第25話 善人役から犯人にされた俺
「きちんとした善」「きちんとした悪」たとえば、ヒーローもののような番組を見ていると、どうしても俺は眠くなってきてしまう。
人間はそもそも善悪が混じった存在なんだ。どっちを出すかで人間性というものが決まってくるから、俺は損得勘定で「悪」の部分を棚上げして、「善」の部分を出そうとしているのさ。
でもどうしても出せない状況にある俺は、最近悪役で賞を取った俳優だ。母ちゃんはますます、街を歩けなくなり、
「あんた、お願いだから悪役で有名になるよりも、善人で普通にしていておくれ」
と泣きつかれて、どうしたもんかと考えたんだ。
監督に、「おもに、悪役でやってきますが、ちょい役でもいいですから、善人役させてもらえませんかね?」
と、まだしつこく頼んでいた。
やっと、テレビで善人役のちょい役をもらって、テレビの端に出るようになったんだ。放送3回目からだったかな。ミステリーもので、犯人は俺ではなくて、ほかのやつ。おれは端役でも善人になれるのが嬉しかった。
でも俺が3回目から善人役で端役で出ているうちに、犯人は他のやつなのに、
「こいつが犯人じゃねーか?」
と白羽の矢を立てられちまった俺。回が進むごとに、犯人役の存在はかすみ、善人役の俺が犯人みたいな世論が流れ出した。
結局、犯人役のやつはドラマをおろされ、善人役と見せかけた俺が犯人になっちまうという最終回を迎えてしまったんだ。お袋にはさ、
「善人役になっとなれて、ちょい役だけど、見てね~」
なんて言っちゃって、
「ほんとかい?ほんとうに善人役になったんだね。有名な悪役より、善人のちょい役のほうが母さん嬉しいわ」
って、涙を流して俺の手をとって、お袋は喜んでくれたのに、いったいこの結末をどうしてくれるんだい?
「お前は悪役として光っているから、どうしてもこうなってしまうんだよな」って、おいおい、監督、笑っている場合じゃないだろ?善人に見せかけて悪人だったというオチで視聴率取れたなんて、撮影現場のやつらも喜んでるんじゃねー!俺とお袋の約束はいったいどうしてくれるんだ?
家に帰ったら、お袋に塩をまかれて、
「善人ぶった悪役なんて、最低だわ!もう出て行って!」
って言われたよ。かげで見ていたら塩をいっぱいまいて、お清めしていたなあ。なんでこうなるんだよ。
おれはまた○川美容外科の前に立っていた。今度は思い切って中に入ったが、○川先生は俺の手を取っていった。
「僕はあなたの悪役ぶりのファンなんですよ。顔、かえるなんて、もったいない。商売道具が台無しですよ」
と帰られてしまった。
俺はいったいこれからどうしたらいいんだ。監督は、
「善人に見せかけといて、実は犯人だったというのも、けっこううけるし、視聴率もとれる。またやろうな」
・・・ほとんど他人事だ。俺はこの前の最初善人だったドラマが当たって、また賞をもらった。母ちゃんからは、
「もう、いい加減に悪人で有名にならないでくれ」
と留守電があって、がちゃんと切られていた。
( お題:きちんとした善 制限時間:30分 文字数:1278字 )
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