第2話 幸せのフルーツパスタ
「夏になると、無駄毛のお手入れは欠かせません。匂いがつくと人さまにもご迷惑をおかけするものです。私は、テレビを見ながら、足のお手入れをしていたのです。我が家には2歳になったなかりの赤ちゃんがいました。子育てしていると、本当にいろいろな思いがけない出来事に合うもんです。
足のお手入れをしていた私に起こった出来事とは!
テレビがお空から降ってきたのです。咄嗟によけて、ひざを打って内出血したくらいで済んだのですが……。
寝たと思っていた息子が、何を思ったのか、まだブラウン管だったテレビを後ろから、すごい力で落としたわけでして……。ちょうど、私は真下にいた……!
まだ善悪がわかる年齢ではないし、留め具などをしていなかった、自分の責任であります。
が、まさかテレビがお空から降ってくるとは思いませんでした。
我が家の子育て珍百景は、まだいっぱいあります。
急に息子が、すごい勢いで突進してきて、私は全治一カ月の打撲をして、整形外科に通ったこともあります」
◇ ◇ ◇
「母ちゃん。幼稚園で、誕生会のとき小さかったころのお話をするのはわかるけど、そんな話、いらないよ」
どこか覚めた息子である、江藤少年はつばを飛ばして話しまくる母を見て、しらけていた。まわりもしらけている。先生が一生懸命に言葉を紡ぐ。
「お母さんも大変だったんですね。面白いお話でしたね」
しい~ん!
先生の明るい声だけが浮き、あたりは不気味な静寂に包まれていた。
家に帰ると母ちゃんがまた一生懸命語りだした。
「私の話、よかったでしょ。あまりにうけて、皆笑うの、忘れていたね」
って、どうしてそんな解釈ができるんだ!俺は、俺は、俺は……。そんな母ちゃんがっ!
かわいい!
「よかったよ。ママの話、楽しくてみんな呆気にとられていたね」
「うん、うん。きっと皆まだ幼いから笑うつぼがわからないのよ」
「僕は大人だから、笑うつぼがわかったよ」
「あなたは、そうよね」
◇ ◇ ◇
僕には前世の記憶があった。まったくモテない青年で、女性に縁がないまま死んだ。死んだら、閻魔大王室の前で、面接をうけるがごとく、座って待っていた。
三人の面接官がいた。主に面接を行っているのは、閻魔大王さまらしかった。
「死亡動機は?」
「あの……、全然モテなくて、どうでもいいやと思って酒ばかり飲んでいたら、肝硬変に」
「次は生まれ代わりたいのか、どうなんだ!」
三人の鬼に詰め寄られている。これが、圧迫面接というものだろうか?
「そのう、モテなかったら、別にそのままでいいです」
「そうか……。じゃあおまえには、女難の人生を授けよう。女に苦労するようなすばらしい人生だ」
「いや、別に。苦労はしたくないから、普通に女性と接することができたらいいんです」
「なに!俺様の決めた人生に文句があるのか!」
パワハラじゃないっすか、これは。
「じゃあ、第一次試験、合格。次は、合同面接でディスカッションしてもらうから」
なんですか。これは……。
二次試験は閻魔大王の前で死人7名で「死亡動機について」ディスカッションした俺たち。次の人生では間違いがないようにってことらしい。
ここで3名が残って、最終面接になった。閻魔大王とのふたりきりの面接だ。
「次の人生でやりたいことは?」
「生きる意味とは?」
矢継ぎばやに飛んでくる質問にとにかく答える。なぜか筆記試験まであって、
「合格だ」
と閻魔大王と握手をした次の瞬間、意識を失った。
◇ ◇ ◇
気がついたら、俺は母ちゃんという存在にいつも抱っこをされて、すりすりされていた。た、確かに前の人生よりは、女の人との接点はあるようだ。前世は孤児だったからなあ。
女難というのは、この母ちゃんの存在だった。なんか、ポイントとずれているというのか、一緒にいて恥ずかしいのだ。でも俺は以前の孤独な人生を考えると、母ちゃんがかわいいっ!
「ねえ、今日、フルーツパスタを作ろうと思って、スパゲティにジャムを絡めて、キウイとパイナップルを乗せてみたんだけど、どう?」
「おいしいよ、ママ!ママの作る料理は最高さ」
周りから見れば馬鹿親子ととられているに違いない。でも、俺は、俺は、俺は……。
これが幸せなんだあ!
◇ ◇ ◇
人の幸せなんて、傍からはわからないもんさ。
本人が満足していれば、それで、よしっと。
(題:くさい脱毛 制限時間:1時間 文字数:1902字 )
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