装備も騒動も揃いました!

 宿屋のあるエリアは、そんなに人通りが多くはない。

 全力で追いかけるとすぐに追いついた。


 人相のよくない男たちを追い越す。

 振り返って追ってくる男たちを威圧すると、男たちは俺を囲むようにして足を止めた。


 6人か・・・多いな。


 顔つきは凶悪なのだが、身なりもちゃんとしてるし、それなりに訓練されているようだ。

 一人でかいのがいるが、あとは俺と同じか小さいくらい。

 まあ、武器も持っていないし脅威は感じない。


 幼女は走り去っていった。

 足速いな。


 よし、まずは追われている幼女を逃がすというミッションはクリアだ。


 リーダー格っぽい男が前に出てきた。


「何者だ?」


「名乗るほどの者じゃない」


 いや、実際のところ肩書きも所属もないし、世話になりはじめた村は隠れ里だし、悪党に名乗るってデメリットしかなさそうだしね。


「邪魔をするな!」


 後ろの男が焦った顔で叫ぶ。


「白昼堂々と人さらいとは感心しないな」


 軽くドヤ顔。

 こういうシーンでこういう台詞って、なんだかヒーローっぽくない?


「はぁ?」


 男達が唖然あぜんとした顔をしている。


「ミナ様は我らが姫だぞ?」


「えっ!?」


 話を聞くと、追われていた幼女は、ミナ様という姫らしい。

 男達はその配下の者だということだ。

 つまり、ミナ姫様と家臣団ね。


 三日ほど前に交易船で町にやってきて、今日帰る予定だったのだが、ミナ姫が帰りたくないと駄々をこねて脱走したのだという。


 それを追いかけていたところ、俺が人さらいと勘違いしてしまったようだ。

 いや、だって、この人達って人相悪すぎるし・・・。


「すいません」


 俺はショボーンな感じで謝った。


「いや、勘違いされても仕方のないこと。たしかに傍目から見れば人さらいに見えるでしょう」


 リーダー格の人は笑った。

 なんかこの人達って、見た目と違っていい人っぽい。


「追わなくていいんですか?」


 止めた俺が言うなって感じだけど聞いてみた。


「今日の船はもうあきらめました。次は一週間後ですから」


「でも、女の子一人じゃ危ないこともあるのでは?」


「ああ、それについては大丈夫です」


 男達は顔を見合わせて笑っている。


「姫を見かけたら連絡をください」


 俺は連絡先を聞いて男達と別れた。


 失敗したなあ。

 次からはもう少し気をつけよう。


 宿屋に戻る途中で、歩いているキクムさんたちと出会った。


「オオナムチ、どこに行ってたんだ?」


「あ、えっと、散歩です」


「そうか。夕食までには帰れよ」


「はい」


 宿屋で夕食が出るらしい。


 俺は広場に向かった。


◇◇◇◇◇


 広場に着いた。

 あいかわらずたくさんの人だ。


 露店からおいしそうな匂いがしているが、晩飯前なので我慢する。


「兄さん、見ていかないか?」


 いろんなところから声をかけられる。


 まずは武器屋に入る。


 たくさんの武器が並べられている。

 店員のおじさんが出てきた。

 顔に傷があってごつい。


「坊主、はじめてか?」


「ええ、武器を買おうと思って」


 にわか成金の中学生である俺は、買い物とか慣れていない。

 なめられないように、こなれた雰囲気を出さなきゃな。


「どういったものを探してる?」


「槍と刀、いや剣かな? それとナイフを」


 武器の扱いについては、ジジイにひととおり叩き込まれている。


 おじさんはしばらく俺をじっと見て、胸と肩のあたりをさわってきた。


「ほお、鍛えてるな」


「まあ、一応」


「予算は?」


「全部で100万くらいで」


「お、結構あるな」


 武器はロマンだ。

 成金は成金らしく、さくっと無計画に使うのだ。

 しかし100万は残すところが小物臭がするが、成金なので実際のところ小物だ。


 おじさんは店の奥から槍を出してきた。


「槍ならこれなんかどうだ?」


 シンプルな鉄の槍だ。

 長さは2メートルほど。

 柄の部分は黒ずんだ木でできている。

 装飾はなくシンプルなデザインだが、実戦向きで性能は高そうだ。

 手に持ってみたが、しっかりとした作りで握りも馴染む。


「いくらですか?」


「40万だ」


「もらいます」


 高いかなとも思ったが、あの巨大カニがいるような世界なのだから、ある程度しっかりした武器じゃないと不安だ。


「刀というのは異民族の武器か?ちょっと俺にはわからんな」


「いえ、なんというか、あ、剣をお願いします」


「これはどうだ?」


 両刃の鉄の剣。

 鋳造かな。

 刃はそれほど鋭くないし、斬るというより叩くタイプだ。


「もう少し細いものがあれば」


「これならどうだ?」


 刃わたり60センチほどの細身の剣。

 鉄製で結構重い。

 これは鍛造っぽいな。

 遠い間合いは槍があるから、剣はこのくらいの長さでいい。


「これはいくらでしょうか?」


「50万だ」


「もらいます。ちなみにこの剣は、どのくらいのレベルのものですか?」


「一般的な生産品としては上級品だな。警備兵が使う剣で20万円程度だから、これ以上のものはそうはないぞ」


 うん、たしかにこれはいい剣だ。


「残り10万円でナイフならこれくらいかな」


 鉄のナイフだ。

 片刃で柄には革が巻いてある。


「じゃあそれで」


「100万円だ」


 貝のお金で払うと、武器を渡してくれた。


「俺はガイムだ。坊主は上客だから覚えておいてやる。次来た時はオマケしてやるよ」


 なぜか上から目線だが、いやな感じはしない。


「ありがとうございます」


 ぶっきらぼうだけど気持ちのいい人だ。

 目利きもいい。

 また買いに来よう。


 防具屋で皮の胴と脛当て、服屋で下着や服を買った。

 ゆったりした麻の着物とズボン。

 防具は服の下に装着できる。

 鉄の鎧なんかもあったが、動きが鈍くなるのでやめた。


 それからあれこれ買い物をして、宿屋に帰る頃には薄暗くなっていた。


 ちょうど夕食の時間らしく、食堂に案内された。


「オオナムチ、こっちだ」


 キクムさんがいた。


「あれ?」


 テーブルにはジレともう一人・・・。


 ミナ姫様がいた。

 

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