第36話 監禁したはずが・・・

 美しく、そして儚く沈んでいく夕日。その夕日を自分だけのものにしたいと思ったことはあるかい?

 三島由紀夫の『金閣寺』もそうだったけど、美しいものは独り占めしたくなる。たとえ、それを燃やして破壊してしまったとしても・・・。


 僕がその女性に出会ったのは、スーパーの店長をやっていたときだ。美しい人だった。僕はその人を独り占めしたくなったんだ。こんな気持ち、わかるかい?結婚しているのか、結婚していないのかわからなかったけど、僕は、部屋に監禁することにした。


 監禁といっても、椅子にしばりつけたりとか、そういう変態プレイではない。ちゃんとしたホテルみたいな部屋で、バランスのとれた食事も与えるし、自由に動けるし、ただその部屋から出られないってことだけなんだ。僕はもちろん手出しはしていないし、その女性をのぞき穴から眺められるだけで幸せだったんだ。なんだか、俺のものって感じだろ?彼女も本を読んだり、編み物をしたり、なんの不自由もない生活をしている。不満もないみたいだからこれでいいみたいだ。


 でもどこかで、僕って存在を知ってほしかったのかな。だから、思い切って、彼女のいる部屋に入って、

「実は君をここに連れてきて、監禁しているのは僕なんだ」

 って、ついカミングアウトしちゃったんだ。もうここまできたら、変態と思われてもいいやって。


 彼女は驚いた目で僕を見つめていた。

「監禁?」

「そうだよ、悪かったね。君が美しすぎたから」

 女性は驚いた目で僕を見つめていた。こいつが変態男かって思っているのかな。


「私はスーパーで働く前は、職もなく、水道も止められて食べ物もなくて困っていたのですが、こちらでいい生活をさせていただいて、感謝しております。あなたがそうしてくださったのですね」

 なぜか女性に感謝された。監禁されて、感謝されるなんて、そんな話は聞いたことがない。本当なら警察沙汰だ。


「あなたみたいなかたが、この暮らしを提供してくださるなんて、安心しました。よかったら、ずっと一緒に暮らしませんか?」

 彼女の潤んだ瞳にふたつ返事でOKしたよ。監禁もしてみるもんだと思ったよ。それからその部屋で一緒に暮らして、子供も二人生まれたんだ。「どうして、私の窮状をわかって、お部屋を用意してくださったの?」

 と彼女は聞くけど、まさか監禁するためだったとは言えないよ。結果オーライってことでいいのかな。


(お題:僕の夕日 制限時間:30分 文字数:1018字 )

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