第23話 夢コーディネーター
「では、特攻隊に志願するものは前へ!」
上官の呼びかけに全員が示し合わせたように、一歩後ろに下がる。
「おお。前田!よく志願してくれた!」
違う、違う。皆が後ろに下がっただけで俺は志願したわけではない。集団いじめとはこういうことか。
俺は、特攻員として今日飛び立つ。片道の燃料だけを乗せて・・・。いわば人間兵器だ。これほど高い武器もないだろう。敵艦に当たる前に言い残したいこと。そうだなあ・・・。
個人を大切にしない全体主義ほど馬鹿馬鹿しいものはない。人の命を大切にするのが国家だろ。いいかげんにしろ。ばっかやろー!!
こうして俺は遺品となる髪の毛を軍部のものに預け、飛び立ったのだ。だけど俺は知っていた。日本で開発されたこの零戦。やたら性能が悪くて、敵艦にぶち込む前にアメリカ軍に打ち落とされてしまうのがオチだ。運よく敵艦にぶちこんで死ねたものは、犬死ではなくそれだけでもよしとしよう。
いったいこんなこと、いつまでやるつもりなんだろうな。エンジンの故障で帰ってきたやつもいるが、肥溜めみたいなところにぶちこまれて、
「貴様、命が惜しくなったのか!」
と、ものすごい惨めな扱いを受けるのだ。みんな命が惜しいに決まってんじゃないか。別にそのひとたちもそれでも特攻し、本当にエンジンの具合が悪くて帰ってきたのに、なにを言うのだ。
と考えているうちに、どうやら敵艦が近づいてきた。打ち落とされる前に敵にぶちこめるらしい。俺の飛行機は、敵の艦隊にはいっていった。赤い炎が俺を包んだ。
熱い、俺はどうなるんだ。熱い・・・。
**
そこで、わたしは、はっと目が覚めた。いったいこの夢を何年見続けているのだろう。だんだん死の様子がはっきりしてくる。前世は特攻隊員だったと感じる脳の部分があるんだろうか。
精神科に行って、私は自分の前世を話す。
「う~ん、眠りが浅いんですね。眠りを深める薬を出しておきましょう」
「お願いします」
また一種類眠りを深める薬が出された。それを飲んでみると、確かにあのリアルな夢はみなくなった。しかし、朝起きると、精神的疲労が激しいのだ。それはまるで、敵艦につっこんだあとみたいに。
意識してもしなくても、どうやら毎晩、敵艦につっこむことは同じらしい。なぜ夢をみるかは解明されないが、夢というのも、一種のパラレルワールドだ。
特攻隊に入る前の俺は東南アジアで戦っていた。敵軍と打ち合う俺の精神はにえたぎっていた。当たらないように、隠れては撃つ。また隠れては撃つ。
**
またかとため息をつく。薬に耐性ができると私はまた夢をみる。夢はなぜか男の人生をさかのぼっていく。特攻隊の前は東南アジア。前世の男も大変だったなあ。
精神科に行って、また説明する。もっと眠りを深くする薬が出される。しばらくは夢をみないが、朝から戦い疲れている。
なんて理不尽な前世だったんだろう。これしか私の前世はないのだろうか。
**
また夢を見た。『夢コーディネーター』というひとが出てきた。
「あなたの前世は、フランス革命で殺される貴族と魔女狩りで焼かれる女と、ユダヤ人として迫害されるものがありますがどれがいいですか」
「このままでいいです」
仕方なく呟いた。
(お題:高い武器 制限時間:30分 文字数:1385字 )
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