第34話 大切なものは失ってから気づく
英霊を召喚できるとしたら、誰の霊にあって、話を聞きたいだろうか?僕はキュリー夫人かな?ラジウムなどの元素を発見して女性ながら、あの時代にノーベル賞をとるのはすごいよね。どうやって、元素を発見したのか聞いてみたいな。
そんな僕はノーベル賞とは程遠い三流大学で今日も学校さぼって、遊んでいます。授業もずっと出ていない。単位が足りるか心配だ。
僕が無気力になるのにも、わけがある。親父の会社がいまいち景気回復がされていない日本で、今経営難となって、傾きつつあるんだ。親父の手伝いをしたお袋はさ、もういやになって出て行ってしまったよ。僕は奨学金で大学に入ったけど、ああいうのを見ていると、自分も先行き不安でいいことなさそうに思い、いやになるね。お袋の行方を捜したんだけどさ、なかなか見つからなくて。もう僕も大学生だし、お袋のほうから、三行半を親父に提出したらしい。お袋は僕を育てながら会社の経営も手伝い、それなのに、親父は酒に女に溺れて、おまけに会社も破綻寸前だろ?誰だって、沈みかけた泥舟には乗りたくないさ。でも親父は離婚に反対し、お袋は強行手段に出て、行方知れず。どこかに逃げたらしい。
ある日、俺は大学の帰りに、高級マンションから出てくるお袋を見てしまったんだよ。高級マンションだからさ、最初男に囲われているかもって思ったよ。50近いけど、60代なんかの親父たちにとっては、もしかしたら、女に見えるかもしれないだろ?
真相はわからなくて、ずっとそのアパートを見ていたら、お袋に見つかってしまったよ。
「あのね、あの人からいただいたなけなしのお金で宝くじを買ったら8億円当たったの。それでこのマンションを買ったのよ。離婚届けは落ち着いたら送るわ」
あの疲れたお袋の姿はどこへやら。すっかりマダムになっていたよ。お袋も苦労して僕を育ててくれたもんなあ。あとはお袋の自由な人生でいいんじゃないかって思ってたんだ。
ところが、どこからかぎつけたのか親父がお袋の買ったマンションにやってきて、
「そもそも俺の金で宝くじを買って当たったんだから、このマンションは俺のものだ。すぐに売って、会社の借金に回してくれ」
って言い出したんだ。でも俺は、お袋にあげたお金なんだから、お袋のものだと思うんだけど、この場合、「行列のできる裁判所」なんかではどう判断されるんだろうな?結局、もめにもめて、民事の裁判だよ。裁判まで行くと、もうお互い離婚はやむなしって感じになったけど。僕は夫婦で裁判なんて、恥ずかしくてたまらなかったけど、それでも心配で成り行きを見守っていたよ。
出た判決はお袋の勝訴。当たり前すぎる話だけど、あげたお金っていうのはもうそのひとのものだよな。当たったお金で悠々自適の生活のできるお袋を幸せになれって、そう思ったけど、なんと僕の親権もお袋がとってくれて、今、一緒にそのマンションに住んでいるよ。親父の負債なんて負いたくないからなあ。
親父も自業自得というか、もっとお袋を大切にすべきだったなあ。いまから悔やんでも遅いが、大切なものは、うしなってからきづくんだよな。ほんと・・・・・・。
(お題:左の英霊 制限時間:30分 文字数:1314字 )
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます