第6話 図書ストーカー女
桜ヶ丘高校・図書委員会。そこではいつも、いろいろな舞台が繰り広げられている。私の名前は琴、高校1年生。図書委員に立候補したのは、『暇そうでいいかな~』ってそれだけのこと。
いつも図書委員会は二週間に一度開かれる。委員長は、三年の水戸先輩。真面目男子。最後に入ってきたおっさんは前川先生。いつも変なパーカーとズボンのよれよれの50歳。委員会にかけては、全くやる気なし。
皆だいたいやる気がないから、うちの高校の図書室は雑然としている。まるで倉庫か何かみたいなので、学校の皆は隣りの綺麗な市立図書館に行く。
だったらまったくやる意味ないじゃんって思うんだけど、このパーカーのおっさんは、なぜか出欠だけはよくとるから、仕方なく委員会に行く。
「えっと、図書委員会を始めます」
真面目男子の水戸先輩が開会の宣言をする。
「何か問題はありませんか」
し~んと場内が静まり返る。問題がないっつーか、問題の山積みで話せばきりがない。本は雑然と置かれて、分類ことには並んでないし、貸し借りの受付は皆サボるので、勝手に借りて返された本が無造作さに置かれている。貸し借りカードもちらばって、もはや無法地帯と成り果てた図書室。
「問題といわれても、すべてが問題だ」
と誰もが思いつつ、
「じゃあ、お前がやれよ」
と言われるのがいやで、誰も口出しできない状況だ。そのうえ、パーカーのおっさんも言う。
「皆よくやってくれているから、問題ないよな」
「では、問題もないようなので、これで解散します」
と、真面目男子の水戸先輩。
私と同学年の塔子はいつも顔を見合わせて、こそこそ話し出す。
「あれでよく、いつも委員会、終われるよね」
「ほんとだね」
委員長の水戸先輩は、『図書委員、問題なし』と議事録を生徒会に提出する。その生徒会さえ荒れ果てて、資料の山済みで倉庫化しているから、きっとそんな議事録も見てもらってないに違いない。
「まあ、いいけどさ、別に私たちの代じゃないし・・・・・・。ね、琴?」
「う、うん。そうだ・・・・・・ね、と、塔子」
そうは答えたものの、これでいいのかとも思ってしまう。このツケは私たちに回ってくるのだろうか。そういえば、どこの委員会も適当で、どの委員会室も雑然としていた。
そんなときに、次期生徒会長の選挙があり、このだらけた学園を建て直そうとする風雲児が現れた。彼の名は出来 杉哉。このだらけた学園を再構築すべく立ち上がった戦士である。皆、出来 杉哉に期待して、彼は生徒会長になった。
彼はとりまきを引き連れて、ひとつひとつの委員会の査察に訪れた。今までの惨状を隠すべく、水戸先輩は少しでもと本を片付けたが、
「う~ん、分類どおりに配置されていないし、図書カードもばらばらではないか」
と言うが早いか、ひとりでさっさと分類どおりに本を並べ、図書カードを整理し、倉庫のようだった図書室を5分できれいにした。
「ああ、2分でやろうと思っていたのに、5分もかかってしまった」
と悔しそうに言い、次の委員会の査察に向かった。どこもそんな感じで、早くて2分、遅くて5分で委員会室を綺麗にし、問題点を指摘すると、次に向かった。
そんなできすぎる、出来 杉哉を女子がほっとくわけがない。出来 杉哉がそこを通るだけで女子の歓声があがった。
もちろん私だって、出来先輩を見ると、鼓動が高鳴って、胸がドキドキした。図書委員会は特に荒れていたらしく、出来先輩も査察で、来るようになった。私は2週間に一度、出来先輩に会えることを楽しみにしていた。
出来先輩は図書室からいろいろな本を借りていった。それは、文学、経済学、歴史、物理学、語学など幅広い分野にわたった。私は出来先輩が借りて返した本を、すぐに借りて、出来先輩の下に名前を書くことが自分の誇りのようになっていた。先輩の返した本はすぐ借りて、私の名前を出来先輩のあとに書く。そんな図書カードを見るたびに私はにやにやした。図書委員の特権だ。
でも私はある日、不思議なことに気づく。私が読んだ本の下に必ず出来先輩の名前が書かれていることに気づいたのだ。つまり、図書カードは出来先輩、私、出来先輩の名前にどれもなっていた。どういうことなのだろうか?私は考えても考えても、眠れなくなり、ついに査察に訪れた出来先輩に聞いてしまったのである。
「あの、出来先輩。図書カードですが、出来先輩の下に私の名前があって、それで出来先輩の名前がありますよね?これはどういうわけですか?」
出来先輩は微笑んだ。
「これ?特に意味はないけど・・・・・・」
って、私は出来先輩の読んだ本を読んでいるだけなので、結局は自分の興味のある本を二度読みしていることになるんだけど・・・・・・。
そういいたかったが、やめておいた。そんなことは頭のいい出来先輩なら気づいているのだろう。ならば、この図書カードのあらわす意味は、どう考えても告白だ。私の読んでいる本に興味があると。
「出来先輩」
と、私は心の中でつぶやいた。
「私も好きです」
ところが私は聞いてしまったのだ。
「僕は一応、本は間をあけて二度読みすることにしているんだ。一度目では味わえなかったものを感じるかもしれないからね、一応」
って、が~ん。私全く、関係ないじゃん。っていうか、私、間に名前入れて、おかしくない?
「なんか、最近ストーカーみたいな女子がいるんだよね。僕の借りた本に必ず名前を書きこみ・・・・・・」
それ以上はショックで聞けなかった。それから私は出来先輩が二度読みしたあとに密かに本を借りている・・・・・・。
(お題:最後のおっさん 必須要素:パーカー 制限時間:1時間 文字数:2354字 )
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます