはやはり無理なのだ。1日が50時間の国と24時間の国と違うのであれば別だが、そんなわけがねいのだ。みな生産性という言葉で、ありもしない時間を作り出せる時間の錬金術があると信じておるのではないか?」
「でも産業が発展したから」
「産業革命によって経済も生産性も向上した。だが、それとともにその弊害を指摘する社会主義も生まれたが、その弊害をカバーする労働法制、福祉法制、社会保険も作られた。ドイツでは宰相ビスマルクにより疾病保険、災害保険、老齢保険が作られた。そのドイツの発展で、経済を脅かされたイギリスでは、それまであった共済組合の上に健康保険も失業保険も作った。貧しきものを救う生活保護と、貧しくならぬようにする社会保険があるからこそ、みな安心して働き、納税し、経済が回るのだ」
総裁はまくしたてる。
「それが、今の日本はどうだ? その制度が日本に根づいたのはなんと大戦後である。50年近く遅れておるのだ。しかも、その制度の意味を真に理解したとはいえぬままIT革命、次はAI革命であろうか。福祉と労働を飴と鞭などというが、それは本来等価交換のはずでは? しかし今、その安心の意味もわからぬまま、削ってはならぬものをバリバリ削っておる。サービス残業、ブラック労働の強要でせっせと病人を生産し、不安を増やし、納税できる力を奪う。そして経済が回らなくなり、そのせいでさらにサービス残業とブラック労働を強いる」
総裁の狂気はもう止まらない。
「その悪循環を絶つべきなのは労働監督当局であるのに彼らは何をしておるのだ? 競争力強化の名のもとにその悪循環を放置するどころか、それに拍車をかける外国人労働者受け入れ、さらには現代の奴隷制度のような外国人研修生制度など、その意義意味を理解せずに、脱法労働環境を野放しにしておる。そんな脱法労働でえた競争力など、ドーピングで取った金メダルと同じだ。そんなものはすぐに蝕まれ失ってしまうものに過ぎぬ! 当然失うものなので皆不安しかないっ!」
総裁はそう言うと、さらに眼を鋭くした。
「しかも、その上で得た資金がオフショア金融、租税回避地に大量に流れてタンス預金化しておる。当然、それでは等価交換などありえぬ。底の抜けたバケツ、がんばって働いても誰も豊かになれぬのは必定」
みんな、聞いている。
「アスタリスクは、それを知っておるであろう?」
#はい。
#私もそういった脱法労働と、オフショア金融の実態を知っています。
#それどころか、私は、オフショア金融の道具でもありました。
#私の気づいたミスの一つです。
「そこで、その実態の公表をめぐって、世界で今、争いが起きておる。石油やエネルギーよりも流動性の高い資金が火種になっておる。今回の事件も、その争いの一環であろう?」
#ええ。
#総裁、もうここまで察したのですね。
「うむ。おそらく今後も、例のパナマ文書のような情報をめぐる戦いは苛烈になるであろう。しかし! それを真に制し、貧富の問題を解決するには、このAI時代にふさわしい保険福祉制度の開発が急務であろう。そのためにこそ、ほんとうはまた、金融とAIとITの力が必要なのだ」
#そうです。
#でも、私にそれが出来るでしょうか?
「それは我々人間も努力せねばならぬことであるの」
みんな、うなづいた。
*
そして、フェリーが近づいてくる。
「上空に無人攻撃機がいる!」
「向こうも航空支援を持っておるわけであるな」
「大丈夫、あんなの戦闘ヘリがやっつけてくれる!」
その時、甲高い轟音が聞こえた。
「なに、この音!」
駆け抜けた灰色の影!
