第22話 美麗ちゃんのチョコの行方

 二月を過ぎた頃からの男子は、皆ドキドキとする。なぜならば、二月十四日は男の真価が試される日だからである。そんなマドンナからの本命チョコなんてもらえるはずがないから気にはしていない。義理チョコが命だ。もしかしたら、ひとつ十円のチロルチョコにも、『大好きです』なんて手紙もついてくるかもしれない。二月十四日までにどれだけ自分をいいひとにみせるかが、問題だ。


 昨日、皆が帰ってから自分で書いた、マドンナと自分の相合傘の落書きを、

「誰だよ~。こんなの、書いたの」

 わざとらしく消す。黒板と言うのは実にさりげなく使える愛すべきアイテムだ。マドンナ美麗さんのほうを見ると、ちょっと顔が赤くなっているような気がする。マドンナからのチョコだったら義理でもなんでも構わない。


「あ~、数学のノート忘れちゃったあ」 

 美麗ちゃんが声を挙げている。ここぞとばかりに皆新しいノートを持って美麗ちゃんのところに集まっている。もちろん僕もそうだ。

「よかったら、美麗ちゃん、このノート使って」

「あ、こっちのほうが書きやすいよ」

「これ、新しいからさ、美麗ちゃんがよかったら数学のノートにして」


 こんなに男子の集団が集まったら美麗ちゃんも困ってしまうだろう。みんな腹の中では美麗ちゃんのチョコをいただくことしかないのだろう。

「美麗、こんなノートを出されても困っちゃう・・・」

 そりゃそうだろう。ちょっと泣き顔になっている美麗ちゃんが余計に可愛く見える。


 クラスの女子はそんな美麗のモテモテぶりが面白くないらしく、白けた顔で見ている。そのうちにその女子たちがノートを忘れちゃったと言い出し、男性陣が差し出したノートを皆持っていってしまった。美麗ちゃんの手に残ったノートは俺のノートだった。ラッキーだ。このままバレンタインまで幸運が続くといいが・・・。


 いよいよバレンタインの日がやってきた。皆、美麗ちゃんの行動に釘付けだ・・・。ここまで、美麗ちゃんにはチョコを渡そうとする動きはなかった。皆、なんとはなしに放課後、用もないくせに教室に残っていた。


 美麗ちゃんがかわいいバッグからバレンタインのチョコを取り出した。そして、さっと歩いていった先は・・・。僕だった。皆羨望のまなざしを僕に向けている。少しはアピールが利いたのかな?

「あのう、これ」

 うん、うん、美麗ちゃん!なあに?

「あなた・・・の」

 うん、うん、それで?

「飼っているチャッピーちゃんに渡してください。一目ぼれしちゃって」


 ・・・って犬かよ!

 だいたい、犬にチョコって食べさせていいのか?まずいんじゃなかったかな?

「お願いね。また抱っこさせて、チューさせてね」

 美麗ちゃんは、走り去って行った。皆唖然、茫然だ。


 俺は犬以下の存在なのか?チャッピー、俺はお前がうらやましい。


 僕のバレンタインは犬に負けて、最悪に終わった。


(お題:愛すべき黒板 制限時間:30分 文字数:1217字 )

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