第10話 ナミーの不思議な物語

 むかしむかし、あるところにすごい草むらの向こう側には、白亜の美しいお城がありました。そこに身も心も美しく、誰もが憧れるお姫様が住んでいました。お姫さまの両親はそろそろお姫様を結婚させたいと思っていました。そして城下の街におふれを出しました。


「姫の結婚相手求む」

 なんとそれだけのおふれでした。皆はあっけにとられました。


「普通は、結婚に条件があるだろう?」

「ましてや身も心も美しいあの姫だぞ」

「対象年齢は?」

「容姿の基準は?」

「収入は?」

「身分は?」


 なんにもおふれには書いてありませんでした。草むらの向こう側にある白亜のお城からは何にも情報は入ってきません。


 とりあえず、男性たちはそこそこの男を選出して、白亜の城に行かせました。なぜ最高の男を出さなかったかといえば、そこで婚約が決まってしまったら、面白くもないからです。


 こうして、容姿も身分もすべてが普通のナミーという男がお城に向かうことになりました。

「頑張れよ、ナミー」

「お前でだいたい基準がわかるからな」


 なにもかも平均として送り出されたナミーとしては、もちろん面白くはありません。自分によって、

お姫様の結婚相手の基準が決まるなんて、なんでそんなアホらしい役回りをさせられてしまったのかと思いました。


 城下のものたちは、ナミーがなかなか帰ってこないので心配しました。


 その頃、ナミーは先生を探して、剣術を一生懸命習いました。

 城下の本の貸しどころに寄って、たくさんの本を読みました。

 ぼさぼさだった髪を床屋でカットしてもらい、温泉に浸かって、肌を磨きました。

 剣術のトレーニングで、素晴らしいからだつきになりました。

お姫様に合うように、品もマナーも磨きました。

 剣術や学問を教えて、たくさんの収入を得るようになりました。

 「先生」と呼ばれる身分になりました。


 こうして、後光がさす男となったナミーはお姫様のところへ行きました。


 お城ではナミーの後光がキラキラと差し、皆びっくりしました。


「お姫様、どうか私と結婚してください」

 後光を輝かせながら、ナミーは言いました。

「はい」

 お姫様は即答でした。

「その後光は、いろいろなご苦労の末に得られたもの。自分にないものですから、余計にわかりました」

 お姫様はすべてお見通しでした。


 城下では、ナミーがお姫様を射止めたという噂が広がりました。


「あんな平均点男で良かったのか!」

「俺たちもいくぞ!」

「さあ、ナミーとお姫様が結婚しないうちに」


 我こそはと思う、平均点以上を自負する男たちが次々とお城に押し寄せました。でも、お姫様は言いました。

「ごめんなさい。結婚相手はこのかたに決めましたの」

 お姫様の横には、後光で煌いている素晴らしい男性がいました。皆、それをナミーだとは気づきませんでした。


「なんだ、最初からあんなにすばらしい男がいたんだ」

「ナミーは断られて、恥ずかしくて帰ってこれなかったんだな」

「なんだ!せっかく来たのに、これはやらせか?」


 そんな民衆にお姫様は言いました。

「毎日、向上心を持って、努力するということは素晴らしいことです。このかたは、それを私に教えてくれたのです。私は生まれながらの姫であり、そんなに素晴らしいこととは知りませんでした」


 お姫様の言うことは、城下の男たちにはほとんど意味不明でした。


「努力、なんだそれ?」

「向上心ってどんな意味だ?」

 

 ナミーはお姫様と結婚してからも努力を続けました。国王となってからは、自分のための努力だけでなく、民たちがいつも幸せで潤うように、民のためにも努力を続けました。


 こうして、この国は潤い、素晴らしい国になりました。民たちは国王を尊敬して崇めました。


 ある日、国王は馬車で城下に出かけました。

「国王様~」

 皆の歓声があがります。国王が馬車から降りてきたので、城下のものたちはびっくりしました。


「国王様!」

 皆が国王様を一目見ようと集まってきました。


「皆様、お元気ですか?私はナミーです」

「ええええええ!」

「まさか、そんな!」

 

 皆がよくよく見てみると、本当にナミーの面影がありました。

「ほんとうにナミー、いえ、ナミーさまなんですか?」

「はい、そうです」


 ナミーが微笑むと、白い歯がきらりと光り、後光がさしました。


 いつかお姫様が言っていたことを誰かが思い出しました。

「もしかしたら、そうなれたのは、努力とか、向上心ですか?」


 国王は微笑みました。

「結果は出なくてもいいんです。なにかひとつコレだと思うものを毎日楽しみながら、ちょっと頑張ってみるだけです」


 民たちは後光のさす国王に言われて、早速何かひとつでも楽しく頑張ることを見つけて、実践し始めました。


 ひとりひとりの力は小さくても、それがたくさん集まれば、素晴らしい大きなものができあがるというもの。


 ナミーの王国は、作物も豊かで民が教養にあふれ、共感能力にも優れた素晴らしい国になりました。


「努力の結果はいいんです。その過程を楽しみましょう」

 国王のナミーは今日も民に話しかけます。



 *****


 『ナミーの不思議な物語』を読んだ智香は思いました。

「今日、私、なにかひとつでも頑張ろうとしたかな?」

 全然してないことに気がつきました。そうだ、本を読むのが好きだから明日図書室に行って、なにか借りて、ちょっとずつ、楽しみながら読んでみようかな。

 高校二年生の智香は、ちょっとワクワクしました。キッチンではお母さんがなにかを作っている音がしました。

「今日はカレーかな?」

 智香はくんくんと匂いを嗅ぎながら、明日の授業の支度をして教科書をカバンにつめこみました。


(お題:すごい草 必須要素:むかしむかし、あるところに 制限時間:1時間 文字数:2435字 )

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