第21話 俺はやっていない!誤解だ!

「お、俺はやっていない」

 一生懸命、誤解を解こうとしたが、美紀は証拠品を手に入れたとばかりに俺に詰め寄っている。

「じゃあ、これはなんなの?」

 どこから見つけたんだ?美紀が手にしているのは、クリスマスカードだった。

「来年も一緒にクリスマスイブを過ごしたいなって、何よ、これ?」

 美紀の顔には怒りの色が現れていた。

「ひとりで、美紀は寂しいクリスマスを過ごしたんじゃないの」

 そして、俺の携帯のアドレス欄を、水戸黄門の印籠のように見せつけた。

「なんで、勝手に俺の携帯を・・・」

「あなたが怪しいからでしょ。女のアドレスばかりじゃない?メールだって、『とっても楽しかったです。またお会いしたいです』ってそればっかりで!いったいなんなの?」

「いや、誤解だ、誤解なんだ」 

「もう私たち、お別れね」

「ちょっと、待ってくれ」


 修羅場だ。だって、本当になんにもしてないんだよ。しようがないではないか。

「美紀、クリスマスカードがあっても、メールに女のアドレスがあろうとも、そんなメールがあろうとも、そんな浮気なんてしようがないではないのか?」

「どういうこと?」


 俺たちは校庭の片隅で話していたが、チャイムがなったので、急いで教室に戻った。間に合った。先生がやってくると、呼びかけのお当番が

「起立、礼」

 と授業が始まった。美紀は俺を無視したままだ。

「皆さん、今日は、引き算の授業をします」

 先生が黒板に問題を書いていく。

「11-9=

18-9=

13-7=

14-6=

18-6=・・・・・・」

 先生は俺たちのほうを向くと、

「はい、わかるひと、手をあげて!」

と微笑んだ。皆『はーい』と手を挙げる。美紀も手を挙げている。あいつ、すげーな。まじ、俺わかんねーよ。引き算も二桁になってから、さっぱりわかんなくなっちまった。

「では、手を挙げてない前園くん」

 って、俺かよ!しぶしぶ黒板の前にいって、手をつかいかがら考えている俺を一年一組の皆が笑う。

 まじ、わからん。それにしてもクリスマスカードを小学校の机に入れて帰るんじゃなかったよ。それにアドレスの名前って、3年生と6年生のおねえちゃんとお母さんのアドレスだよ。全く今日はついてないよ。メールも習い事が同じ子からなのに・・・。


 桜ヶ丘小学校は今日も平和な日々である。


(お題:黒尽くめの誤解 制限時間:30分 文字数:998字 )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る