第14話 醜形恐怖からの脱却

 私の生まれ故郷は港町です。海が綺麗なところで育ちました。いやなことがあったとき、よく海に行きました。煌く波が寄せては返すのを見ていると、とても心が落ち着いたのを覚えています。


 私は高校に入学しましたが、登校拒否になり、高校を辞めました。それから、高認の試験を受けて、高校卒業の資格をとりました。


 なんで高校を辞めたかは、すべてがつまらなくなり、生きていても仕方がないと閉じこもるようになったからです。私には、高校に入ってから、好きな人ができました。その人は、スポーツマンで頭もよくスーパーマンみたいな人でした。だからみんな遠巻きに見ているだけでした。でも私は人生に後悔をしたくなかったので、告白することにしました。


 その男子を高校の屋上に呼び出しました。

「急にごめんね、呼び出して」

「うん、いいよ」

 こういう場には慣れているのか、男子は緊張するわけでもなく、いたって、普通の状態でした。


「あのね、つきあってくれない?」

 私は単刀直入に言いました。

「ごめん、無理!」

 即答でした。

「どこが、駄目?」

 私は追いすがりました。

「う~ん、そうだな。どこって言われても困るけど。顔とスタイルがタイプじゃなくて、性格も合わなさそうだし、頭の悪いとこもいやだし、スポーツでどんくさいとこも、ちょっとな・・・」

 情け容赦ない言葉に、

「それって、全部じゃん!」

 と、私はほぼ泣きそうになりました。こんなつらい現実があってもいいのでしょうか?

「まっ、そういうことだから、じゃあね」

 男子は振り返ることなく、屋上から去っていきました。私はこのまま飛び降りて死んでしまいたい欲求に駆られましたが、なんとか我慢しました。


 世の中にはかわいくてなんでもできる女子がいるのに、私はこんなふうに生まれて不公平だと思いました。それからというもの、外出すると、皆が笑っているような気がして、外に出られなくなりました。こうして、私の閉じこもりが始まりました。

親にカウンセリングに連れて行かれました。「醜顔恐怖ではないか」と言われました。この手の病気のひとは何度も整形を繰り返したりするそうで、芸能人にも多いそうです。


「そんなに人は顔なんて気にしていないし、ありのままを受け入れるのが一番」

 だと言われました。整形も考えましたが、あそこを直したら、またあそこと癖になりそうなので、やめました。


 でも結局ふっきれたのは、年配の叔母に、

「顔とか若さで生きていけるのって、せいぜい25歳くらいまでじゃないの?年とれば、みんな一緒よ。それより今、できることを頑張ってみなさいよ」

 と言われたことでした。では、年をとってからは女性はどう生きていけばいいのかは気になりましたが、とにかくできることといったら、高認の試験に受かることしか思いつかなかったので、それをうけてなんとか合格して、高卒の資格をもらいました。


 叔母にいろいろ聞きました。顔の美しさだけが美しさではないことを・・・。女性にはいろいろな美しさがあるそうです。私は絵を描くことが好きでした。

「それを頑張ってみたら?」

 と言われて、描き続けました。皆は私の絵を美しいと言ってくれました。顔が美しくなくても、絵を通して、美しさを伝えられることを知りました。


「どんな媒体でもいいのよ」

 と叔母は言っていました。音楽のすばらしい響きや、物語の美しさ、綺麗な写真。ためになる経験談。

美しさを伝えるものはたくさんあることを知りました。だから私は決して綺麗ではないけど、絵を通じて、美しさを感じてもらおうとしています。そうしているうちに、すっかり醜形恐怖から脱出できました。


「顔が美しいってことがてっとり早いけどね、あれはあれで大変みたいよ」

 と叔母が言いました。叔母の友人で、顔が綺麗な人がいるけど、追いかけられたり、告白されたり、ストーカーに合ったりで、自分の時間もなく、好きな人にたどりつけないと言っていたそうです。


 美人ってこともどうなんだろうと思いました。負け惜しみではないけれど、私はそんなことで時間をとられるよりは、絵を描いて、「美しさ」というものを伝えていきたいです。


 それに叔母は言いました。

「女性を若さとか顔の綺麗さで決める人なんて、底が浅くて、中身がないのよ」

 と。


 女性の深い部分での「美」がわかる人こそが、本当人間性豊かな男性なのだそうです。

 私は深い部分がわかり合える人とお付き合いしたいし、一緒にいたいと思いました。


 そんなわけで私の経験談を長く書いてしまいましたが、私はかけがえのない自分というものをたいせつにしていきたいと思いました。


( お題:輝く故郷 必須要素:高認 制限時間:1時間 文字数:1956字 )


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