第11話 挑戦者たち

 仕事にもだいぶ慣れてきたある日。

 教室の後ろの棚から石膏ボーイズに見守られたいつもの授業を受けていると、窓の外から大きな声がした。

 校庭の方だ。

 みんなが外を見ると、そこには何故かどこかで見たような大仏があった。それが喋った。


「わしは奈良の大仏! 石膏ボーイズよ、どちらが最強の像か勝負を申し込む!」


 どうやら彼は奈良の大仏のようだった。

 どうやって来たのか分からないが、東大寺はどうしたのか分からないが、実際に校庭にいるんだから何らかの手段を使ってここまで来たのだろう。

 教室のみんなもさすがにざわついた。


「決闘だってよ」

「いったいどっちが勝つんだ」

「石膏ボーイズ様に決まっているわ」


 主に決闘のことについて。

 奈良の大仏が来たことには誰も疑問を感じなかったようだ。

 日頃から石膏ボーイズに慣れ親しんでいるから当然か。

 茉莉香も大分環境に慣れてきていた。

 先生が教卓から音を鳴らしてみんなの注目を集めた。


「みなさん、静粛に。それで石膏ボーイズの皆さん、どうしますか?」

「どうしますかと言われるとなあ」

「どうしようかなあ」

「無理に受ける必要もないけれど」

「逃げると思われるのも癪だよね」


 みんなが石膏ボーイズの動向に注目している。その瞳に現れているのは期待だった。

 石膏ボーイズは笑ったようだった。


「やれやれ、俺達も有名になったもんだな」

「期待には答えないとね。アイドルとして」

「ドラゴン以来のやりがいのある相手になりそうだ」

「僕達なら出来るよね」


 石膏ボーイズがそうやる気を見せた時、校庭に新たな影が現れた。


「ちょっと待った! 俺を差し置いて最強を決めようとは笑止千万なり!」


 太陽の塔が現れた。万博のシンボルとして建造された変な顔をした白い塔だ。

 どうやって来たのか、いつの間に来たのか、茉莉香は首を傾げるばかりだったが。新たな影がさらに現れる。


「最強? それはすでに決まっている。知名度も大きさもそして新しさも! この我にな!」


 東京スカイツリーが現れた。

 もう本当に首を傾げるばかりだが、現れたのだからしょうがなかった。

 像でなくても石膏ボーイズに対抗心を持つのだろうか。

 茉莉香がそう思っていると、さらに空から声が響いた。


「図体ばかりでかい奴らが集まって」

「強さとは力で決まる物ではない!」

「数こそが正義!」

「「「我々こそが最強さ!」」」


 この前仕事で一緒だった三十三間の仏像もやって来た。

 今度ははっきりと分かった。飛んできた。

 何で飛んできたかは分からないが、それは則美が知っていた。


「トリックね」

「トリック?」

「テレビで言っていたの。最近空を飛んだり、不思議な光を発射したりするトリックが流行っているんだって」

「へえ」


 となると、スカイツリーや太陽の塔が現れたのも何らかのトリックだったのだろうか。

 そう思うと何だか納得できる気分だった。

 というか納得するしか無かった。

 石膏ボーイズは外に集まった連中を睥睨する。


「よくもまあこれだけ集まったもんだ」

「でも、挑戦者が国内だけっていうところにまだマイナーさを感じるね」

「僕達は世界を狙ってるからね」

「それじゃあ、いっちょやりますか」


 ともあれ、戦いが始まった。

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