「む、無人戦闘機!」
「空対空ミサイル持ってるやつだわ! 戦闘ヘリが危ない!」
「空自の戦闘機はいないの!?」
「戦闘ヘリ、回避機動を始めたわ!」
「なんてこと! 私たちの支援はどうなっちゃうの!」
「時間がない。奇襲は強襲に切り替える。東京湾の奥に核爆弾を入れるわけにはいかん!」
「うぬ」
総裁は、唇を引き結んだ。
「鉄研総裁たるワタクシの、本気を見せる時が来たようであるの」
「ええっ、これまで本気じゃなかったんですか!?」
「む、いささか自重しておった」
「自重するところじゃないです!」
「うむ、AIのマゼンダやアスタリスクに、ワタクシの人間としての覚悟を示す好機なり」
総裁は振り返った。
「というわけで、SATのみなさん、ワタクシが囮となるので、その間に存分にテロリストをやっつけてくださいなのだ」
「ええっ、君、危ないよ!」
「指定管理者、実質バイト公務員の身分とはいえ、MU歴は長いのであるな」
隊長は、少し迷った後、言った。
「……すまない」
「どうということはないのだ」
総裁は、そういうと、
「では、征くのであるな」
と微笑んで、振り返り、そのまま全速でフェリーのほうに突入していく。
「私たちも行くわ!」
「そうね!」
MUの総突撃となった。
*
すぐに、総裁の突進を無人攻撃機が察知し、次々と降下しながらミサイルを放ってくる。
「引きつけて……」
ミサイルは総裁を狙って加速してくる。
「クイックターン!」
ミサイルは外れ、海面に着弾、水柱を上げる。
あの桜田濠の再現となった。
「当たらなければ……」
またミサイルが突入してくる。
「どうということはない!」
またミサイルをかわす総裁。
「どうだ、攻撃機諸君。まだまだであるの」
攻撃機はしばらく旋回した後、また急降下してくる。
「レイテ沖海戦の帝国海軍航空戦艦〈伊勢〉中瀬艦長流の回避機動なのであるな」
ふたたびミサイルを放つ攻撃機。
「接近して回避の余裕を奪おうとしても」
総裁はさらに引きつける。
「モーメントがついて修正効かなくなるまで引きつけて」
総裁はタイミングをはかる。
「クイックターン!」
再びミサイルが外れる。
「うむ、我がエビコー各運動部の臨時レギュラーかつエースであったワタクシも、侮ってはならぬのであるな」
「総裁! 危ない!」
そこに舞い降りてきたのは、無人戦闘機だった。
「いかん!」
総裁は再びクイックターンする。
が、放たれたのは高速高機動の空対空ミサイルだ!
みんな、一瞬目を覆う。
だが、総裁は健在だった。
「うぬ、なかなかの射撃である」
「それどころじゃないでしょ!」
「でも、どうしよう!」
その時、総裁の瞳がきらめいた。
「えっ」
総裁は、コンタクトを外したのだ。
「オッドアイ……」
「やすいラノベのキャラにされるのはヤダ、ってオッドアイなの隠すためにコンタクトつけてたんだよね」
「力入れるところ、間違ってましたのに」
そのオッドアイに戻っだ総裁は、群舞する無人戦闘機と無人攻撃機を見上げた。
すると、一瞬、無人機たちが、姿勢を乱した。
「まさか!」
「総裁のオッドアイ見るとだれも嘘つけなくなるって言ってたけど、あれ、催眠術?」
「でもそれ、無人機にも有効なの!?」
#それに近いものはあります。
「アスタリスク!」
#私が電子戦の援護します。
「できるの!?」
#無人機のAIは、私の劣化コピーなんですよ。
#オリジナルは、けっして、コピーに負けることはありません。
「アスタリスクちゃん!」
「わたしたちの総裁を、守って!」
#わかっています。
そのとき、再び無人機たちが攻撃航路に入った。
総裁はそれを不敵にそのオッドアイの眼で見上げる。
そして、再び無人機たちがミサイルを放つ。
だが、何発かは照準データが消えたのか、虚しく遠くへ外れる。
「アスタリスクちゃんがやったんだ!」
それにもかまわず、無人機たちが突進してくる。
「まずい! 総裁が挟撃される!」
そのとき、突然、無人機が火を吹いた。
「マーク、インターセプト!」
「ええっ、総裁が無人機を撃墜!?」
他の無人機も逃げ出していく。
それを追いかけるのは、
「F-35Bライトニング!」
