第45話 目覚めたよ、ありがとう、バレンタイン
会社から帰りにどうしても目に入ってしまう、デパート。そして、どうしても目についてしまうバレンタインの文字。
俺には関係のないことだ。男性だけの職場で義理チョコすらもらえないし、ましてや恋人もいないから俺はバレンタインにチョコひとつもらったことはない。
自分でもみじめで孤独である。だいたいこんな日はなんのためにあるんだろうか。男のもてるバロメータをはかる日なんだろうか。そんな競争になぜ俺まで、まきこまれる?
俺は頭にきていた。バレンタインにチョコをもらえなくても、その気分だけでも味わいたい。
俺はバレンタインコーナーに行った。
「なに、あのおやじ!」
女子高生の声が聞こえる。変態でもなんでもいい。俺はチョコを持って、レジに並んだ。そして、代金を払って、チョコを持っていくのを忘れる。そんななか、かわいい店員さんが俺をおいかけて、
「お客様、おしなものをお忘れです」
チョコを渡してくれる。
「ありがとう」
バレンタイン気分を味わった。もっともわざと忘れたことは否めないが、こんなことでもしないとバレンタインの気分を味わえないんだ。笑いたければ、笑ってくれ。
こうして、二月十四日はバレンタインの特設会場まわりだ。できるだけレジにかわいい女の子がいるところを探す。チョコを買う。代金を払って、品物を忘れる。女の子がチョコを届けにくる。ありがとうとお礼を言う。これを何回も繰り返すと、いっぱい女の子からチョコをもらって、自分がちょっとでももてるように思えるから不思議だ。みじめな孤独な俺は、そうすることで、自分を成り立たせるしかないんだ。
さてと、何軒か周ったけど、そろそろ「しめ」かなあ。そう思いながら次のバレンタインコーナーに行くとレジが男だった。
「男かよ」
と思って、さっさと次の会場に行こうとすると、次の会場もレジが男だった。まったく最後の最後にしてついてないぜ。でも俺には好奇心が生まれたんだ。男からチョコをもらうってどんな気分なんだろうか。チョコを買って、代金を払って、品物を忘れて、店員が追いかけてくる。
「お客様、お品物を忘れています」
レジの端正な顔立ちで、マッチョな男に俺は見とれてしまった。
「あ、ありがとう」
その日からだ。俺が男に目覚めたのは・・・・・・。どうせ女に相手にされないんだったら、男に。男のほうがやさしくて、俺が告白しても受け入れてくれた。ゲイに目覚めさせてくれた、バレンタインよ、ありがとう。俺たちは今、幸せだ。
(お題:何かの孤独 制限時間:30分 文字数:1053字 )
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