定住と修行で現代日本人のすごさを思い知る
村に戻ると、広場で大きな火が焚かれていた。
大勢の村人が集まっている。
ルウを見つけた。
近寄って声をかける。
「なにしてるの?」
「あ、オオナムチさん」
「ムイチでいいよ」
「ムイチ?」
「うん」
「じゃあムイチくんね」
ルウがにっこり笑う。
巨大カニを焼いて村人にふるまうらしい。
ダイナミックな焼きガニだな。
その隣では、大きな
カニ汁か。
いい匂いがしている。
「どうぞ」
ルウがカニ汁をもらってきてくれた。
「うまい」
カニしか入ってない感じだけど、濃厚なうまみがある。
ルウは猫舌なのか、フゥフゥと息を吹きかけて覚ましている。
ピンク色の唇にドキッとして、俺はあわてて視線を逸らした。
「オオナムチ」
キクムさんだ。
「婆様のところは終わったのか?」
「はい。明日の朝また来いと言われました」
「そうか。ちょっと来てくれ」
キクムさんに着いていくと、
村人たちの注目が集まる。
普段は仕事に出ている人たちも全員集まっているようで、100人くらいいるようだ。
ちょっと緊張する。
「みんな聞いてくれ。マレビトのオオナムチだ。この巨大ガニを仕留めた勇者だ」
大きな歓声が上がった。
「わたしの矢は弾かれてまったく効かなかった。オオナムチは石斧で殴りかかり、折れた柄を突き刺して、瞬く間に仕留めた。オオナムチがいなければ、この巨大ガニは倒せなかっただろうし、谷での犠牲者はもっと増えたはずだ」
さらに大きな歓声。
ちょっと恥ずかしくなってきた。
「オオナムチはマレビトであり勇者だ。その力は村に恵みをもたらすだろう」
ルウがキラキラした目でこっちを見ている。
子供たちが手を振っている。
俺は軽くキョドっている。
「オオナムチは遠い国から来て家が無い。わたしはオオナムチに、この村で暮らしてほしいと思っている。みんなどうだろうか?」
さらに大歓声。
そして嵐のような拍手。
すごく歓迎されているようだ。
「いいだろう? オオナムチ」
キクムさんが俺を向いて言った。
とても断れる雰囲気じゃない。
まあ、住む家も無いし、今のところ断る理由がないな。
「ありがとうございます」
俺は右手の拳を突き上げて、村人たちの歓声に応えた。
人生ではじめての大歓声に包まれて、居心地は悪くない。
その後は、暗くなるまで宴が続いた。
ルウはずっと俺の隣にいてくれて、いろいろと世話を焼いてくれた。
俺は女子は苦手なのだが、ルウはなんだか付き合いやすい。
村人たちが代わる代わるやってきて、お礼を言われた。
照れくさいけど、こうして感謝されるのはうれしいものだ。
果実酒のようなものもふるまわれた。
未成年なのにいいのかなと考えたが、まあ異世界っぽいし断るのもアレなので、ありがたくいただいた。
すごく強い酒だ。
たくさん飲まされたが、祝福の効果で酒にも強くなってるのだろう。
少し気持ちよくなったくらいで、とくに酔わなかった。
いろんなことを聞かれて、それに答えた。
少しずつ人が減っていって、宴が終わった。
村はずれの小屋は、正式に俺の家になることが決まって、俺はしあわせな気持ちで眠った。
◇◇◇◇◇
翌朝起きて婆さんのところへ行くと、魔法をおしえてくれるとのことだった。
はじめに癒し手の魔法をおしえてもらった。
すぐにできてびびった。
ルウも一緒だったのだが、すごく驚いていた。
婆さんは複雑な表情で、ぶつぶつと言っていた。
こんなに簡単にできるものではないらしい。
婆さんの魔法は、
その流れや働きを操って、特定の現象を起こす技を、魔法と呼んでいるらしい。
古代日本の世界観で魔法とかマナとかおかしいと思う人もいるだろう。
俺も最初はそう思った。
これらの用語については、俺の祝福のひとつである翻訳で変換されている。
おそらく本当は違う言葉で、俺の知っている類似の意味の単語に置き換えられているっぽい。
まあ、大事なのは意味がわかることなので、あまり深く考えるのはやめた。
婆さんも、他の者に習えばまた違うおしえがあるだろうと言っている。
どうも定まった規格のようなものは無いらしい。
いろんな人がいて、いろんな魔法を使うって感じか。
まあ、ゲームじゃないんだから、それが自然だろうな。
これは仮説だが、魔法とはイメージ力なんじゃないだろうか。
イメージしたことを、魔力で体現しているような、そんな感じ?
俺は魔力が強いから、ゴリ押しでいろいろと実現できてしまっているような気がする。
そう考えると現代日本人というのは、とても秀逸な存在だろう。
現代日本には、さまざまなイメージや現象があふれている。
しかも、俺はオタク系でアニメやゲームの知識は膨大にあるわけだし、イメージ力が高いのは当然と言える。
「おぬしは本当に破格じゃのう・・・。わしの修行人生がなんだったのか、むなしくなってくるわい」
二時間ほどの講習と練習で、俺は
小さな炎を出すのに使うMP消費は5くらい。
しかもすぐに回復する。
俺のMPは2600もあるわけだから使い放題だ。
癒し.手については、自分の腕を石で傷つけてみて実験したが。
骨が見えるようなケガでも一瞬で治った。
しかも手をかざさなくても治すことができた。
まあ、手をかざしたほうが治るのが早かったが、これもイメージ力の問題かもしれない。
ヒールって叫びながらやったら、もっと早く治る気がする。
まあ、これはまた一人の時に試してみよう。
修行を終えた俺は、洞窟を出て村に向かった。
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