第12話 さらば、石膏ボーイズ

 石膏ボーイズは自らの強さを証明した。弱者は帰っていった。

 彼らもすっかり有名になって仕事に引っ張りだこだった。

 それはアイドルとして喜ぶべきことだったが、則美は彼らが遠くに行ってしまうみたいで寂しそうだった。

 茉莉香はよく彼女から愚痴を聞かされるようになった。

 でも、応援する気持ちは変わらない。

 そんなある日、登校すると校庭にスペースシャトルが止まっていた。

 もう驚かないと思っていた茉莉香は久しぶりにびっくりした。

 待っていた校長先生や石膏ボーイズに挨拶をする。


「校長先生、これは何ですか?」

「茉莉香君、今までご苦労だった。それも今日までだよ」

「え……」

「次の勤務地が決まったんだ」


 まったく寝耳に水だった。

 焦る気持ちを抑えて、茉莉香は石膏ボーイズに訊ねた。


「どこへ行くんですか?」

「月さ」

「あの空に浮かぶ月に行くんだよ」

「今は朝でうっすらとしか見えないけどね。今度は月で僕達の活動をするんだ」

「そのためのスペースシャトルであり免許なのさ」

「そう……ですか」


 すぐに実感が湧かない。

 そこに則美が走ってきた。彼女は泣いていた。


「石膏ボーイズ様、行ってしまうって本当ですか?」

「ああ、次のステージへ進む時が来たんだ」

「君にも世話になったね」

「これからも僕達のことを応援して欲しい」

「元気でね」

「はい……あたし石膏ボーイズ様のことを応援しています……!」


 則美は涙ぐみながらも精一杯の笑顔を浮かべようと頑張った。

 彼らは次へ進むのだ。ならば気持ちよく送り出さないといけなかった。

 彼らはアイドルなのだから。世界中に笑顔を届けるのが使命なのだから。


「良い旅を」


 里は優しい笑みを浮かべて手を振った。

 今日の彼女はペンを動かしていなかった。

 いつもスケッチばかりしていた彼女でも、今日ばかりは目の前の光景を焼き付けておくことを優先しているらしかった。

 校長先生が声を掛けてくる。


「それじゃあ、茉莉香君。最後の仕事を」

「はい」


 茉莉香は石膏像をスペースシャトルに運んで乗せた。

 それはいつもと同じ作業だったけれど、いつもより重く感じられた。

 石膏ボーイズは別れよりもこれからのことを考えているようだ。

 仲間内で楽しそうに喋っている。彼らは未来へ進んでいく。

 だから茉莉香も快く送り出そうと決めた。


「それじゃあ、次の勤務地でも頑張ってね」

「また暇が出来たら遊びに来るよ」

「その時はよろしくね」

「上手い食べ物を用意しておいてね」

「じゃあねー」


 石膏ボーイズは飛び立っていった。

 最後まで明るい自分勝手な連中だった。

 彼らはアイドルだ。その活躍はこれからも続くのだろう。

 月に向かっていくスペースシャトルを茉莉香達はいつまでも見送っていた。



 彼らの活躍はそれからもよくニュースになっていた。

 別れたのに何だか身近にいるようで実感の湧かない不思議な気分だった。

 テレビの画面を隔てた向こうに彼らはいる。

 則美は彼らのグッズを集めながら楽しそうに過ごしている。

 今日も教室のテレビで石膏ボーイズを応援していた。

 里は今日も絵を描いている。

 石膏像には一通り満足し、また新しい物を描き始めたようだ。

 茉莉香達は応援している。今ではファンの一員として。


「頑張れ、石膏ボーイズ」

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石膏ボーイズのいる高校生活 けろよん @keroyon

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