成金のすすめ

 村に戻るとキクムさんに声をかけられた。


「オオナムチ、ちょうどいいところに来た」


「どうしました?」


「これから町に買出しに行くのだが、護衛で着いてきてくれないか?」


「町?」


「川船で3時間ほど下ると港町アマがある。そこで黒曜石なんかを売って、塩や道具なんかを買って帰るのだ」


 この村では塩は作れない。

 行商はたまにしか来ないので、足りなくなったら町に買い出しに行くのだそうだ。


「いいですよ。何人で行くんですか?」


「ジレとわたしとキミとで三人だね」


「準備するものは?」


「とくにないな。荷物はもう積んである。こっちに来てくれ」


 キクムさんに着いて歩く。

 村の外の川に船着場があって、木の船には荷物が満載に積まれていた。


 ジレがいた。


「キクムさん、いつでも出発できます。ん・・オオナムチ?」


 ジレがこっちに気づいた。


「こんにちは。俺も行くことになりました」


「おお、そいつは心強いな。頼りにしてるぜ」


 俺たちが船に乗り込むと、ジレが木の棒で川底を押して出航した。


「積荷は黒曜石、貝殻のアクセサリー、麻布、蜂蜜だ」


「蜂蜜?」


「森にある蜂の巣から採集できる。町で高く売れるんだ」


 川辺には黄色い花が咲いている。

 天気もいいし、とてものどかだ。


 二時間ほどで船着場に着いた。


「ここからは徒歩だ」


 カイムさんとジレは、船から荷物を降ろしはじめた。


「あの、持ちましょうか?」


「ん?そりゃまあ持ってもらうけど」


「いえ、全部持ちましょうか?」


 俺は万宝袋まんぽうぶくろに、船ごと荷物を入れた。

 万宝袋と言っても形があるわけじゃなくて、船がいきなり吸い込まれて消えたように見える。


「おい!?なんだ?」


 カイムさんとジレの目が点になっている。


「異空間に荷物を出し入れできるんですよ」


 俺が荷物を出し入れして見せると、二人はいよいよ驚いていた。


「とんでもない魔法だな・・・。噂で聞いたことはあるけど、実際に見るととんでもないな」


 ジレさんがあきれている。


「まあ、あまり使い手のいない魔法だ。目立つのもよくないし、知られないほうがいいだろう。町で荷物を出すときはわたしの指示に従ってくれ」


「そうですね。そうします」


 キクムさんの意見に俺も納得した。


 荷物を背負う必要がなくて移動が早く、予定より早く港町アマに着いた。


 港町アマは環濠かんごうに囲まれていて、橋の先には門番がいた。


 門番に見えないところで荷物を出して背負い、キクムさんを先頭に橋を渡る。


「商人のキクムだ」


 キクムさんは、木の札を出して門番に渡した。

 門番のおじさんは、かなりごつい。


「ひさしぶりだな。後ろは新顔か?」


 キクムさんは顔なじみらしい。


「ああ、若手の勉強だ」


「しっかり稼げよ」


 人懐っこい笑顔で手を振ってくれた。

 ごついけどいい人みたいだ。


 町に入るとしばらくして広場に着いた。


 ちょっとした祭りくらい人が溢れている。

 ひさびさの喧騒はにぎやかでいいな。

 老若男女、そして人種も様々に見える。


 キクムさんに聞いたら、ここは交易エリアで、世界中の商人と品物が集まっているらしい。


 食べ物の露店もたくさんあって、買ってくれとあちこちから声をかけられた。

 何かの肉の串焼きが目についた。

 おいしそうな匂いがしている。


 商売をしてる人もたくさんいる。

 不思議なものもたくさんあるな。


 キョロキョロしていると、はぐれないように気をつけろとキクムさんに注意された。


「どこに行くんですか?」


「まずは荷物を売りに行く」


 ほどなく大きな建物に着いた。

 玄関をくぐる。


「いつもありがとうございます」


 すぐさま、いかにもやり手という感じの商人がにこやかに出てきた。


「これでいくらになる?」


 黒曜石や貝殻のアクセサリー、麻布や蜂蜜が並べられた。


 商人はしばらく計算して、塩の壷を10個と貝のお金を持ってきた。


「いいだろう。塩は明日取りに来るから置いておいてくれ」


 貝のお金はこの広場でのみ使える通貨で、20万円ほどあった。

 翻訳機能で円に変換されているが、理解しやすいしまあとくに不都合はないだろう。

 このお金を使って、村に必要なものをいろいろと買い揃えるのだ。


「あ、ちょっと待ってください」


 俺は一旦、店の外に出て、万宝袋から巨大カニの甲殻を出してきた。

 村はずれに置いてあったので、万宝袋の収納力を試すために入れてみたままだったのだ。


「これは買い取りできないですか?」


「これは?」


「巨大カニの甲殻です」


 商人はさわったり叩いたり、注意深く調べていた。


「300万円でどうでしょう?」


「ええっ!?」


「これは上位の魔物の甲殻です。よい魔道具の材料になりますし、盾や鎧などにもできるでしょう。ご不満なら400万円でどうですか?」


「キクムさんどうしよう?」


 ちょっと予想外の高値に動揺が隠せない。

 だって俺は中二だし、月の小遣いは3000円だったのだ。


「いや、オオナムチが仕留めたモノだし、おまえが売っても問題はない」


 ジレもびっくりしている。


「あの、鉄ってありますか?」


「ございます。1キログラムの延べ棒が20万円になります」


 高い・・・。

 まあ、この時代の鉄は、かなり貴重っぽいからしかたないか。


「10キログラムぶんは鉄で、残り200万円はお金でください」


「毎度ありがとうございます」


 俺は店を出ると、あわてて鉄とお金を万宝袋に収納した。


「すごく儲かったような気がします」


 俺は宝くじに当たったような気持ちになっていた。


「マレビトは規格外だなあ」


 キクムさんもあきれて笑っていた。


 俺は行き道で見た串焼きを三本買って、カイムさんとジレにおごった。

 焼き鳥みたいな味がしたから、きっと鳥の肉だと思う。


 一泊して明日帰るということで、まずは宿屋に向かった。


 キクムさんのなじみの宿屋について、無事に部屋も取ることができた。


 二人は買出しに行って、俺は二階の部屋で休憩がてらお茶を飲んでいた。

 俺もあとで買い物に行ってみよう。


 ふぅー、まったりだ。


 何茶かわからないが香りもいいしうまい。


 すると、不意に通りのほうが騒がしくなった。


 どたどたと走る音がする。


 窓からのぞくと、女の子が集団に追いかけられていた。


「せいやっ」


 俺は人並みには正義感がある。

 窓から勢いよく飛び出した。


 そして、ここが二階だったことに気づいた。


 後悔ってやつは、いつも後から来るから不思議だ。


「やばっww」


 しかし、俺も大波流免許皆伝だ《ジジイに最後は勝ったから》。


 受身を取りながら着地すると、すぐに集団を追いかけた。

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