垂直離着陸可能な最新のステルス戦闘機・F-35Bが2機、ゆうゆうと進んでくる。
そして、すこしも機動せずに、ウェポンベイから次々とミサイルを放つ。
それは、それぞれ、ベクターノズルで急激に向きを変えて正確に無人機を追い、追いかけ回し、そして撃墜した。
その様子は、空を征くイージス艦のような迫力である。
このていどの無人機相手なら、空中戦の必要すらない、といったような強さだ。
「すごい!」
「なるほど、さすがAESAレーダーと高機動ミサイルAIM-120は強力である。さすが我が空自も導入を決定しただけある能力なり」
F-35Bは、VTOLモードになって、総裁の近くにやって来る。
そのコックピットで、米海兵隊のパイロットがサムアップで総裁に微笑んでいる。
総裁もそれに答える。
「うぬ、ワタクシの兄上の乗り組む航空護衛艦〈いずも〉も、いつのまにかF-35を運用できるようになっておったのだな。耐熱板でも装備したのであろうか。近隣の空港・航空基地がこの事態で監視され使えぬようにされておるのにF-35を運用するにはそれしかないからの」
「でも、フェリーの方は!」
「そうだ、フェリーのテロリストどうなった? 核爆弾は!?」
「確保したよ。テロリストを全員検挙、核爆弾も回収した」
SAT隊長の声が聞こえた。
「やった!」
「いや」
総裁は眼を鋭くした。
「まだ敵が残っておる」
「えっ」
SATの隊長が驚く。
「核爆弾を、そのままフェリーで湾岸副都心までのんびりドンブラコと持っていくつもりではなかったはず」
「まさか」
「別のもっと早い輸送手段に載せ替えるつもりで、待機している連中が居る。しかも連中は、これでもう作戦に失敗しかなくなり、破れかぶれとなる。何をするかわからん」
「でも、その載せ替え点って」
「さふなり」
総裁は、言った。
「東京湾アクアラインの海ほたるパーキングエリアに、奴らは、まだいる」
**
海ほたるパーキングエリアで、銃を持った男たちが、パーキングエリアの利用客を脅している。
不安げな観光バスやマイカーの人々の姿が痛々しい。
だが!
「ココで人質をとって最後のもう一旗、と思ったでしょ!」
その御波の声に、男たちが振り返る。
「ざんねーん! 私たち、実はさっきからここにいました!」
男たちはその声の源を探す。
「私ツバメと」
だが、追いかけても見つからない。
「葛城御波は」
慌てる男たち。
「さっきからこの時をまってたんでーす!」
物陰から防犯用ネットランチャーからネットが放たれ、それが男たちを床にはり付けにしていく。
残った男が、反撃に銃を持って物陰に襲いかかる。
だが、そこは、足元に何もない虚空だった。
「またざんねーん! 私たち、MU乗ってるから、足場関係ないんでーす!」
男は無念の絶叫とともに海に落ちた。
そして、溺れているところに、海上保安庁の警備艇がすぐに駆けつけた。
そして、高速機動隊のパトカーのサイレンが鳴り響いた。
そこから降りた機動隊員が確認に回る。
「クリア!」
もうテロリストはいない。
御波とツバメが、MUに乗ってそこに戻っていく。
「ごくろうさまです!」
そういう彼女たちに、機動隊員たちが敬礼で答える。
そして、御波はヘッドセットで報告した。
「こちら御波とツバメ別働隊、海ほたるパーキングエリア、テロリストの掃討完了、安全確保しました!」
「終わったのね」
詩音が、言った。
「そうだね」
カオルが答えた。
「うむ、みな、よくやってくれた」
総裁が労う。
「御波くんの推理で、直前でふた手にわかれたのが、まさに的中したのであるな」
「ええ」
「電池の切れる前に、オスプレイにもどろう」
「そうですね」
オスプレイが降りてきたので、そのリアハッチに滑りこむ。
「あなた達って……」
乗っていた竹警部が、涙目になっている。
「うむ、不安がっているより、動いてしまったほうが、実は楽なのであるな」
「そうよね」
竹警部に、総裁は微笑んだ。
その髪が、事件の跡を照らすサーチライトに照らされ、金色に輝いて、神々しくすら見えた。
そして、その動輪の髪飾りが、また、きらめいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます