第31話 「無冠の帝王」の転身
俺たち漫才コンビは「無冠の帝王」と言われている。それは、全国的な知名度があったにもかかわらず、各賞レースなどでは一度も賞を獲ったことが無いことから来ている。
最初はネタが問題かと思い、何度も練り直したが、そこは問題がないみたいだ。
「そうだ、顔じゃねーか?」
相方が言った。最近の漫才師は顔のいいやつも多い。うけなくなると、ちゃっかり俳優デビューしている。
「そういや、お前の顔、おもろいな~」
「おまえのほうが、ひどいわ」ということで、俺たちふたりは品○外科クリニックの前に立っていた。先生は漫才コンビのダブル整形と驚いた顔をしていたが、
「できるだけ、イケメンにお願いします」
と言った、俺たちの顔を見事に変えてくれた。
その顔で吉○興行に行くと、社長に
「お前たち、売り方替えんといかん」
と言われ、なぜかマイクを持たされ、歌と踊りのレッスンをさせられた。こうして、俺たちは漫才グループから転身してアイドルグループとしてデビューしたのだ。一応は売れて、新人賞ももらい、無冠の帝王からは脱出した。でも、俺たちは悶々とした。
「なあ、俺たち、漫才したかったとちゃう?」
「こんな、きゃあきゃあ言われてもうれしゅうないぜ」
「笑いがほしいんだよな」
「ネタあわせがしたい」
ということで俺たちはまた品○外科クリニックの前に立っていた。
「あのう、先生、もとにもどしてください」
品○先生は驚いたようだが、俺たちの顔を元に戻してくれた。
吉○興行に行ったら、
「おまえたち、売り方考えなければならないな」
と社長に言われ、また漫才師に戻ったのである。売れようと売れまいとしたいことやっているのが一番だ。
「やっとネタあわせができるな」
「やっぱ、ええなあ、お客さんに笑ってもらうっていうのはなあ」
無冠であろうとなんであろうとふたりには関係なかった。どんな小さな会場でも、少しでもお客さんの笑いが聞こえれば、それで満足だった。
新人賞をもらいながら突然消えた、アイドルグループは伝説のアイドルグループとして崇められて、写真集やグッズやCDが売れまくりだった。その印税を手にした社長は、ほくほく顔で、次の「無冠の帝王」の漫才グループを作ろうと画策していた。
(お題:帝王の整形 制限時間:30分 文字数:965字 )
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